Column いえズーム コラム

カーボンニュートラルと高性能住宅


この記事は、住宅業界向け専門紙「北海道住宅新聞」2022年3月25日号に掲載された記事を転載しています。

世界各地の平均気温が上昇し続ける中、日本は2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロ=カーボンニュートラルを達成すると宣言した。これにより、住宅の省CO₂化は待ったなしの状況となり、省エネ基準の義務化やZEH推進に向けた取り組みが進んでいる。

この大きな目標達成に向けて住宅業界として何ができるのか、HEAT20の生みの親でもある鈴木大隆氏に特別インタビューを試みたほか、カーボンニュートラルへの道筋についてまとめてみた。

さらなる高断熱化、なぜ必要?世界各国に求められる「脱炭素化」~気温上昇1.5℃に抑制目指す~

2020年10月、菅義偉元総理が2050年に国内の温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする、いわゆる「2050年カーボンニュートラル」を目指すと宣言し、その後国際公約とした。さらに昨年4月には2030年度の温室効果ガス排出量を、2013年度比で 46%削減するという中間目標も設定した。


カーボンニュートラルのイメージ図(経済産業省の資料より)


これらの動きは、2020年以降の地球温暖化対策に関する国際的な取り決めである「パリ協定」に起因する。パリ協定は2015年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択され、日本を含む196の国と地域が参加している。

協定の目標は、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2℃未満に抑制すること。そのために世界各国で温室効果ガスの削減に取り組み、21世紀後半にはカーボンニュートラルな世界を実現することを求めている。現時点で120以上の国と地域が2050年カーボンニュートラルの実現を目指している。

なお、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるという目標は、昨秋開催されたCOP26において上方修正され、「1.5℃に抑える」となった(グラスゴー気候合意)。

また、国連のIPCC(気候変動政府間パネル)によると、地球温暖化は人間が排出する温室効果ガスによって加速しており、21世紀の末期には世界の平均気温が20世紀の末期と比べて最大4.8℃上昇するという。温暖化が進むと北極圏などの氷床が溶けて海面が上昇したり、異常気象による自然災害が増加したりして、未来の人々の生活を脅かす恐れがある。さらに生態系も破壊してしまう可能性があるため、必ず対策に取り組む必要がある。

そして、温室効果ガスの削減に向けては、住宅のさらなる高断熱化が不可欠。暖冷房などによって家庭内から排出される温室効果ガスを抑えるためだ。


国が住宅の高断熱化を推進する中で、今後付加断熱の平均的な厚みが増したり、より高性能な付加断熱材が登場するかもしれない(画像はイメージ)


住宅分野の今後の省エネ対策 2050年にはストック平均でZEHに、再エネ普及も同時に目指す

では、国は2050年に向けて、住宅分野の省エネ対策をこれからどう進めようとしているのか。

まず、2050年に目指すべき住宅の姿としては、①ストック平均でZEHレベルの一次エネルギ-消費量(BEI0.8)が確保されていること②太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーの導入が一般的なものになっていること─の2つを示している。そのために、2030年以降の新築住宅はZEHレベルの断熱性能と一次エネルギー消費量を標準とし、さらに新築戸建住宅の6割に太陽光発電を導入したい考えだ。


新築住宅の省エネ性向上へ、2050年までの簡易ロードマップ


また、温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減するという2030年度に設定した中間目標に向けて、家庭部門では同比66%削減、つまり2013年度の3分の1まで減らすとしている。これを達成するためには住宅の高断熱化に加え、再生可能エネルギーや高効率な住宅設備を導入し、家庭のエネルギー消費量を抑えることが不可欠だ。

一時棚上げになっていた省エネ基準適合義務化も昨年急速に議論が進み、2025年度には実施される方向となった。ちなみに国土交通省によると、300㎡以下の新築住宅のうち、省エネ基準に適合しているものの割合は2019年時点で87%となっている。なお、省エネ基準は遅くとも2030年度には現行のZEHの断熱レベルに引き上げる方針となっている。

一方、既存住宅は空き家を除く約5000万戸のうち、9割弱が省エネ基準に満たない断熱レベルとなっており、新築住宅の底上げを進めながら性能向上リフォームも推進する必要がある。

住宅性能表示の改革も進んでおり、4月から断熱等性能等級5と一次エネルギー消費量等級6が追加される。さらに10月には断熱等級6・7も新設される見込みだ。等級6はHEAT20・G2レベル(UA値0.28W、1~3地域)、等級7は同G3レベル(UA値0.20W、同)となる予定。


家庭部門の削減目標は66%とかなり野心的だ(国土交通省の資料より)


フラット35でもZEHへの金利優遇などの動き

住宅の省エネ性向上を図る国と歩調を合わせ、住宅金融支援機構では10月から住宅ローンの【フラット35】SにZEHタイプを追加し、ZEHに対する金利を最優遇する。金利引き下げ幅は、当初5年間が0.5%、6~10年目が0.25%。

また、来年春からは新築住宅向けフラット35で省エネ基準を要件化する予定で、省エネ住宅の普及に向けて追い風となることが期待される。

各自治体の取り組み 鳥取県などで独自の性能基準、札幌版次世代住宅も11年目へ

各自治体の中には住宅のさらなる高断熱化を目指し、独自の性能基準を設けているところもある。
 例えば昨今、注目度を増しているのが、鳥取県の「とっとり健康省エネ住宅性能水準」(NE-ST)。2020年度に立ち上げた基準で、HEAT20の断熱グレードを参考に、T-G1~T-G3まで3段階の性能基準を設けている(表a)。


表a:C値の基準は一律1.0㎠(/㎡)と定めている


HEAT20・G1相当のT-G1を最低限レベル、同G2相当のT-G2を推奨レベル、同G3相当のT-G3を最高レベルと位置付けており、性能レベルに応じた補助金も出している(総額3億4000万円、最高150万円/戸)。

また、補助要件として、①県産材を10㎥以上使用する②県内の住宅会社が施工する─などを設けており、地元の林業・住宅業界の活性化も目標としている。このほか、県が住宅会社からの希望に応じて、UA値や一次エネルギー消費量の計算を代行するなどの支援策を行っている点も特徴だ。

札幌市も2012年から「札幌版次世代住宅基準」を運用し、省エネ住宅の普及と市全体のCO₂排出量削減を目指している。市は現在、HEAT20・G2に相当するスタンダードレベル以上の住宅の普及を目指しており、同レベル以上の住宅に対して補助金を出している。なお、市が昨年公表した「札幌版次世代住宅に係るアンケート調査結果」によると、2020年度は新築戸建住宅のうち、スタンダードレベル以上の断熱性能を有する住宅は39%となった(表b)。


表b:ベーシックレベル(UA値0.36W)以上にいたっては約6割に達している


2019年度から10ポイントの大幅アップとなり、普及促進の後押しになっていることがうかがえる。
 市によると、11年目となる今年も補助制度を実施する予定で、詳細は4月以降に公表するという。

道総研・鈴木理事にインタビュー「当面は等級6を目指して」目標とすべき断熱レベルなど

今年、住宅性能表示の断熱等性能等級が新たな局面を迎える。4月からZEHの強化外皮基準に相当する等級5の運用が始まり、さらに10月にはHEAT20・G2レベルの等級6と同G3レベルの等級7も新設予定だ。これを受けて、道内の住宅会社からは様々な声があがっており、中には「今後、どれくらいの断熱レベルの家を建てればいいのか?」「等級7を目指すべきなのか?」などと、これからの家づくりで迷っているところもある。

そこで、国の住宅政策に関わりが深く、今回の上位等級の基準策定に携わり、また、その根拠となったHEAT20も主導している北海道立総合研究機構・理事の鈴木大隆氏に、住宅会社が今後目標とすべき断熱レベルのほか、上位等級新設の経緯、断熱等級ごとの位置付け、国の住宅政策の方向性などを聞いた。


新設される断熱等性能等級の上位等級について話す鈴木氏


長期ビジョンを示す必要があった

─断熱等性能等級の上位等級新設の経緯とねらいを教えてください。

鈴木 上位等級の新設は、昨年行われた(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等の)あり方検討会で議題にあがったことで動きが加速したが、基準の検討はかなり前から始まっていた。
 
上位等級のうち特に等級7をつくる目的は、現時点では様々な技術革新を促すため。例えば、環境先進国のドイツは民間に対して、『今後こういう工程で、住宅性能の向上やエネルギー消費量の削減を進めていく』といった向こう10数年にわたる長期ビジョンを示している。日本には今までそれがなかったが、官民一体となって高性能住宅の普及を目指すために必要なもの。HEAT20もそういう考えで発足させた。

ビジョンは精度が高ければそれに越したことはないが、まずはあること、示されていることが大切。中間目標は、技術の進歩や普及度に合わせて柔軟に修正すればいい。

─省エネ基準の義務化へ向けた法案提出が、今国会では見送られましたが、その影響は?

鈴木 最終的にどうなるかはまだ分からないが、この時間は制度・基準の詰めをしっかりと行い、完成度を高めるべき時だと思っている。

等級7は2050年まで廃れない目標


等級6はHEAT20・G2、等級7はHEAT20・G3に相当する高い断熱レベルとなっている


─住宅会社は今、どのくらいの断熱レベルを目指せばよいのでしょうか。

鈴木 まず飛び越えたい最初のハードルが等級5。そして、多くの住宅会社は当面、その先の等級6を目標にしてほしい。
 
等級7は等級6との間に大きな差があり、6までの等級と意味合いが違うと考えている。つまり等級7は先ほど話した技術革新も同時に行いながら、中長期的に対応できるような将来的目標の意味合いが強い。おそらく2050年まで廃れない高いレベルの目標とも言える。
 
等級4~6はスロープに近いイメージで、時代が進むにつれ、自然と移行していけばいいと思う。そして、20~30年の間に高性能断熱建材や窓、高効率設備などの低コスト化が進んで、将来的に等級7の住宅が多くの人にとって手が届く存在になればいいと思っている。

※取材協力:道総研(https://www.hro.or.jp/

※続きは北海道住宅新聞2022年3月25日号でお読みいただけます。
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