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ただ壊すのはもったいない…既存補強コンクリートブロック造の再生に挑む

iezoomを運営する北海道住宅新聞社は、丁寧な取材を通して住宅業界のニュースや様々な課題解決を取り上げ、北海道内外に発信しています。
今回は2019年7月5日号2面の記事をご紹介します。


躯体のコンクリートブロックや間仕切り壁の石こうボードをホワイトのEP塗装、床をナラの無垢材で仕上げた室内


道内で住宅不足解消と防寒対策を目的に、昭和の中期から後期にかけて大量供給された補強コンクリートブロック造の住宅が、今なお多く残っている。そのストックを有効活用し、高断熱で暮らしやすい間取りにリノベーションした住宅が道東・別海町に完成。地元工務店と札幌の建築家、断熱専門会社の3者の協業によって、オーナーの満足度も高い住まいを提案した。

リノベで暖かく、暮らしやすく

組積造、道内に3000戸弱の戸建ストック

積雪寒冷地の住宅・建築・地域づくりにかかわる研究開発を行う道総研・北方建築総合研究所(北総研)の「三角屋根CB造住宅のストック価値再考と持続可能な居住システムに関する研究」によると、道内の補強コンクリートブロック造(CB造)住宅建設の開発・下地が整ったのは、北海道ブロック指導所の設立や、北海道防寒住宅建設等促進法の制定、道立寒地建築研究所(後の北総研)の設立などが行われた1952年(昭和27)〜1955(同30)年頃。

当時は住宅不足の解消と住まいの防寒対策が道の政策課題となっており、1965(同40)〜1985(同60)年には道住宅供給公社が全道主要都市に三角屋根のCB造住宅を1万2千戸建設。その後は木造住宅の性能・機能の向上が進んだことにより、CB 造住宅の新築はほとんど見かけなくなっていった。

ただ、CB造住宅は耐久性が高いため、今でも使われているストックが少なくない。総務省の「平成30(2018)年住宅・土地統計調査」によると、道内の住宅ストックのうち、CB造やレンガ造など木造やRC・S造等以外は1万2千戸強。このうち2800戸が一戸建てで、その多くはCB造と見られる。

CB造は増築が難しい。解体するにしても木造より費用がかかるなどの理由で、なかなか手を付けにくいが、優れた耐久性や耐火性、遮音性、蓄熱容量の大きさなどを活かすことで快適・省エネな住まいに変わる可能性がある。今回別海町でリノベーションしたCB造住宅も、現在の設計・施工技術によって高断熱・高耐久化しつつ、ブロックならではのデザインを提案した点が大きなポイント。設計は札幌の小坂裕幸建築設計事務所(小坂裕幸代表)、施工は地場工務店の㈲鈴木建設興業(鈴木尚寿社長)が行った。

建物は昭和の終わり頃に建てられたという延床面積約26坪の平屋で、オーナーの祖父が所有する土地に農業共済組合の獣医が住む住宅として建てられたが、土地を返すにあたり建物もそのまま一緒に引き渡すこととなり、5、6年ほど前にオーナーが家族と入居。断熱は床・壁・天井それぞれ100㎜程度の内断熱だったが、躯体の蓄熱容量が効いていることと、西面に窓が多かったことから、FFストーブと個室の小さな電気ストーブだけでけっこう暖かかったという。一方で、長く住み続けることができるよう、より高い断熱性能を確保すると同時に、ホワイトの仕上げと無垢材を組み合わせたデザインの実現や、浴室や洗面脱衣室など水回りの改善などを目的にリノベーションを計画。昨年10月に着工した。


<Before>


<After>高耐久な湿式仕上げによる外観。コンクリートブロックの躯体に取り付けた窓が奥まって見えるので、RC住宅のような表情になる


EPS150㎜の湿式外断熱採用

室内は躯体現しの北欧風デザイン

CB造の躯体は、基礎も含めて劣化などの問題はまったくなく、間取りの変更にあたって室内側の壁の一部を撤去したほかはそのまま流用。二重サッシだった窓回りも、同じサイズでアルゴンガス入りLow-Eペアガラスの樹脂サッシに入れ換えると躯体を削る必要が出てくるため、小さいサイズに交換するか、コンクリートブロックで塞いで窓自体をなくした。

より高い断熱性能の確保にあたっては、透湿性のあるビーズ法スチレンフォーム(EPS)に、あらかじめ湿式仕上げ用の補強下地層を工場施工した外断熱外装パネル『DAN壁』(だんぺき・㈱ダンネツ製造販売)を採用。小坂裕幸建築設計事務所では以前から木造の新築物件で採用しており、今回は外断熱による温熱環境改善と、CB造の躯体をそのまま室内に現したデザイン性も狙った。鈴木建設興業は『DAN壁』の施工が初めてだったが、ダンネツがパネルの割付やジョイント部分の調整を行うなど全面的にサポートした。

パネルサイズは3×6尺で、断熱厚はできる限り少ないエネルギーで暖かくなるよう150㎜とし、長さ185㎜の断熱パネルビスとワッシャーで既存の外装モルタルと躯体に固定。ビスが極端に長いため、ビスの留め付け部分はEPSを40㎜ほど座掘りし、ビスを打った後にEPSのキャップを埋めている。なお、座掘り加工を行う関係上、補強下地層は現場施工とした。

また、基礎は床下換気口を塞いでからEPS150㎜で断熱。天井は撤去して小屋組を現し、高性能グラスウール16K200㎜+押出スチレンフォームB3種20㎜の屋根断熱としている。暖房は床組木材や土間にパイピングして灯油ボイラーの温水を循環させる床下暖房方式とし、オーナーの要望で薪ストーブも設置。

デザイン面では、現しのコンクリートブロックや、間仕切り壁の石こうボード、小屋組などを直接ホワイトのEP(エマルションペイント)塗装で仕上げ、床はナラの無垢フローリングとすることにより、北欧風のデザインというオーナーの希望を叶えた。外装は室内と同様にホワイトのトップコートで仕上げている。


躯体外側に基礎を含めEPS150㎜厚のパネルをビス・ワッシャーで留め付けている


「間違いなく暖かく省エネに」

オーナーによると「薪ストーブもあるが、床下暖房だけで真冬も過ごせそうなほど、間違いなく暖かい。春先はまだ暖房を使うが、リノベーション前と比べると灯油消費量は明らかに少なくなった」と話しており、奥様も小屋組現しによる頭上の開放感や、水回り・収納スペースの拡大などに満足している様子。

小坂裕幸建築設計事務所の小坂代表は「動線が楽で暮らしやすいCB造の平屋に、高い断熱性能を持たせることで、木造より20〜30年は長く暮らせるようになった。コンクリートブロックの良さは劣化することがなく、耐久性が高いこと。既存のCB造住宅は解体するとなると木造より費用もかかり、もったいないが、今回の事例を見てもらえれば、CB造のほうがいいという人も出てくるのでは」と話す。

別海町では、市街地で公営のCB造住宅を購入して住んでいる町民もいるといい、鈴木建設興業の鈴木和也専務は「CB造住宅のリノベーションは、構造上壊せる部分と壊せない部分を理解したうえで行う必要があり、苦労する場面もあるが、要望があれば今後もリノベーションを手がけていきたい」と語っている。

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