Column いえズーム コラム

70代の住宅リフォームで必ずやっておくべき3つのこと

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平成元年の家を直すか建て替えるか!?

平成元年前後に家を建てて20数年。子ども達はずいぶん前に巣立ち、にぎやかだった家も夫婦2人、あるいは1人暮らしになっている。
建物はまあまあしっかりしているが、寒い。室内に段差がありトイレが狭い。バリアフリーの配慮がされていないから、老いが進む今後は心配。子ども達と同居するかどうかはわからないが、資産として残すにはここでリフォームしたほうがよさそう。

さあどうするか。
中村欣嗣(よしあき)氏といっしょに、2015年に中村氏が設計・監理した遠藤邸を2016年3月に訪ねました。

リフォームを1階に限定

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「2年前に主人をみとりました。自分がまだ元気なうちに、子どもやまわりに迷惑をかけずに自分の一生を全うする準備をしたい」
遠藤さんのリフォーム動機はとても明確でした。

相談を受けた中村さんは、内外装の目視確認に加え、床下にもぐるなどして調査をしたところ、建物の状態は想像以上にいい。
「築30年を過ぎていたら建替の提案をしたが、リフォームでいけると思った。また、北海道の家にはよくあることだけれど、数年前に外壁交換のリフォームをしていて、建替が忍びなかった」と中村さんが振り返ります。

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〈リビングの横に和室という当時の間取りは、シニアの暮らしに合わなくなってくる〉

当然ですが予算も重要なポイント。建替より費用がかからないとは言え、家をまるごとリフォームすれば1千数百万円かかります。
「食べて寝て用を足す空間はすべて1階に確保することができます。2階は夏に使う部屋と納戸と割り切り、1階だけリフォームすることに決めました」。中村さんの提案は、必要な空間に限定してしっかり直すことで固まりました。

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〈廊下とトイレの段差解消はリフォームの必須ポイント〉

トイレや寝室など生活部分を優先する

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シニアのための住宅にとって大切なことは、生活空間と就寝空間が1階にまとまっていること。中村さんはこれを「食べて寝て排せつする空間を同じフロアに」と表現します。
寝室の位置を決め、改修前のトイレ、ユーティリティなどを少しずつゆとりある広さにしていく、という生活部分の設計をまず最初に固めて、その結果キッチンが窮屈になったので、既存のキッチン収納家具をそのまま生かしながらキッチン本体は対面式に変更してダイニングと一体の設計にしました。
生活部分を優先する設計。これが今回の間取りのポイントです。

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10年以上先を見越した断熱デザイン

省エネルギーに対するスタンスは、基本的に新築と同じです。1階の壁は20~30cmの断熱で覆います。 調査の結果、気になったのが基礎。現状で問題は何もないが、基礎の品質は現在と比べれば低い。 「専門的になりますが、基礎の厚さが今より薄いうえに当時のコンクリートは中性化が進みやすい品質だったため、鉄筋の腐食の進行が心配でした。あまり地盤の良くない場所に建つため基礎の底盤が広いなど、しっかり配慮されたいいつくりで、ひび割れもないのですが、この先を見すえて基礎幅を10cm打ち増すことにしました」と中村さん。

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構造を重視することは、建築の専門家としての中村さんの一貫した姿勢でもあります。
断熱は柱の間の10.5cmに加え、外側に打ち増した基礎のうえに乗るかたちで柱の外に24cm。合計34cmとしたのは、4年後の2020年に新築住宅の半分以上をゼロエネルギー仕様住宅(ネットゼロエネルギー・ZEH)にすることを経済産業省が打ち出すなど、今後は加速度的に高断熱化が進むと予測されるからです。ZEH(ぜっち)とは、住宅内で使ったエネルギーと同じ量の電気を自家発電する家のこと。北海道は家で使うエネルギーの約6割を暖房で占めるため、暖房エネルギー消費量を減らさない限りZEHが実現しません。これから急速に高断熱化が進むと予測される理由のひとつがこの点にあります。

次の世代に何を残すか

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地元を離れた子ども夫婦が老後を地元で暮らすことを検討しはじめたことも、設計するうえで重要な情報でした。
家は引き継がれる。ただそれはおそらく10年以上先のことで、住まい手は夫婦2人のシニア世帯である可能性が高い。
終の棲家にふさわしい「食べて寝て用を足すこと」に不自由がないつくりは、シニアのリフォームの基本。基礎コンクリートを打ち増したうえで1階は先を見越した断熱性能にしたのは、引き継がれる家を見すえたからでした。

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〈机に向かう読書や書き物は、正座よりイスにすわるほうががよい〉

予想外のことが起きるのがリフォーム工事です。
工事を始めてみるととんでもないことがわかりました。
建物の基礎が、南隅を基準にすると東と西で2~3cm下がっていたのです。
「地盤沈下しているのか?」
現場に衝撃が走りました。
しかしよく調べ直すと、そうでもなさそうなのです。
というのも柱は垂直に立っている。もし、沈下によって建物が傾いているとしたら、当然、柱も傾いていなければいけません。
どうやら新築当時、基礎工事に難があって水平レベルに大きな誤差があることが木工事を前にして判明したものの、そこを直さずに柱をまっすぐに立てることで修正したものと予測されました。

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〈完成すると見えなくなる壁の断熱工事も、たくさんの写真によって記録がとられている〉

ここから、施工を担当した(株)キクザワ(恵庭)の棟梁・梶田さんの大きな苦労が始まりました。水平でない基礎に断熱材を貼って基礎を打ち増す。垂直に立っている柱に断熱の下地を組む。
「今回の工事は梶田さんの技術に助けられた場面がずいぶんたくさんあった」と中村さんが振り返ります。

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〈庭と緑を楽しむオーナーのために鉢ものを置く土間スペース〉

施主の立場に立ちながら、専門家として譲らない建物構造の安定と断熱やバリアフリー性能配慮。工事のための細かい図面を用意する一方で、常に現場からの意見を参考に図面を修正する姿勢。中村さんが設計者としてこだわってきたことが、今回のリフォームに凝縮していたようです。

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70代住宅リフォームのポイント

日常生活を優先し、生活のすべてが1階でできること
健康のため・省エネのため、断熱改修を行うこと
住宅の20年後を見すえて投資を決めること

2016年04月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。