Column いえズーム コラム

24時間換気のメンテ問題を解消する取り組み 林基哉教授に聞く(2)

目次

6.24時間運転し続けるからメンテナンスが大事

前回は、林基哉北海道大学大学院建築都市空間デザイン部門教授にインタビューをし、「新型コロナウイルスのクラスター感染は、(1)換気装置が設計通りに性能を発揮していなかった(2)換気装置は24 時間運転する必要があるのに、人の手で一定時間止められていた-といったことなどが原因に挙げられる」というお話を聞きました。


北海道大学 林基哉教授


これらは、いずれも商業施設や病院などの大きな建物内で起こったことですが、換気の重要性は私たちが住む住宅でも全く変わりません。
そこで、住宅でも換気システムが設計通りに性能を発揮し、人の手で一時的に止められることなく24 時間運転されるためにはどうしたら良いでしょうか?

住宅用換気システムに使われる換気ファンは、24時間運転し続けるために耐久性の高いモーターを使用しており、15年以上の想定寿命があります。とはいえ、長い間使い続けるには、換気装置の維持管理=メンテナンスがとても重要です。わたしたちでうまくやれるでしょうか?林教授はこう話しています。
「戸建住宅の場合は換気装置本体がメンテナンスしやすい位置に取り付けられているか、さらに簡単に取り外せるなど、お掃除しやすいかどうかがとても重要です」


工具を使うならメンテナンスなんてしたくない、という人は多い


商業ビルなどと違い、戸建住宅では換気装置のメンテナンスは、専門の業者ではなく住んでいる人に委ねられていることが多く、本体がメンテナンスしにくい構造だったりメンテナンスしにくい位置に取り付けられていると何年もお手入れされないことも多いようです。


メンテナンスを怠ると、汚れで給気口などが目詰まりして換気不足に


換気装置のメンテナンス不足が続くと、換気風量が新築当時よりも大幅に落ち込み、結露や健康被害の原因になることがわかっています。

第3種換気システムでは、給気口のフィルター掃除がとても重要。ここが汚れているときれいな空気が室内に入ってきません。第1種熱交換換気システムでは、ファン本体にあるフィルター掃除が重要。ここが詰まると全ての部屋の換気量が少なくなってしまいます。特に給気側のフィルターは、ファンの吸い込む力が強いため、雪虫など昆虫の死骸がたくさん詰まって給気量が落ちていることもあります。「気持ち悪い」と思ってもこまめにしっかり掃除しましょう。

さて、新築時から年数が経っている場合、換気装置がきちんと性能を発揮しているかどうかはどうすればわかるのでしょうか?

林教授は、「風量計で測定すれば正確ですが、特殊な機械のため一般家庭に導入するのは難しいでしょう。一般の人も入手しやすいCO2 モニターを使えば換気がきちんとできているかどうかの目安になります。
特にコロナ感染に遭った家庭や施設などで買う方が増えているようです」と話しています。


Amazon では、手頃な価格でCO2 モニターが売られています(選び方は次回の記事でご紹介します)


CO2モニターとは、室内のCO2(二酸化炭素)濃度を測定する機械のこと。最近、Amazonなどネット通販でも1万円前後で買えるようになりました。USB電源や充電式のものも多く、気軽に使うことができます。なぜCO2濃度が換気風量が確保されていることの目安になるのでしょうか?


CO2 は呼吸で吐き出す空気に多く含まれています


CO2は、人が吐き出す空気の中に多く含まれていますが、一定濃度以上になると人体に有害となります。自然界では415 ~450ppmぐらいの濃度ですが、室内ではそれよりも濃度が上昇します。国の指標では、1000ppm以下に抑えることが健康を維持する上で望ましいとしています。諸説ありますが、2000ppmを超えると気分が悪くなったり呼吸が増えるなどの弊害が出始め、5000ppmを超えると頭痛やめまい、倦怠感などよりはっきりとした自覚症状が出ます。


換気が悪くてCO2 濃度が1000ppm を大幅に上回ると、健康被害に至る可能性もあります


建築基準法で定められている1時間あたり0.5回の換気をすれば、室内にいる人の密度にもよりますがCO2濃度は概ね1000ppm以下に保たれます。ところが、メンテナンスや設計が悪く、換気風量が設計値の半分以下しか出ていない場合は、CO2濃度が1000ppmを超える可能性が高くなります。林教授の新型コロナウイルスのクラスター感染した施設・店舗の調査では、CO2濃度が3000ppm以上になっていた店舗があったそうです。これはCO2濃度の高さだけでも人体に有害なレベルと言えそうです。

7.24時間換気を家庭内感染対策に役立てるには

林教授が指摘したように、今後、新型コロナウイルスよりも強力な感染症が流行する可能性があります。そうすると、病院などはすぐに患者でいっぱいになり、自宅療養を強いられる可能性が出てきます。第3種換気システムは、各部屋に設けられた給気口から外の新鮮な空気を取り入れ、各部屋で汚れた空気はダクトを通じて強力なファン1台で吸い取られ、外に排出されます。
この特性を生かすことで、感染症の家庭内感染拡大のリスクを抑えることが可能です。

林教授は、「病院などでの感染隔離は『陰圧』が基本。隔離する部屋の気圧を屋外よりも低く保つことで、他の空間にウイルスなどが拡散するのを防げるからだ」と言います。そして、隔離する部屋には、HEPAフィルターなどを使った空気清浄機を設置することでウイルス自体を減らすことができます。


林教授の研究資料から


住宅ではどう対策すればいいのでしょうか?
カギはやはり「陰圧」です。第3種換気システムの場合、陽性者が療養する寝室の給気口は塞いでおきます。トイレや洗面所と寝室を他の部屋とドアで区切れるようになっていれば、ドアを閉めることで隔離でき、寝室が陰圧になるのでウイルスがほかに拡散するのを防げます。HEPAフィルターなどを使った空気清浄機は家電量販店でも広く売られていますので、そちらも利用することでウイルスの増殖を抑えられます。


感染対策にはHPEAフィルターなどを使った空気清浄機も有効


「先に紹介した店舗や施設ならば、滞在時間が1時間、2時間で済むかもしれないので感染リスクはそれほど高くないとも言える。ところが感染者が家にいて、24時間看護する家族は、換気経路の設計が悪いと常に多量のウイルスにさらされる可能性がある」と林教授は心配しています。

8.真の健康住宅をめざすために

林教授は、これからも換気の重要性はますます高まると話しています。


シックハウス問題は24時間換気の普及もあって大幅に減りました


たとえば20年以上前に問題となっていた、シックハウス問題。当時は、建材や家具などから発生するホルムアルデヒド濃度の高さが健康問題となりましたが、建材のVOC濃度規制や2003年の24時間換気装置の設置義務化により、室内のホルムアルデヒド濃度は著しく低下。シックハウスを訴える人は大幅に減りました。

しかし、シックハウス被害は今もあります。
ホルムアルデヒド以外の物質によるシックハウス被害が起こっているそうです。人体に悪影響を及ぼす物質はホルムアルデヒド以外にもたくさんあり、それらの総量を規制する「TVOC(総揮発性有機化合物)」という考え方が広まってきています。
TVOCは法律で規制はされていませんが、「これ以下にするのが望ましい」とする暫定目標値はあります。ただし、TVOCと健康被害の関係はまだまだこれから研究が必要です。

9.換気のメンテナンス性を向上させる工夫

さて、林教授が示した換気システムに対する課題「1.メンテナンスのしやすさ」と「2.簡単に住人が換気を止めない工夫」に関して、どのような取り組みが必要でしょうか?


「住宅用機械換気設備の計画と性能評価」
※専門家対象で一般には入手できません


2016年に(一財)住宅・建築SDGs推進センターが制作した「住宅用機械換気設備の計画と性能評価 ダクト式機械換気設備の省エネルギーと維持管理・ライフサイクルに関するブックレット」は、省エネルギーに配慮しながら確実な換気性能を長期間確保するという観点から、住宅用機械換気システムの選び方や設計・施工・運用時の配慮事項、保守管理の手法などをまとめた住宅専門家向けの冊子です。

この冊子では、ユーザーが維持管理を行いやすいように、換気システムの設計段階で給気口や排気口を清掃しやすい場所に配置することや、換気システム本体も日常のメンテナンスがしやすい場所に設置することなどを求めています。

換気メーカーの日本住環境では、この冊子が制作される以前からメンテナンスのしやすさに配慮した第3種換気システムを販売しています。


工具なしでメンテできるルフロ400


たとえば同社の第3種換気システム「ルフロ400」は、ドライバーなどの工具を一切使わずに本体カバーや内部のファン、フィルターを外してメンテナンスできます。作業手順は、1.電源を切る→ 2.本体の蓋を回して外す→ 3.羽根の固定ナットを手で回して外す→ 4.羽根をパカッと外すのわずか4 ステップ。ホコリや汚れなどを落とし、きれいな状態にすればファンの能力も元通りになります。フィルターも簡単に外せるのでこまめに掃除できます。こうしたメンテナンスを毎年行うことで換気風量を新築当時と同じくらいに維持できます。

ファン本体の清掃は年1回で十分。大きな住宅をファン1台で24時間換気できるルフロ400ですが、ファンの大きさは直径19cmと扇風機の羽根よりもコンパクト。大掃除の時に一緒にメンテナンスすれば、ファン清掃も負担に感じることもなく、すっきりした気持ちで新年を迎えられそうです。


給気口のフィルターは用途に応じて選べます(日本住環境・ルフロ400カタログより)


また、各部屋に設けられた給気口は、フィルターを手で引っ張って外し、掃除機で汚れを吸い取るだけ。誰でも簡単にできます。
汚れがひどい場合は水洗いもできます(EXフィルター、HGフィルターは水洗い不可)。ちなみにフィルターは、標準品のほかに、PM2.5対応や通気性重視など5種類から選べます。だいたい1年ぐらいで交換時期を迎えます。標準フィルターなら10枚1セットで税込4400円と安く、日本住環境のオンラインショップ( https://www.njkk.co.jp/support/shop/) で簡単に購入できます。1度購入すれば、普通の家庭ならだいたい2年分使えます。

10.換気システムを人為的に止められないために

(一社)北海道建築技術協会では2020年に「住宅用ダクト式換気システムの設計と施工」というセミナーを開催しました。このセミナーで配布された冊子「住宅用換気・空調ダクトシステムの設計と施工」は、北海道で住宅を設計する技術者が、換気装置の設計や施工に関するマニュアルとして使うことを想定しています。



このテキストでは、「24時間換気装置の入切スイッチは、間違って切られないように、風量調整のコントローラーや照明のスイッチとは別に設けます」と明記されており、換気システムの運転を住人の意思で簡単に止められないことを求めています。


ルフロ400のコントローラー


日本住環境では、メインスイッチを換気風量コントローラーとは別にしていますが、さらにルフロ400の風量コントローラーに適正換気量の目印を付けたり、正常動作をしている場合はブルーのLEDが、異常がある場合は赤のLEDが点灯するなど、24時間換気の適正な換気量と動作状況を表示することで換気装置がきちんと動作しているかどうかを目で見てわかりやすく伝える工夫をしています。

このほか、換気システムのメンテナンスでは、ダクトのお掃除も必要となることがあります。ルフロ400のような第3種換気システムは、新鮮な外の空気は各部屋の給気口から供給され、ダクトは汚れた空気専用の通り道となって室内に戻ることはないため、ダクトのお掃除は毎年する必要はありません。一方で第1種換気システムでは、新鮮空気の供給にもダクトを使用するため、ここが汚れていたりカビなどがあると「新鮮空気」とは言えなくなり、健康被害のリスクも高くなるため、定期的なお掃除が必要となります。

このダクトのお掃除はDIYでも可能ですが、万全を期するなら専門の業者さんに任せた方が確実にきれいにできます。ラジオCMなどでおなじみの「札幌ニップロ(株)」さんは、暖房・換気設備の施工を行う会社ですが、換気装置本体やダクト掃除などメンテナンス業務も行っています。徹底的にきれいにしてくれます。詳しくは、「10年以上使い続ける24時間換気システム。掃除のしやすさが超重要! 」をご覧ください。20年掃除していない換気システムの汚れ、すごいものですよ。

換気システムがきちんと働いているかどうかの目安となるCO2濃度の測定は、市販されているCO2モニターが活用できます。
日本住環境では、精度が高くて温湿度の管理もできる多機能CO2モニターを販売しています。これについては、次回の記事で詳しく取り上げます。

換気が人々の健康に重要な役割を果たしていることがわかりました。適切な使い方、メンテナンスをきちんと行って、健康な暮らしに役立てましょう。

日本住環境では、YouTube チャンネル「家のサプリ【住まいの健康情報】」を公開中です。換気に関する情報ももりだくさん!


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新型コロナの感染拡大防止に役立つ24時間換気 林基哉教授に聞く(1)

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