「青森市民は一冬に約90億円もの灯油を消費しています。自宅の暖房エネルギー消費量が日本一多いんです。青森より寒い札幌の人よりも暖房エネルギーを多く消費しています」
「これは青森のりんごやお米の農業収益にも匹敵する額です。青森市民が経済的に苦しい思いをしているとしたら、それは住宅の光熱費負担が家計を圧迫しているのが大きな要因の一つです」
こう話してくれたのは、建て主の柏谷至さんです。
「青森市は、冬は寒く雪も多いし日射量も多くない。青森市民の多くが、冬は家の中が寒くて、灯油代もたくさんかかるのが当たり前だと思っています」
「住宅の省エネ性能が低いために、青森市民の多くが寒さや光熱費負担に苦しんでいます。私も以前は寒い家で灯油をたくさん消費していましたが、自宅を高断熱高気密住宅にしたことで、住環境改善と省エネ・地球環境負荷低減を実現できました」
いえズーム編集部は、北海道の住宅業界専門紙「北海道住宅新聞」を発行する札幌の北海道住宅新聞社が運営しています。新居を実現された建て主さんに住まいの住み心地などをいつも取材させていただいておりますが、今回は、単に1軒の家の住み心地にとどまらない、視野の広い話も聞けて青森まで取材に遠征した甲斐がありました。
では早速、柏谷さんのご案内で、住まいの中身を拝見させていただきます。
外観は総2階でキューブ型。断熱・気密性能を高めやすいこともこの形状にした要因。外装は黒のガルバリウムで玄関廻りだけ木の質感でアクセントを持たせています。

豪雪地帯の青森。多い日には以前は一日に4回除雪をしたこともありましたが、フラット屋根にカーポートを2台設置したことで除雪の負担は大幅に軽減できました。
高断熱高気密+日射取得で省エネ
リビングは明るい陽射しが入る吹き抜け空間になっています。
青森は日射量が少ないので、日中でも家の中で照明をつけることがありますが、この家は日射取得量が多いので日中の照明はほとんど必要ないとのこと。
この家の断熱性能は、
外壁は高性能グラスウール210ミリ、基礎が100ミリ、天井はブローイング400ミリの高断熱高気密仕様。窓は断熱性能上の弱点にもなる箇所で、特に柏谷邸のように大きな窓を採用すると、窓際の冷気が気になることもありそうですが、断熱ブラインドを設置し、夜間は断熱ブラインドを下げることで熱損失を大幅に削減できています。
柏谷邸の暖房機はリビングにあるこの一台だけ。床下に暖気を吹き込んで、家全体を暖める暖房計画になっています。
断熱気密性能が極めて高い住宅の場合、室内の熱が屋外になかなか逃げないので、小さな暖房機でも十分に家全体を暖められます。24時間自動運転ですが、晴れた日は日射で室内が暖められるので暖房機が止まっていることも多い状態です。毎月灯油を補充しにきてくれる燃料店のスタッフが、灯油タンクの小ささと、灯油の減りの少なさに驚かれるそうです。
無垢の床材&掘りごたつで居心地よい空間
総2階の家で比較的コンパクトな家をプランする場合、1階にLDKやバスルーム、2階は寝室や子供部屋などを配置する間取りが多くなります。そうなると1階はLDKや客間などのスペースを確保する上で工夫が必要になります。また、扉や間仕切りなどで細かく区切られた家よりも、できるだけ開放的な空間にしたいという思いもありました。
そこで柏谷邸では、お風呂やユーティリティを2階に配置したほか、1階はLDKに椅子付きのダイニングテーブルやソファーを置くのではなく、床面より下に足を入れられる掘りごたつ風のテーブルを造作で設置し、ソファーは置かないという選択にしました。
掘りごたつ風のテーブルで食事をしたりと、床に座る機会も増えるので、床材は、地場産の無垢材を採用しました。施工を担当した森の風工房が、以前開催したオープンハウスで無垢の床材の良さを体験して自宅にも取り入れたそうです。
無垢材は、座り心地や足裏の感触が柔らかく温かみがあります。その一方、子どももいるので傷が付いたりはします。でも傷が付いたところに濡れたティッシュを置いて一晩放置すると、翌朝、傷の凹みがかなり減ります。自然素材である無垢材の自然修復力です。
キッチン廻りにはカウンター&食品庫&収納
キッチンの横には勉強などに使えるカウンターと椅子を壁付けで設置。お子さんとの時間も自然に増えました。
夫婦とも料理をするので、二人同時に調理ができるキッチンを用意しました。キッチンの天板の奥行は1000ミリあり、食材をたっぷり置けます。
キッチンと背面収納の間の幅も、2人がぶつからずにすれ違うことができるように120センチとゆとりを持たせました。背面収納や、キッチンの対面側にも収納扉があり、収納力もたっぷりです。
本当に高性能な高断熱高気密住宅は、玄関やお風呂など、家の中の全ての場所がもれなく暖かいわけですが、それによって困ることもあります。
漬物や野菜、味噌、飲料や保存食など、室温よりも少し低い温度で保管したい食材などを置いておける場所が家の中にないのです(冷蔵庫以外は)。
そこで森の風工房は、高断熱高気密住宅には、食品庫(パントリー)をキッチンの近くに設置することをおすすめしています。柏谷さんは味噌づくりもされるので、食品庫の中にはお手製の味噌も入っていました。
2階には寝室や子ども部屋のほかにお風呂とユーティリティも配置しました。お風呂の残り湯を洗濯に使い、この2階の共有ホールに洗濯物を乾かす作業を2階で完結できます。
2階には大きな洗面台も用意しました。木製の造作洗面台には深さのある陶器製洗面ボウルと大きな鏡を設置。忙しい朝に2人並んで身だしなみを整えたり、衣類の手洗いもしやすく、とても便利です。
2階の共有ホールは1階と吹き抜けでつながっています。子どもが子ども部屋にいても親子のコミュニケーションがとりやすいのが吹き抜けの魅力です。
では、ご夫妻に家づくりの経緯を伺います。
家づくりのきっかけは?
ご主人 以前は同じ場所にあった貸家に住んでいました。知人から借りた築25年くらいの家でした。7年くらい住んでいましたが、玄関は凍って開かなくなったりもしました。窓からの隙間風で、家の中で暖房を焚いていても寒いまま。本当に寒い家でした。
子どもも生まれて、子育てが始まると、家をずっと暖かくしておかないとならないので、暖房代が大きな負担になりました。子どもが小学校に入る前に、我が家をどうにかしたいなと夫婦で話し合っていました。
土地探しは苦労するかなと思っていました。貸家に住んでいたころから、ここは、幼稚園や学校、小児科などの病院も近く、利便性も良い土地だったので、同じような利便性の良い土地が妥当な値段ではなかなか出てこないかなと思っていたんです。でもそんな矢先に、たまたま私たちが住んでいた家の隣地が売りに出たんです。その土地を買うことにしました。
住宅会社選びは?
ご主人 私は省エネルギーの普及を目指す「特定非営利活動法人グリーンエネルギー青森」の活動もしています。
その中で、冬場に消費する暖房エネルギーが多すぎるという問題についても検討を進めてきました。
自宅を建てるにあたっては、別に大きな家に住みたいとか、特段デザインや設備面で贅沢をしたいという思いはありませんでした。
それよりも家の寒さを克服したい。省エネ性能の高い高断熱高気密住宅なら、光熱費負担も減らせるし、環境負荷も低減できると考えました。そして自分たちの要望を叶えてくれる注文住宅の会社が良いとも考えました。
その意味で、全国大手ハウスメーカーや、地元のハウスメーカーでもある程度規模の大きな住宅会社は候補から外しました。それぞれの会社の規格・商品が先にあって、高断熱高気密住宅にしたいと相談すると、では断熱材を足しますか?といった感じで、基本仕様に何かを付け足す程度、という印象だったからです。
インターネットで、注文住宅を建てている青森の工務店を探して何社も訪問しました。一時期、家族で毎週のように見学に行っていました。
省エネ性能が抜群に高いQ1.0(キューワン)住宅については10年以上前から興味があり、Q1.0(キューワン)住宅を提唱している一般社団法人新木造住宅技術研究協議会(新住協)の会員で、青森の工務店については、モデルハウスを見に行ったり、ホームページを閲覧して、問い合わせをしたりしました。
なぜ森の風工房を選んだんですか?
ご主人 親切で、デザインの印象の良かった工務店はほかにもありました。でも光熱費の目安を聞いたところ月3万円以上・・・やはり光熱費負担額は重要なので、迷いましたが結局その工務店は選びませんでした。
新住協の会員リストに入っていた森の風工房の藤本社長にコンタクトしたのは住宅会社探しの後半です。最初はメールでキューワン住宅に興味があるという相談をしたと思います。2013年の秋だったと思いますが、三角屋根の無垢材がふんだんに使われた家など、森の風工房さんが建てた家を見せてもらいました。
高断熱高気密住宅について、しっかり説明してくれたのと、建て主の要望をしっかり聞いて建ててくれる住宅会社だと思いました。真面目で一生懸命な人だなという印象は今でも変わりません。夫婦で話し合って森の風工房の藤本さんにお願いしようと決めたのは冬になる少し前のことでした。
打ち合わせはどのように?
ご主人 要望はある程度考えをまとめて藤本社長にお伝えしました。屋根の雪が隣の敷地に落ちないように、とか、吹き抜けを作ってほしいというのはこちらからの要望です。
自分自身で住宅の間取り制作ソフトで、間取りの案も作成しました。打ち合わせは週1ペースくらいだったと思います。コンセントの位置や数、造作の収納、屋外への広がりを持たせたくてウッドデッキを付けてもらったり、珪藻土の塗り壁を内装に採用するといった工夫は、打ち合わせで決めた点ですが、いずれも住んだ後に、とても満足しています。
着工後も、仕上げや収納などの部分で検討する機会をもらえて、着工前と同じような週1くらいのペースで打ち合わせが続きました。大工さんも親切で、現場の中を見せてくれて説明してくれましたし、屋根の上からの景色も見ることができました。
高断熱高気密住宅の効果は?
ご主人 以前住んでいた貸家は、家の大きさ自体は今の家とさほど変わりませんが、暖房費がかかるのでリビングだけを石油ストーブで暖房していました。なのでトイレも風呂も廊下も玄関も冷え切って大変でした。水道管も凍結するので水抜きをしなければならない家でした。
でもこの家は、家全体を暖房し、もれなく暖かい状態を常に維持しているので暖房面積は約4倍に増えているのに、暖房費は約半分で済んでいます。高断熱高気密住宅の凄さを身をもって感じています。
断熱・気密性能を確保できる技術のある住宅会社に、高断熱仕様の住宅を建ててもらうコストアップ分など、実はさほどの額ではないです。引っ越して住み始めた後の光熱費で元は取れます。出張時に、ビジネスホテルに泊まることがあるのですが、自宅に比べて温度環境がかなり悪いので、そういう時に我が家の温度環境の良さを逆に実感したりしています。この快適さを実感するともう他の家には住めないなと感じます。
冬は当然暖かいだろうと思っていましたが、夏の快適さは予想外でした。断熱性能が高いと夏も涼しくて快適になるというのは驚きでした。
30℃を超える日でも、青森の夜は涼しいので夜間に、2階の共有ホールの高い位置にある小窓を開けて、室内の熱気を屋外に排出し冷たい外気を取り入れます。
日中は日射を遮るためにブラインドを下げておけば、昼間も程よい室温を維持できます。これはすごく快適です。35℃を超える猛暑日については無理せずクーラーを稼働させますが、そういう日は年に10日くらいですね。
その他の住み心地は?
ご主人 住み始めて6年が経ちました。困りごとは特にありません。カーポート2台で除雪の負担が軽減されたのも良かった。このエリアでは庭を設ける人は少数派ですが、庭をつくることで、眺めるだけで癒されるようになりました。今まで話したことのないご近所さんからも「きれいな庭だね」と声をかけてくれたりします。
敷地いっぱいに家を建てたり高い車を買ったりするより、庭に予算を回して良かったなと感じます。森の風工房さんにおまかせしたところ、手入れの手間の少ない、維持しやすい庭になって喜んでいます。
玄関は、お客様から直接見えないウォークスルー型の収納を設けることで、コートや傘、靴、鍵、カバンなどを整理整頓しやすくなって助かっています。
オープンハウスやモデルハウスを見学した中では、加湿器を家の中にあちこち置いてある家が多くて、室内は乾燥しがちなのかと思っていましたが、この家は、壁に施工された珪藻土の調湿作用や、熱交換換気が効いているのか、加湿器がなくても乾燥を感じたことはありません。
リビングは吹き抜けと大きな窓からの日射でリビングが明るく、開放感もあってよかったと思います。
換気フィルターの掃除も月1でちゃんとやっています。掃除をしないと赤いランプがつくので、1番汚れそうなところだけ掃除機で埃を吸い取っています。
青森市民の各家庭の灯油消費量が日本一多いというのは、家計を圧迫するだけでなく、地球環境の面でも悪影響を与えています。青森市民の寒い家を何とかできればと思っています。
さいごに
青森市近郊で、しっかりとした高断熱高気密の新築住宅を依頼できる工務店・ハウスメーカーとなると、選択肢はそれほど多くありません。
いえズーム編集部は、北海道の住宅業界専門紙「北海道住宅新聞」を発行する札幌の会社が運営しています。日頃は主に北海道の工務店・ハウスメーカーを取材していますが、森の風工房さんの評判は北海道にも聞こえてきました。
青森市の隣、蓬田村の株式会社森の風工房は、省エネで快適な高断熱高気密住宅の普及を目指し、新住協の活動を通じて断熱気密施工のノウハウを習得。地域密着の工務店として、新築・リフォーム・リノベーション・営繕などを行っています。
↑の記事では、寒さに悩む既存住宅の悩みをリノベーションで解決。Мさまご夫妻の声をご紹介しましたのでよければご一読お願いします。
2020年05月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。