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シャーロック・ホームズの住居をイメージした家/札幌市O邸 


英国のTVドラマ「シャーロックホームズの冒険」。日本でも1985 年からNHKで繰り返し放送されました。このドラマを子どものときに見て、ドラマの舞台のような重厚でクラシカルなインテリアに憧れた札幌市在住のOさん。家を建てるなら、19世紀ヴィクトリアン様式にしたいと考えていたそうです。


目次

理想の住まいを実現できる住宅会社を探して

結婚して、それまで住んでいたマンションが手狭になり、家づくりを考え始めた札幌のOさんご夫婦。住宅雑誌で気に入った工務店に設計を依頼するつもりでしたが、「シャーロックホームズの家」をつくるには、さまざまな難問が待ち構えていました。

「たとえばイギリスから輸入した照明やスイッチパネルを使いたいと思っても、日本の電気用品安全法に基づくPSE表示のないものは使えないなど制約がすごく多かったんです」。

困ったOさんは輸入住宅を専門に扱うプルーデンスの家に相談してみることにしました。

「モデルハウスを訪ね、要望を具体的に伝えたところ、たいていのことはできる、と言ってくれたので、お願いすることに決めました」。Oさん自身も建築の専門書を買って構造や設計を勉強。気密性や耐震性などの基準も把握し、自ら概略設計図を描けるほど詳しくなりました。




ホームズの時代はまだ電気のない設定。リビングにシーリングライトはつけず、壁面照明やスタンドライトにこだわりました。鋳鉄製の暖炉はホームズの部屋と同様のタイル装飾のものをイギリスから輸入。家具はアンティークショップなどで探しました。

「将来、煙突を設置すれば暖炉も使えるよう、換気はダクト配管を用いないドイツ製の熱交換換気システムを採用しています」。

排気を強制的に行う一般的な第3種換気システムでは、外気より室内の気圧が低くなるため、暖炉に火を入れた場合、煙や灰が室内に逆流する恐れがありますが、Oさんの探したドイツの換気システムなら吸気と排気を交互に行うため、その心配がないそうです。


アンティークな雰囲気が素敵な真鍮(しんちゅう)の3連スイッチパネルもイギリスから取り寄せたもの


階段や廊下には、絵画を掛けられる壁面を

もうひとつ、絵画を掛ける大きな壁面があることもOさんの必須条件でした。階段ホールは広々とした開放的な空間することも可能でしたが、あえて壁で仕切り、2階に細長い廊下を設けています。

「画家だった妻の祖父が残した作品がたくさんあるので、それらを飾る壁がどうしても欲しかったのです」。




壁はクロスを使わずドライウォールの仕上げ。イギリスの塗料メーカーの色見本を参考に調合してもらったワインレッドでペイントしました。マットな質感で、美術館のように油絵が映えます。

ドアや窓のケーシング、天井のモールディングなどは太くて豪華なタイプを選びました。天井高が2.7mと高いため、決して狭さを感じません。



階段にはイギリスからロールで取り寄せたウールのじゅうたんを敷き、ステップごとに真鍮(しんちゅう)のパイプホルダーを取り付けました。今にもホームズがコツコツと靴音を響かせて、上がってきそうな雰囲気の階段です。




2階ホール・リビングの手前には鏡付きの手洗いを設けました。来客にも使ってもらいやすい便利な場所です。鏡の上に飾られた装飾や筒状の照明、鏡などもすべてOさんが海外から取り寄せたものを使っています。



アンティークのステンドグラスは、海外通販サイトeBay(イーベイ)で購入したもの。ケーシングの枠を施しトイレの壁に取り付けてもらいました。

1階には滞在型ゲストルームを用意



1階にはゲストルームが用意されています。



「妻の仕事柄、海外からのゲストが多く、しばらく滞在することもあるので、お泊めできる部屋が欲しかったんです」。

ゲストルームにはトイレとシャワールームも完備。ドアに鍵をつけ、Oさん夫婦が留守中も自由に出入りできる仕様になっています。



2階のキッチンはゲストも一緒に料理が楽しめるようオープンスタイルに。
食材などをストックするパントリーも用意しました。



「人に来ていただきやすい家にしたかった」というOさんご夫婦。
実際に多いときは7〜8人も集まって、にぎやかに過ごす機会が増えたそうです。

上質なものをリメイクしながら使い続ける暮らし

それにしても、リーズナブルな新商品が次々と登場する現代、Oさんはなぜ古い時代のものにこだわるのでしょうか。

「上質なものをメンテナンスやリメイクしながら長く使い続ける暮らしに魅力を感じるんです。イギリスでは築100年200年の建物を手入れしながら使っていますよね。電気のない時代の建物だから、室内に後付けのパイプが取り付けられたりしていますが、そういうのもいいんです、歴史ですから」。



玄関ホールの書棚はプルーデンスの家からの提案でした。ケージングを施し、アンティークな家具とも好相性です。左手の赤い座面のチェアは奥さまの実家から運んできたもので、この椅子にちょこんと座る幼い孫娘を描いた、おじいさまの油絵が2階の廊下に飾られています。



Oさんが愛用している年代物のライティングビューロー。暖炉の横にぴったり収まるようにサイズを測ってリビングに設置しています。


暖炉のマントルピースにさりげなく置かれた置き時計は、
奥さまが蚤の市で買い求め、Oさんがきれいに分解清掃したもの


「他社ではできないと即座に断られることも、プルーデンスの家では基本的には実現する方向で考えてくれました。実は電気も生活用とオーディオ用と2系統に分けて配線してもらったんですが、そういう見えない部分も丁寧にやってくれたので満足してます」。

入居以来、休日はDIYに凝っているというOさん。赤ちゃんもそろそろ活発に動き回るようになるので、これからは庭づくりに着手したいそう。つるバラがつたうイングリッシュガーデンを具現化させていく計画です。

外観はロンドンのアパートメントをイメージ



外観でOさんがこだわったのは壁の厚さ。日本の住宅は室内を広くとるために外壁をなるべく薄くして、壁と窓をフラットにしていますが、イギリスの建築は外壁が厚く、窓が壁から奥に引っ込んでいます。そこで、通常のいわゆる面一(ツライチ。面と面に段差がない状態のことで、ここでは外壁面と窓面がフラットな状態)の壁に、さらに外壁をふかして厚くしました。

「屋内側の窓台も広げています。ホームズは2階の自室の窓枠に座ってカーテン越しにレストレード警部が訪ねてくるのを見ていましたが、そんな感じで窓台を手前に出してもらいました」。

2階リビングの上げ下げ窓の窓台は、いまやOさんの愛猫の定位置。ホームズのように階下を見ながら、ひなたぼっこをしているそうです。



ホームズの住まいは、ロンドンのベーカー街のアパートメントという設定です。
一戸建てのモデルにはなりづらいため、外観は1階に厩舎がある18世紀のミューズ・ハウスを参考に設計。O邸は厩舎の代わりにガレージをビルトインしています。




驚いたのは、玄関ドアから屋内ドアまで全てのドアが内開きだったこと。確かにドラマでは、ドアノッカーで合図をするとアパートメントの大家であるハドスン夫人が中からドアを開けてくれる造りになっていましたが、玄関で靴を脱ぐ日本の住宅では決して便利とはいえません。

Oさんは玄関横に大きなシューズ・クロークを設けて工夫されていましたが、ディティールまでヴィクトリアン・スタイルにこだわる徹底ぶりには潔さを感じました。

記者の目



日本の建築はスクラップ&ビルドといわれますが、新しいもの、便利なもの、安いものに飛びつくのではなく、古いものを大切にし、たとえ不便でも工夫しながら使い続ける。そんなライフスタイルに対する憧れが、住まいの細部に宿っているように感じました。


2020年06月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。