「家の外と内+中間の領域で、季節の移り変わりを実感してほしい」。札幌のヨシケン一級建築士事務所は、そんな思いを込め、地材地消で自然素材を使った、高断熱・高気密な「北海道スタンダード」の住宅づくりで支持を集めています。

札幌市内の高台に位置する住宅街に建つYさんのお宅。道産トドマツの羽目板を縦張りにした三角屋根の外観が、自然の風景によく合っています。

敷地は南側が急斜面になった傾斜地で、家づくりにあたっては、この土地条件を活かした設計と技術が必要でした。Yさんとヨシケン一級建築士事務所の家づくりについて、話を伺います。
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他社で建築を断られた土地で希望の住まいを実現

南に面したリビングには上下に大きな窓を設けています。窓の向こうにはリビングの床面と同じ高さのウッドデッキがあり、空間がより広く感じられます。雑木林や、その向こうに街並みを望む、最高のロケーションです。
Yさんは20代と30代のご夫婦と、2歳半の息子さんの3人家族。家づくりのきっかけについてお聞きすると、「ずっと自分が一軒家で育ったので、マイホームは一戸建てを考えていました」と奥さま。
「以前は賃貸アパートに暮らしていましたが、家賃の支払いを考えると、早くマイホームを持ってローン返済に回したほうが効率的だと考えていました」とご主人。

新居のLDKは薪ストーブを中心にすっきりと心地よい空間が広がる
住宅会社探しを本格的に始めたYさんは、同時に土地探しもしていて、この土地も候補の1つでした。
Yさん「場所や眺めが気に入っていましたが、他社さんでは、この土地は無理だと言われたことがあり、諦めていました。ところがヨシケンさんに出合って、土地探しも一緒にしてもらったところ、偶然この土地も候補にあげてくれて、『面白い土地ですね』と言ってくれたんです。それがとても嬉しく、決め手の1つになりました」。
自然豊かな風景に似合う薪ストーブのある家を希望

雑木林の葉が落ちる冬季は、街並みがよく見え、特に夜景の美しさは格別だとか。雑木林にはリスや野鳥などが訪れ、家に居ながら自然を感じられる別荘のような暮らしを楽しんでいます。
Yさんは住宅会社を探していた時に、ヨシケン一級建築士事務所が手掛けたニセコの住宅
「羊蹄を望む家」(同社ホームページ)を偶然見つけました。
リビングの大開口から羊蹄山を眺めることができる大らかな空間設計や、薪ストーブが似合う天然木を使った仕上げなどに魅せられ、問い合わせることに。担当した吉田専務の気さくで話しやすい人柄にも信頼がおけ、設計・施工の依頼を決めました。

吉田専務「Yさんのお宅は高台にあり、景色の良さは抜群。敷地がきれいに真南に向いていることを活かし、上下に大窓のある吹き抜けリビングを提案しました」。

通常、室内の壁際やコーナーに設けがちな薪ストーブは、眺めの良さを妨げないよう、LDKの中心に据えました。結果は大成功。真っすぐに伸びる黒い煙突が、木の梁やスケルトン階段のある吹抜空間を引き締め、インテリアとしても引き立っています。
「5回暖まる」薪のある暮らし
当初薪ストーブに反対していたという奥さまですが、体の芯まで温まる薪ストーブがすっかり気いられた様子。「今年の夏は私も薪割がしたい」とも。
薪ストーブのある暮らしは、薪割や乾燥、保管、実際の使用と、1年を通じて楽しめるのも魅力です。「薪ストーブはよく、(チェーンソーで)切って、割って、運んで、積んで、燃やして、「5回暖まる」と言うんですよ」と吉田専務が教えてくれました。
朝晩に数時間つけるだけで家全体が十分に温まる
Yさんのお宅は1階全面床暖房。2階は床暖房がなく、パネルヒーターを採用しています。
取材したのはまだ雪が残る3月中旬。春まではまだ少し先で、通常は暖房器具を使用しているお宅が多い時期です。到着した私たちを迎えてくれた旦那さまは、半そでに裸足という出で立ち。驚いた私たちでしたが、中に入ると納得!の暖かさでした。
暖房器具の使用頻度についてうかがうと、床暖房は最弱に設定していているものの、ほとんど使用していないそう。この日も使っていないということでしたが、足元は確かに温か。理由を聞くと「南面に広く配置した窓からの日差しで、午前中のうちに床が温まるからです」と吉田専務。
2階パネルヒーターも使用しておらず、朝夕の数時間だけ薪ストーブを焚いています。「吹抜から暖気が上がり、2階も十分に温まります」と奥さま。
もちろん、断熱・気密にこだわった建物だからこそ。「暑いくらいに暖かい」と旦那さま。
こだわりのビンテージ家具が似合う自然素材仕上げ

キッチンに立つと、リビング・ダイニングが真っすぐに見渡せます。Yさんはビンテージの家具が好きで、室内はこだわって取り寄せた家具でコーディネートされています。
椅子が机に収まるダイニングテーブルのセットはイギリスのもの。シェードは真鍮製で、温かみのある反射光をつくっています。
右手に見えるオープンシェルフはスウェーデン製。器も好きで集めているそうで、道内の作家が作ったコーヒー茶碗などを飾ったお気に入りのコーナーです。

壁面に間接照明を施したリビングのテレビスペース。壁材にはウッドチップと再生紙でできたドイツ製の壁紙・オガファーザーを使用。自然素材のやさしい風合いが、ビンテージ家具とも好相性です。

1階の床にはナラの無垢材を使っています。床暖房のおかげで足元からじんわりと暖かく、裸足でも心地よい肌触りと温もりを感じます。
視界を遮らないスケルトン階段は、Yさんの希望でした。クルミの三層板を使っています。

2階ホールに飾られたイサムノグチのスタンドライト。2階の床には無垢のカラマツを使っていて、リズミカルな木目がシンプルなインテリアにもよく合っています。
機能的なキッチンや身支度がしやすい洗面・化粧室

夫婦共働きのYさんは、日常的に旦那さまも料理をされるそうで、キッチンは使いやすさにもこだわりました。
ステンレストップのオープンキッチンは、セミオーダーで天板の奥行きを通常750mmのところ900mmに広げています。「配膳や片づけなどもしやすく、正解でした」とYさん。

キッチン本体、背面収納とも木目が美しいウッドワンの商品を採用しています。

玄関からの眺め。正面にリビング、左手に階段が見えます。右手の引き戸を開けると洗面・化粧室とトイレがあります。

手前が洗面台、その隣は奥さまの化粧コーナー。奥さまが一番こだわった空間です。
奥さま「賃貸アパートの時は、食卓テーブルの上でメイクをしていましたが、仕事柄、道具も沢山あり、持ち運びや散らかるのがストレスでした」。
壁面には可動式の収納棚を造作。高さの違う化粧品がきれいに収まるようになりました。道具の定位置が決まったことで、出し入れもしやすく、使いやすいと満足そうです。
三角屋根を活かした居心地の良い2階

2階。吹き抜けの腰壁に設けたデスクスペース。

先ほどと反対方向、主寝室入口からの眺め。腰壁の陰にデスクスペースがあります。その奥は、屋根の頂部から半分に分け、壁際にクローゼットの付いた4.25畳の子ども部屋が2部屋つくれるようになっています。
吹抜からの日差しが届き、明るい空間が広がっています。

ホールには腰壁の厚みを利用した本棚が。中には絵本がずらり。お子さんの就寝時には必ず絵本を読んであげているそうです。

主寝室。傾斜屋根の兼ね合いで、地窓のように床から立ち上がった窓が付いています。
「朝、目覚めた時にベッドに寝たまま外の景色が眺められ、とても気に入っています。薪ストーブの暖気で朝晩も十分に暖かいので、パネルヒーターも取り払ってもらい、スッキリさせる予定です」と奥さま。
記者の目
自然の風景を採り入れた設計と薪ストーブのある暮らしは、日常でありながらリゾートのような開放感に満ちていました。
傾斜地という厳しい条件を逆手にとった大開口は、人の視線も気にならず、プライベート感たっぷり。同じような土地条件で悩んでいる方にも、是非参考にしていただきたい実例でした。
2020年04月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。