大工さんや基礎・左官・板金など専門職の力がなければ品質・性能の良い家は建ちません。
とはいえ腕の良い大工・職人さんはどの住宅会社にいるのでしょうか・・・。
今回は、施工品質を重視した家づくりを行うために、大工さんや職人さんの育成や連携を重視した取組を行っている住宅会社にお話を伺いました。
私は15年ほど大工をしていた経験があります。ハウスメーカーで大工をしていると、お施主様に一度も会うこと無く家を建てるというのが珍しくありません。そうなると、大工は雇用主である住宅会社のために家を建てる意識になり、お客様の存在を忘れがちになります。効率化を重視しすぎるあまり、現場で家を建てている職人たちが、お客様の思いを知らずに家を建てる時代になってきたのです。
そこで私は、顧客の要望をしっかり伺い、顧客のライフスタイルを実現できる注文住宅を実現させようと2014年5月に旭川でアーケン株式会社を設立しました。家を着工する前に、大工や左官、基礎など、その家の設計と施工に関わる関係者とお施主様が交流できる場を作っています。職人の側も、このお施主様のために家を作るのだと分かり、直接お施主様のマイホームに対する思いも聞かせていただくので、職人としてのプロ意識、責任感、そして期待に応えたいという思いがわき上がります。
すると手抜きはできなくなります。家の竣功引き渡し後のメンテナンスなど、その先何十年にもわたって、自分が建てた家への愛着、お施主様との絆が生まれます。良い家をお施主様のために心を込めて作る、という原点、初心が大事だと思うのです。お施主様にも家づくりを楽しんでいただけるように、その意味も込めて着工前の食事会を開催しているのです。
回答2大工の経済的不安を解消 先輩大工が「墨付け」や「刻み」など技術を教える環境も整備 一棟毎に大工が成果を発表
札幌圏 株式会社丸三ホクシン建設 首藤一弘代表取締役
以前、大工は男の子の憧れの職業でした。現場で建て込みを行い、木材の狂いやねじれを見極め、正確に寸法を測り、木材に印を付ける「墨付け」や、ノコギリやノミなどの大工道具を使って切断したり切り込みを入れる「刻み」を行う姿は格好良いのです。 同時にそれは、大工自身にとっても、技術を磨き、努力を重ねることで良い住宅を実現でき、評価されるというやり甲斐を感じる仕事でした。
ところが今は、大工の高齢化・人材不足が急激に進んでいます。しっかりとした品質の家を建てたり、施主の要望に応じたきめ細かい大工仕事の実現が危うい状況です。プレカットやパネルなどを多用して合理化・省力化を行うのは良い面もあり、丸三ホクシン建設でも現場の状況に応じてケースバイケースでプレカットを採用していますが、合理化を追求するあまり、仕事が単純化し、スキルを磨きたいという意欲ある若手の大工が育ちにくくなるという側面もあります。
効率性を重視するあまり、先輩大工も若手を教える余裕がない。スキルや経験を問われる機会が減ると、雇用形態も常用ではなくなって、必要な時だけ声をかける。不安定な仕事になるとますます若手大工が育たない状況になってきました。
こうした現場では、大工は数日だけその作業を担っているだけなので、現場視察にこられたオーナーに丁寧に対応したり、ましてや設計変更に関わるような要望を真剣に聞いたりという余裕はありません。そういった関係性は、現場の清掃や近隣の方へのマナーに始まり、我が家の建設を楽しみに現場を見学に訪れるオーナーとの接し方、共感の深さなどに大いに関わります。
ホクシン建設は、大工を通年雇用で採用し、直営施工で工事をしています。そのため、生活や将来の不安を抱えることなく、仕事に集中でき定着率も向上します。また「墨付け」や「刻み」などの技能を現場で先輩大工が後輩に教えています。外装材の施工や造作家具の製造、現場管理のノウハウなどのスキルも先輩から教わり、大工として成長します。
また、大工一人ひとりが、丸三ホクシン建設の家づくりのスタイルを学び、担当する現場の施主との打ち合わせにも同席。工事現場でも日頃から交流を行うことで、施主の要望や期待を知り、責任の大きさも意識します。
また、ホクシン建設では、家が竣工し、施主に引き渡す直前に、社長や設計、社内スタッフや大工が現場に集まって、担当した設計・工事管理・棟梁・大工が、この現場での施主の要望や、設計・施工上の改善点などを発表し、全員で担当大工の仕事ぶりを検証し、厳しい指摘も含めた意見交換を行います。一つひとつの現場を大工が責任持って担当し、成果を発表することで、若手大工も含めた、担当大工全員のスキルや責任感が養われます。
住宅のプランづくりにも、担当の棟梁や大工も必要に応じて打ち合わせに参加します。大工が自ら施主のために考えた家造りのアイデアや、造作家具やテーブル、椅子などの制作などを提案することもあります。これが我が家を手に入れたオーナーの喜びや満足、大工や住宅会社との信頼関係、その後のメンテナンスなどの場面でも良い結果を招くのです。
家を作るにあたって、現場監督や設計者など、大工や専門職以外にもさまざまな人が関わっています。でも大工が関わっている部分は家づくりにおいて非常に多く、現場監督や設計者がいくら目を光らせても、もし大工が手を抜く大工であれば、手抜きは間違いなくできます。
私は大工時代の9年間、大工として家づくりを行ってきました。今、私は工務店経営をしていますが、その当時の大工経験が現場の大工さんや専門職との連携の基礎にあります。信頼できる腕に良い大工さんや専門職との連携が、質の高い家づくりを進める上で非常に役立っていると感じます。長年連携している専門職の職人さんたちは、私より年下の人が多くて、そういう意味でも今後も連携していけると思っています。
当社(リビングワーク)はリフォームが出発点の住宅会社です。お客様の家を診断に行くと、新築時からの欠陥を見つけてしまうことは多々あります。お客様は新築時に依頼した住宅会社に電話をせずに、当社に相談します。それは新築してくれた住宅会社に満足できなかったからかもしれません。当社はそういうお客様のご依頼で、数多くリフォームの仕事をさせていただきました。その経験から、家を新築するときは、お客様が困らないように、どんな点に気を付けなければならないのかを学んできたわけです。
当社のように高断熱・高気密施工にこだわりがある会社では、その施工ルール、技術を十分に体得できている大工さんでなければ、性能水準を満たす工事ができません。大工さんの腕が確かでも、電気、給排水など現場に入る他の職人さんの技量が不十分ならやはり良い家はできません。いい加減な施工をするとどんな問題が生じるか、他社が建てた家の中身を数多く見てきた当社はよく知っており、そうならないように、大工や職人と一緒に現場のレベルアップを図っていますし、大工自身もそういうリフォームの現場で、家を修繕する度に確かな家を建てなければどんな問題が起きるか実感しています。リフォームの現場で「不十分な施工」を見て、悪い施工事例を反面教師にして、自分たちはちゃんとしなければ、と改めて考えているわけです。