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衣食住×テキスタイルを楽しむ~札幌・COQ(こきゅう)

森に抱かれた衣食住を楽しむ複合施設



札幌から支笏湖へ続く国道沿い。「札幌芸術の森」の少し先に、緑の木立に溶け込むように佇む「COQ(こきゅう)」があります。

オーナーは梶原加奈子さん。日本の伝統技術に新しい感性を採り入れ、素材開発や商品企画に取り組む、世界的に活躍するテキスタイルデザイナーです。

※テキスタイル(textile)とは布製品における生地と柄のこと。ブラウスやシャツなどのファッションアイテムも、広義のテキスタイルの1つです。



「この素晴らしい環境の中で、多くの人に衣食住を通じてテキスタイルを楽しむ体験をしてほしい」。COQは梶原さんが、そんな願いをこめた、ギャラリー&ショップ、ダイニングと、ゲストハウスから成る複合施設で、2017年7月にオープンしました。


建物側面。道南杉を白く塗装し外装に使っている


設計したのは、同じく札幌市南区常盤に自邸と事務所、アトリエ(ときわの家)を構える建築家の鈴木理さん。鈴木さんは周辺環境を活かし、自然素材を採り入れた設計が得意な、北海道を代表する建築家の一人です。

施工したのは、鈴木さんが過去にタッグを組んだ経験から信頼を寄せる橋本川島コーポレーションの住宅事業部。旭川に本社を置き、札幌にも支店を持つ総合建設業社(ゼネコン)で、住宅事業部は一般住宅の設計・施工はもちろん、建築家からの施工依頼も多く、その確かな仕事ぶりには定評があります。

雑木林のようなランダムな空間配置



木立の緑がゆるやかなカーブを描くアプローチを進んだ先に、入口があります。ドアも、内部の多くも、少しグレーがかった落ち着きのあるホワイトが多く使われています。北海道を代表する木として梶原さんが愛する白樺のホワイトがここのテーマカラーです。



店内は雑木林の中にいるようなイメージ。随所で視界が遮られたり、思わぬところに窓があって林が見えたりと、自然を模したランダムな空間配置になっています。

テキスタイルとの融合を楽しむ本格フレンチレストラン


写真提供COQ


ギャラリー&ショップの奥には、札幌のフレンチレストラン「aki nagao」のオーナーシェフ、長尾彰浩さんが監修するダイニングがあります。

「テキスタイルの色や風合いが、食べ物の食感や彩りや味と融合していく心地よさを表現したくて」と梶原さん。


写真提供COQ


食材は北海道の旬のものがメイン。自作の調味料なども使った、目にも美しい季節の料理が楽しめます。



ダイニングのスペースを優雅に仕切るのは、緑の模様がプリントされたオーガンジーのカーテン。模様はここが森だった時の姿をプリントして再現。テキスタイルの森を通して本物の森が重なり、融合するようにデザインされています。

透明なカーテンは、人の動きからひと呼吸置いてゆっくりと動き、光の当たり方によって緑は青や紫へと変化。カーテン越しに見る経験したことのない自然の風景に、ここを訪れる誰もが驚き、感動します。



川のせせらぎが聞こえてくるマイナスイオンたっぷりのテラス席。足元には札幌軟石が敷き詰められています。

テキスタイルが空気をデザインする・2階ゲストハウス



白い螺旋階段を上ると、2階には梶原さんのスタジオとスタッフルーム、ゲストハウスがあります。実は、螺旋階段は未完成。階段を囲むように、オリジナルの布を吊り下げて完成する予定です。



ゲストハウスのエントランスを印象づけているのが、梶原さんがデザインした西陣織を貼った引き戸です。世界的なファッションブランドのコート地にも採用されたもので、光の当たり方によって色も輝きも変化する、個性的な布地です。



ゲストハウスはオープンなワンルーム設計で広さは100㎡。テーブルとキッチンを中心に、左右に配置したベッドスペースとの間を仕切るのは、やはり梶原さんがデザインしたオーガンジーのカーテンです。


右奥がオーナーでテキスタイルデザイナーの梶原加奈子さん、左奥が建築家の鈴木理さん


「肩の力を抜いて安らぎ、やさしい気持ちに戻れるようにとデザインしました」と梶原さん。



そのためのアイデアと技術は素晴らしいのひとこと。窓際のカーテンは、日中は森の緑がやわらかく透ける薄いグレー。夜は照明を受けてゴールドに変わり、ふんわりした空気に包まれるような感覚になるそうです。

そんな不思議な効果をもたらしているのが、気化した金属を繊維にコーティングする金属スパッタリング。日本が世界で初めて開発した技術です。その加工を施した生地の上からベージュをプリントすることで、1枚のカーテンが昼と夜とで異なる顔を見せるのだそう。

「カーテンによって空気が立体化し、昼間も森の夢をみているような不思議な感覚が楽しめます。空気をデザインするというのも、テキスタイルデザインができることのひとつです」。



そんなテキスタイルの魅力を引き立てているのが、鈴木さんの控え目な設計です。4つの賞を受賞した自邸と事務所、アトリエから成る「ときわの家」(2015年竣工)がそうであるように、声高に主張することなく、環境と自然素材を活かすことが特徴です。

「実は、建築家としてはもう少し造り込みたいという思いはありました。でも、ここはテキスタイルと融合することで完成する建築にしようと、抑えめにしています」と鈴木さん。

理想の場所、感性がぴったりな建築家との出会いが始まり



梶原さんは長く東京と出身地の札幌を行き来して仕事をしてきましたが、数年前に「自然環境の豊かな北海道に自宅兼アトリエを持とう」と、土地探しを始めました。

「それなら、知り合いの建築家の自宅とアトリエの近くにぴったりの土地がありますよ」。そう言って現在の土地と鈴木理さんを紹介してくれたのが札幌の澪工房さん。テキスタイルの提供で交流のあったオーダー家具の工房です。

すでに何カ所もの土地を見ていた梶原さん。「水が好きな私には、裏に川が流れるこの場所は理想的。即決でした」と振り返ります。



その後、ご近所にあり、この場所と環境の似た「ときわの家」を訪問。「光の採り入れ方や天然木が好きなところなど、感覚が合っている」と、鈴木さんに設計を依頼しました。

「それからは、鈴木さんと、鈴木さんご推薦の橋本川島コーポレーションさんにほとんどお任せでした。多忙だったこともありますが、むしろ、仕事柄それが当たり前という感覚でした」と梶原さん。



「テキスタイルは工業製品で、デザイナー、デザインをコンピューターグラフィッスにする人、織機を動かす人などの分業制。それぞれがプロなので、相手の領域に踏み込むと嫌がられることもあります。私は方向性を伝えるに止め、できあがったもので勝負する。ずっとそういう風に仕事をしてきたので、今回も同じようにそれぞれのプロに託しました。それが、期待以上に素敵な空間になったので、鈴木さんと橋本川島コーポレーションさんにお願いして本当に良かったと思っています」。

難工事や設計変更も安心して任せられた施工会社とは


写真提供COQ


施工を担当した橋本川島コーポレーションは、建築、土木、住宅など5部門を擁する総合建設業社(ゼネコン)です。鈴木さんは以前、旭川で2件の仕事を一緒にしています。

「病院を自宅に改装するという大工事で、橋本川島コーポレーションの対応力と技術力の高さを実感していました。COQの仕事も一般住宅ではなく複合施設なので、しっかりした体制の施工会社とやりたいと思っていました。森の中の崖地に面したこの土地では、重機が入れるか、樹木をまたいで足場が組めるかなど、工事の段取りから難しく、高い施工力が求められたため、橋本川島さんにお願いしました」と鈴木さん。


写真提供COQ


選択が正解だったと改めて実感したのが、柱が立ち、だいたいの形ができあがった段階で持ち上がった設計変更でした。

「この素晴らしい環境を家族だけで楽しむのは忍びない。もっと多くの人に味わってもらいたい」。梶原さんはご夫婦の自宅部分として予定していたスペースに、ゲストハウスをつくりたいと変更を申し出ます。

顔色ひとつ変えずに対応した鈴木さんですが、オープンにしたい空間に「構造的に取れない柱」が残っているなど、「ちょっと大変だった」そう。


ここでは構造柱もアート作品になる


鈴木さん「その柱に、梶原さんの母校の元学長で、私ともご縁がある五十嵐威暢先生の作品をあしらうことで、デザインの一部にすることが出来ました」。

テキスタイルデザイナー×建築家×高い施工・技術力を持つ建設会社。COQは、豊かな感性が融合し、プロの高い技術力で実現した癒しのホットスポットでした。特別なひと時を過ごすのに相応しい場所。ぜひ一度訪れてみてほしいと思います。



COQ(こきゅう)

住所/北海道札幌市南区常盤5条1丁目1−23
営業時間/
SHOP 11:00~18:00
レストラン 11:00~19:30(要予約)
定休日/月曜・第3火曜
駐車場/10台(正面5台、建物裏に5台)
電話/011-252-9094
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