Column いえズーム コラム

住宅の高断熱高気密総まとめ

札幌で新築住宅を建てた人の約3割が、断熱・光熱費に不満

札幌市内で新築住宅を建てて5年以内の施主40軒を住宅専門紙(株)北海道住宅新聞社が調査したところ、家を建てた後に感じた不満の中で最も多かったのは、「新築なのに家が寒い」「新築なのに今後光熱費負担が大きい」という住宅の断熱性能に関する回答でした。40軒中、なんと30%にあたる12軒が不満を感じていました。

こうした不満は、施工が大手ハウスメーカー・工務店であるかを問わず発生しています。新築なのに...。こんな後悔をしなくて済むように、家を建てる人は、事前に最低限の知識と対策を行い、自衛をする必要があるでしょう。なお、北海道では、既存住宅のリフォームでも「寒さ対策」「省エネ」目的で断熱リフォームのニーズが多い状況です。

住宅の断熱・創エネ

住宅を建てるには、土地、予算、住宅会社、デザイン、建材や住設機器など、住宅性能や省エネ、創エネに関すること以外にも、たくさんのことを検討し、決断する必要があります。

 

ですが、学校で家の正しい建て方を習ったわけではありません。住宅会社のサイトやインターネット情報、チラシなどを見ると、いずれも「自社」の家づくりが正解だと主張するばかりです。工法・技術・設備の選択肢が世に溢れ、どれが正解なのか判断が難しいのです。

省エネは難しい?

住宅購入希望者は、マイホームを建てる時に、家族の人数を踏まえた「家の大きさ」そして「間取り」については、割と早い時期に考えます。しかし、割と考えやすい「間取り」でさえ、自分でしっかり勉強する人は10人に1人程度。住宅会社に「4人家族ですが何坪の家を建てたら良いですか」と聞き、答えを教えてもらう人の方が多いのです。

 

一生に一度の高額なお買い物なのに、実際は、住宅会社に答えを聞いて鵜呑みにしてしまう。ましてや「断熱」「省エネ」などの話は難しく、自分で考えるのは最初から諦めてしまう人の方が多いのです。

住宅の断熱・創エネを解説

このページでは、住宅業界の技術専門紙を発行する(株)北海道住宅新聞社が、北海道の住宅業界がどんな断熱や省エネに取り組み、どんな住宅性能を実現しているか。

 

さらに太陽光発電やHEMS(ヘムス)、ネットゼロエネルギー住宅(ZEH)といった最新の住宅省エネ・創エネ・エコの動向なども含め、できるだけ分かりやすく解説します。理想の我が家を建てる際、基礎的な知識・判断基準として、最低限知っておいて欲しい点ばかりです。

本州と北海道の住宅の必要性能の違い

戦後まもない頃、北海道の住宅は、本州の大工さんが北海道に働きに来て家を建てたり、本州の住宅施工技術を元に、地元の大工さんが建てていました。本州の住宅は、風通しの良い家を作ることで、夏涼しく、室内の湿度も減らすことができます。冬の寒さはコタツやストーブを近くに置いて、厚着でしのぎます。

 

これと同じ発想で、北海道で家を建てると、極端なことを言えば、すきま風と一緒に雪まで室内に入ってくる、寒くてたまらない住宅、あるいは暖房エネルギーを大量に必要とする住宅になってしまうのです。

第1次オイルショックで住宅の高断熱化

北海道の住宅の「断熱」は、冬の寒さをしのぐ、命に関わる課題でした。昭和40年代以前は、住宅の断熱性能が低く、薪ストーブなどでエネルギーを大量消費し、暖房のある居間に家族が集まって寒さをしのぎました。

 

転機となったのは1973年の第1次オイルショック。灯油代の負担削減に、家を建てたい人が関心を持ちました。多くの住宅会社が、壁の断熱材を50㎜から100㎜に倍増させ、窓も木製の単板から、ペアガラス入りのプラスチックサッシに代えました。暖房用の灯油代が半減し、高断熱の住宅が建てられるようになったのです。

家が腐った昭和50年代

住宅の断熱材が厚くなった昭和50年代に、今度は住宅の床を支える木材などが腐るナミダタケが発生するという事件が頻発しました。

 

原因は防湿・気密性能が低かったこと。室内の暖かい空気や水蒸気が、建物内外の温度差や、風力などによって生じた圧力差によって壁や床などさまざまな隙間から、壁の中に入り、そこで冷やされて結露が発生、木材に水が染みこんで腐る、カビが発生して、カビの胞子が室内の空気を汚染。高性能な断熱材を分厚く壁・床・天井に配置すればokというわけではなく、「断熱」と同時に「気密」が必要だったのです。

住宅の気密性能が向上

住宅の気密性能を示す基準は、相当隙間面積(C値)と言います。例えば、戦後の住宅は、C値が10以上、または隙間が多すぎて測定不能でした。これでは、暖かい家、省エネの住宅、そして住宅の耐久性や室内空気環境を守ることはできません。

そこで北海道の住宅業界は研究を重ね、室内の空気を外に逃がさない、外気を室内に入れない密閉型の住宅建築技術「高断熱・高気密住宅」を生み出しました。具体的には、厚い断熱材を住宅に張り巡らせ、さらに壁の内部に隙間なく防湿・気密材を張り巡らせる高い施工技術、壁や小屋裏内の空気の流れを止める気流止めなどを行い、気密性能を高めました。現在の水準はC値1~0・5。桁違いの高気密住宅です。

施工技術と気密測定が重要

断熱性能や気密性能は、どんな断熱材や気密部材を採用するかという「仕様」も大切ですが、それだけでは性能は確保できません。断熱材を壁内にムラなく敷き詰める、気密シートなどを隙間無く、正確に施工するといった大工さんや断熱施工の専門職のスキルと、気密・断熱の重要性への理解が断熱・気密性能を左右します。

そこで、住宅性能を重視する住宅会社は、研究と大工さんの教育を進めました。さらに図面や計算上の性能ではなく、実際に完成した家で、屋外から壁や窓などの隙間を通してどれだけ空気が侵入してくるかを実際に測定する気密測定を行い、本当に十分な気密性能が確保できているか点検する住宅会社が多いのです。

断熱・気密性能のメリット

断熱・気密性能の高い住宅は、冬でも少ない暖房エネルギー消費で暖かい。家全体が断熱材で覆われているので、全室暖房(セントラルヒーティング)を行っても暖房コストは少なく、寝室やバスルームなど、家全体がもれなく暖かい環境を作りやすい。足下と天井まわりの室温差も少ないため体感的にも快適。
吹き抜け空間を作っても、暖かい空気が2階に溜まって1階が寒いということがないため、設計の自由度も高まります。一方、夏も、壁などからの熱気の侵入が少ないため、クーラーがなくても涼しさが維持できるメリットもあります。

 

 

高気密の凄い省エネ効果

住宅の暖房代が実際にいくらになるのか、は家を建てる人の大きな関心事だと思います。札幌で34・5坪の住宅で、壁はグラスウール100㎜、床・天井200㎜、窓はペアガラス入りのプラスチックサッシ、C値10という住宅を建てた場合、年間の灯油消費量はおよそ2410リットルもかかります。これを壁の断熱材を200ミリに倍増させると灯油消費量は2050リットル。約15%の削減です。

 

一方、断熱仕様を変えなくても、防湿・気密シートの継ぎ目を重ねてボードで抑えたり、ダクトや配線回りをテープで接着するなど、気密性能を高め、自然換気回数を0・2回以下にまで減らすと、灯油消費量は940リットルにまで減らすことができます。つまり、気密性能を高めることで灯油消費量は劇的に減ります。それ以上を求めるなら、断熱材を厚く、断熱性能の高いサッシを採用すると良いのです。

 

断熱・気密は健康にも影響する

住宅の断熱・気密は健康面でも大きな効果があります。冬場の浴室・脱衣室が寒い家では、室温の変化で血圧や脈拍が急激に変化するヒートショックになりやすく、脳卒中などで年間1万人近くの人が入浴中に無くなっています。

 

慶應義塾大学の伊香賀俊治教授らの調査によると、寒い住宅で暮らすと10年後の高血圧発症リスクは暖かい住宅の6・6倍になることがわかりました。また、暖かい住宅では生活活動量が増え、1日あたり1400歩程度の違いが出る。また、寒い住宅では認知機能が低下する確率が4倍に増える、さらには暖かい住宅では寿命が4歳延びる可能性が指摘されました。

国が定める省エネ基準は?

省エネ性能の低い住宅は、住む人の快適な生活を妨げるだけでなく、日本全体のエネルギー消費、そして地球温暖化問題の原因にもなります。そこで日本は過去数度にわたる省エネ基準の改定を経て平成25年10月にも省エネ基準を改定しました。

屋根・外壁など各部位の熱損失量を合計し、家の外皮面積で割った「外皮平均熱貫流率(UA値)」という値で住宅の断熱性能を計算するもので単位はW/(㎡・K)。北海道は0・46と定められました。また、暖冷房や換気、照明、給湯、家電、さらには太陽光発電などによる売電量も含めた建物全体の省エネルギー性能を評価する「一次エネルギー消費量」の基準も定められました。ただこれらの基準には強制力はありません。とはいえ国が、これまでに省エネルギー基準の改定を行ってきたことで、北海道だけでなく、全国の新築住宅の断熱・気密、省エネルギー性能は着実に向上してきました。

高断熱・高気密住宅を建てられる住宅会社はどこに?

こうした国が定める省エネ基準は、環境意識の高いヨーロッパ諸国の住宅断熱・気密性能に比べると低い水準でした。そのため、北海道では、先進的な住宅の断熱・気密性能を追求する住宅会社は、こうした国の基準を大幅に上回る住宅で差別化を図る工務店もいます。

 

その一方、国の基準ギリギリの住宅性能で家を建て、デザインや価格など、住宅性能以外の要素で住宅取得希望者のニーズを集める住宅会社も多い状況です。

一般の人たちにはそこを見分けるのはなかなか難しい。自社のホームページに断熱工法や、仕様を書いて「高断熱・高気密にこだわっています」と書いてある程度では、実際はどうかわかりません。家を建てたい人は、住宅会社に、気密測定を行いどのような数値が出ているか、そして国の基準と自社の断熱性能の基準などを聞いてみると良いでしょう。人は誰でも聞かれたくないことを聞かれると、丁寧に、詳細に、熱心にお答えすることは難しく、逆に、得意分野であれば、しっかり丁寧に答えてくれるでしょう・・・。

 

さまざまな高気密・高断熱工法

住宅会社がそれぞれ、自社の高断熱・高気密工法の良さをPRしています。例えば、室蘭工業大学の鎌田紀彦助教授(当時)が研究、実証を重ね、従来の在来軸組工法の断熱・気密性能を高める施工法を実現した「新在来木造構法」。構造上気密性能の高い「ツーバイフォー工法」、壁や屋根の外側からスタイロフォームを外張りする「SHS工法」などで、実際は列挙しきれないほどたくさんの工法があります。

 

工法や断熱材の優劣もありますが、実際は先ほど述べたように、大工さんや断熱の専門職が、しっかりとした施工をしているか、施工に未熟さや手抜きが無いかの方が断熱・気密性能に大きな影響を及ぼします。

 

断熱材の種類について

断熱材はさまざまな種類があります。従来から最も多く採用されてきたのはグラスウールです。窓などに使われたガラスや蛍光灯などをリサイクルし、溶かして綿状にして成型したもので、現場で大工さんが施工しやすい、断熱性能が高く長期間劣化が少ない、繊維をより細くするなど高性能化も進んでいます。

 

押出法ポリスチレンフォームも多く使われています。発泡剤、ポリスチレン樹脂や難燃剤などを気泡を含ませて成型した断熱材です。細かい気泡が独立しているため断熱性能が高く、板状なので壁などの外張り、水に強いので基礎の断熱にも使われます。

硬質ウレタンフォームは、ウレタン樹脂を発泡させ成型しており断熱性能の高さが特長です。壁などに断熱材自体が張り付いて離れない、隙間なく施工しやすいといった強みがあります。

熱硬化性樹脂を成型し高い断熱性能で注目されるフェノールフォームや、製鉄の過程で発生するスラグからつくられるロックウール、新聞紙をリサイクルした素材が絡み合い空気層を作るセルロースファイバーもあります。

それぞれに特性は異なりますが、高い断熱性能を発揮するには、断熱材の性能や厚さだけでなく、断熱・気密施工の精度にも大きく依存することを忘れてはなりません。

 

最後に...

北海道内の住宅・高断熱・高気密の取組について概略をまとめました。しかし、住宅の省エネは、こうした断熱・気密だけではなく、換気・暖房など選択も重要な要素です。

 

また、家庭で消費するエネルギーを太陽光発電や地中熱ヒートポンプなどで生み出す、家庭内でのエネルギー消費を、オーナーがリアルタイムでモニターを見ながらチェックし節約につなげるHEMS(ヘムス・Home Energy Management System・ホーム エネルギー マネジメント システム)、さらには住宅の高断熱化と高効率設備により、快適な室内環境と大幅な省エネルギーを同時に実現した上で、太陽光発電等によってエネルギーを創り、年間に消費する正味(ネット)のエネルギー量が概ねゼロ以下となる住宅=ZEH(ゼッチ)の取組もスタートしています。引き続き、こうした動きも紹介してきます。

 



省エネ&暖かい家の実例まとめ記事もあります。省エネ&暖かい家~「家は性能」事例まとめ18

2017年02月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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