Column いえズーム コラム

新型コロナの感染拡大防止に役立つ24時間換気 林基哉教授に聞く(1)

目次

新型コロナウイルスやインフルエンザなど、感染力の高い病気に家族の誰かがかかると、ほかの家族にもうつる危険性があります。新型コロナ感染拡大で換気の重要性がわかってきました。家庭でも、換気の善し悪しで感染リスクが高くなることがあると言います。


北海道大学 林基哉教授


そこで、新型コロナウイルスのクラスター感染と換気との関係について研究を続けてきた北海道大学大学院の林基哉教授に換気の重要性と換気でできる感染拡大防止策についてインタビューしました。2回に分けて記事を掲載します。

1.パンデミックは再び襲ってくる



2020年1月末に国内で初めて感染者が確認された新型コロナウイルスは、あっという間に全国に広がり、一時は国内がパニックになるほどでした。その後、ワクチン接種の普及や治療薬が出てきたこともあり、徐々に落ち着きを取り戻しはじめ、2023年5月にはインフルエンザと同じ「5類」指定となって患者数の全数把握が行われなくなるなど、以前ほど厳重な対策が求められなくなりました。

しかし、5類指定となった時点で国内の患者数は3年間で延べ3300万人以上、死者も7万4000人以上と大きな爪痕を遺しました。



林教授は、こうしたパンデミック(感染症の大流行)は今後も起こり得ると言います。
しかも、新型コロナウイルスの広まり方はまだ運が良い方だったそうです。



「新型コロナウイルスが国民に幅広く感染する前に有効なワクチン接種ができたことが大きい」と言います。新型コロナウイルスの突然変異が比較的ゆっくりしていたために、ワクチンの開発が間に合ったからです。ところが、次に流行するパンデミックは、突然変異が早くなって有効なワクチンが間に合わない可能性も十分あります。また、病原性インフルエンザは新型コロナウイルスよりも致死率が高く、新型コロナウイルスが流行する8年も前の2012年に、政府は新たなウイルス感染症で全国で17 ~ 64万人もの死者が出るという想定もしていました。
( https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002oeqs-att/2r9852000002oev1.pdf )

警戒すべきは新型コロナウイルスだけではないのです。

2.新型コロナウイルスのクラスター感染からわかったこと



日本では、2020年2月3日に横浜港に寄港したクルーズ客船で新型コロナウイルスのクラスター感染(感染症の集団発生)が初めて確認され、その後もさまざまなクラスター感染が発生しました。厚生労働省は、換気が悪く人が密になって過ごすような空間で不特定多数の人が接触する恐れの高い場所がクラスター感染発生の条件として警戒を強めました。

林教授は病院、飲食店など、クラスター感染が発生した現場を調査し、その原因と換気との関連付けを研究しました。


林先生の研究資料より


そこでわかったのは、

(1)換気システムが設計通りきちんと働いていなかった

(2)夜間に給気を停止させるなど、運用が不適切だった

(1)に関しては、ビルや施設の室内環境の基準を定めた建築物衛生法が求める換気量は、1 人あたり換気風量30m3/h 以上。これに対して、10m3/h以下の場合は大規模なクラスター感染が発生しやすくなっていました。また、クラスター感染が発生した病院では、換気量が設計値の50%以下になっており、換気ファン本体やダクトの清掃など、維持管理が不十分だった可能性が考えられるそうです。

(2)に関しては、夜間に給気が7 時間以上停止しており、昼間換気装置が稼働している時でも、設計した換気回数の4分の1しか出ていませんでした。そのため、病室から廊下に汚染された空気が拡散し、別の病室やナースステーションなどに流入するなどして感染が拡大した可能性があります。
この病棟では、150名以上のクラスター感染が出たそうです。換気装置は新築時に設計値通りの性能を発揮できるだけでは不十分。適切な使い方をしないと、クラスター感染という大きな被害を生む原因になります。

林教授はこの調査結果に対し、「感染対策の基本とされている換気システムは、設置されているだけでは有効とは言えません。空気の流れも考慮して設計値通りにちゃんと働いているかを継続的にチェックし、設計された換気量を長い間確保するためには適切な維持管理が必要です」と指摘しています。また、「これを機会に換気の重要性を改めて認識し、みなさんに換気についてもっと関心を持っていただければ」と話しています。

3.林教授が見聞きした換気設計の間違い

林教授は、戸建住宅でも全く同じことが言えるといいます。つまり、換気装置の設計、施工、性能測定をきちんとした上で、住まい手が適切に使用し、定期的な維持管理をする必要があります。

換気装置の設計はとても重要。専門家が適切な換気装置の選定、経路の設計などを行い、施工後に法律が求める1時間0.5回以上換気する性能が出ているかどうか、換気風量を実測するなどの取り組みが必要です。

4.換気装置を24時間運転していますか?



それでは、施工後に戸建住宅で換気システムはちゃんと運転されているのでしょうか? 林教授は、「私も参加した、新築戸建住宅の住人を対象にした調査では、首都圏で約40%、北海道でも約20%が換気装置の運転を止めることがある、と答えています(日本建築学会2022年発表)。


24時間換気の運転を一時的に止める人は意外に多い


新築住宅に住んでいる人を対象とした調査なので、全て24時間換気が設置されていますが、『常時運転する必要はないと思っていた』『窓開け換気もするから』と思っていた人がいるようです。さらに、『年中ほとんど運転しない』と答えた人の比率は、首都圏で約20%、北海道でも約6%ありました。最近の高断熱・高気密住宅では、換気装置の運転が止まると気密性が高いために空気の入れ換えが行われず、汚染された空気が住宅内に拡散される危険性が大きくなります」と心配しています。



5.日本住環境の住宅換気への取り組み


日本住環境では、24時間換気の設計・施工支援を行っている


林教授にうかがったお話は、とても重要な話ばかりですが、住宅用換気メーカーではどう受け止めているのでしょうか?今回のインタビュー内容を「ルフロ400」などの換気システムを販売する日本住環境に伝えたところ、次のような答えが返ってきました。

「日本住環境では、住宅会社からの求めに応じて、適切な換気装置の選定や換気経路の設計、さらに施工後の換気風量の実測まで有料でサービスを提供しています。これらの活動を通じて、社名の由来である『住まいの環境』を向上させる取り組みをトータルで行っています。」

この回のまとめ

24時間換気を住宅に設置することは、約20年も前の2003年に義務化されました。しかし、義務となったのは「1時間に0.5回換気し、24時間運転できる換気設備を設置する」というだけで、実際に適切に運転されているかどうかは、住まい手に任されており、換気の運転を止めても罰則はありません。そこで住宅会社は換気の重要性を住まい手に伝えるため、新築住宅を引き渡すときに「換気は室内の空気をきれいにし、24時間動かすもので止めてはいけません」と説明しますし、換気風量を調節するコントローラーも電源がオフできないようになっているものがほとんどですが、それでも24時間換気を止めることがある、という調査結果に衝撃を受けました。

ウイルスは目に見えないので、感染を起こして初めてウイルスの存在に気づきます。換気装置を24時間運転し、維持管理する重要性を一人一人が理解し、換気システムが住む人の健康や命を守っていることを改めて認識したいものです。

次回は、林教授に換気システムの性能がきちんと発揮できているかどうかを簡単にチェックする方法や、性能を維持するためにどんな機種を選べばいいのかなどを聞いていきます。

次回記事はこちら
24時間換気のメンテ問題を解消する取り組み 林基哉教授に聞く(2)

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