Story 取材記事

吹抜の大開口・待合室をSE構法で実現「おなかのクリニック札幌」 SVD建築工房


2025年6月上旬、札幌市西区八軒に「おなかのクリニック札幌」が開院しました。

設計したのは「ここちよさ」をテーマに光・風・季節の変化を採り込む設計で人気のDAIDA DESIGN STUDIO(札幌市南区)の大田司さん。


広い駐車場から見たクリニック。上下に配された大開口が印象的な美しい外観


施工を担当したのは(株)SVD建築工房(神勝彦社長・札幌市清田区)。柱と梁を剛接合した強固なフレーム構造で、大開口・大空間を可能にするSE構法を採用し、一般住宅のほか、クリニックやスポーツジムなど中規模建築の実績も豊富な工務店です。

開院して間もないクリニックを拝見しながら、理事長先生と神社長にお話をうかがいます。

風と光を感じるダイナミックな吹抜けの待合室



屋根付きのエントランス。アナベルなど季節を彩る植栽が来院する人を迎えてくれます。



中に入ると右手に大きな連続窓を配した吹き抜けの待合室が広がっています。SVD建築工房が採用するSE構法によって、木造建築でこの大スパンを実現することができました。



ソファタイプの長椅子が並び、窓から入る日の光やペンダントライトのやさしい灯りが心地よい空間です。



診察室前のベンチには視線を遮る木製のルーバーをプラン。



待合室を抜けるとスタッフのロッカールームやトイレ、検査室などが続いています。廊下の突き当りには植木の緑を採り込む窓が配されています。

ホスピタリティを感じさせるインテリア性の高い造作の数々

SVD建築工房は、空間に合わせたオリジナル家具(什器)の造作が得意。一般住宅ではテレビボードをはじめとしたさまざまな家具、クリニックや店舗では専用の什器を空間に合わせて製作しています。おなかのクリニック札幌でも使いやすさにこだわったデザイン性の高い什器が提案されています。



待合室や廊下の腰壁と同様の羽目板仕上げにした受付カウンター。掲示板や荷物置き、無機質なモニターの目隠しなど、来院する患者さんへの配慮が感じられるデザインです。



診察室のデスク、引戸などの建具も造作によるオリジナルです。



処置室には看護師も患者さんも使いやすいカウンターが。パーテーションによって2人が同時に処置を受けられるようになっています。電球色に近い温かみのある照明が、患者さんの気持ちを和らげてくれそうです。



処置室はバックヤード兼廊下に通じており、突き当りは職員玄関になっています。



直線でつながるバックヤードは、処置室をはじめ、各室につながる動線が確保されています。扉付きの収納棚も造作によるもの。上部のルーバーは空調の目隠しになっています。



2階に上がると簡易キッチンを擁したスタッフの休憩スペースがあります。吹抜けに面したオープン設計で、ダウンライトや腰壁の間接照明がホッと一息つけるような寛ぎの空間を演出しています。



造作の大型書棚の奥には医師室が2部屋用意されています。吹抜けに面した腰壁には端から端まで扉付きの収納を完備。通路を活用し、収納計画もばっちりです。

理事長と神社長にお聞きします

SVD建築工房さんとの出会いは?

理事長先生 岩見沢の本院を2013年に新築した際に設計を依頼したDAIDA DESIGN STUDIOの大田さんに、今回も設計を頼んだところ、ダイナミック構造の木造建築施工に定評のあるSVD建築工房・神さんを紹介してもらったのがご縁です。


岩見沢にある「おなかのクリニック」本院はRC造の大型施設。施工はゼネコンによって行われた(DAIDA DESIGN STUDIO公式サイトより 撮影:安達治氏)


神社長 大田さんとは2017年に竣工した国籍や診療科の枠を超えたプライマリケアを提供するNiseko International Clinic(nic)や、2024年に完成したnicの分院であるNiseko Wellness Center(NWC)で施工を任せていただき、今回が3度目のお仕事になります。

プランについてはどんな要望がありましたか?

理事長先生 岩見沢の本院もそうでしたが、「病院らしくないホッとできる消化器内科クリニック」がキーワードで、大田さんらしい「光と風が抜ける」プランを希望しました。


岩見沢本院の待合室。札幌同様に、外の景色を採り込む大開口と開放的な室内空間が特徴的だ(DAIDA DESIGN STUDIO公式サイトより 撮影:安達治氏)


コロナのパンデミックは3年ほど続きましたが、うちの病院はスタッフからも、通院する患者さんからも、誰一人として感染者が出なかったんです。大田さんの「通風計画」のすばらしさを実感した出来事でした。

この経験からも、デザインのベースは本院と同じようなプランを希望しましたが、本院で必要なかったと感じたポイントはカットしてもらうようにしました。


おなかのクリニック札幌 待合室上部は風が行き来する吹き抜け空間で2階と繋がっている


例えば本院は規模が大きいという事もあり、給湯機が10以上付いていますが、経年劣化で壊れた時に水漏れを起こし、浸水するなどメンテナンスが大変だったので、今回はできるだけ少なくしてほしいと伝えました。

神社長 1階は大型ボイラーを設置することですべての給湯を賄い、2階はミニキッチンのシンク下に小型給湯機を1つ付けることにしました。トイレも2階には設けず、1階にだけ設置しています。

SVD建築工房・神社長に施工を依頼した感想は?

理事長先生 希望やこだわりを追求した設計は、どうしても造作による意匠デザインが多くなってきます。使う素材にもこだわった造作は、私の多くない予算を圧迫する時がありました。

そんな時、神さんは素材感や機能、デザインの似た既成の商品で代替案を出し、コストバランスを図ってくれました。



また、前庭の目隠し壁は当初、蛇籠(じゃかご:竹材や鉄線で編んだ長い籠に砕石を詰め込んだもの)を提案されていましたが、費用が高く、本院で採用したところ、ネズミが巣を作ったり、積雪によって変形するなど、これもメンテナンスに難儀しており気が進みませんでした。

神さんに相談したところ、木目仕上げでデザインも良くメンテナンスもしやすいコンクリート壁を提案してくれて、費用や管理面でも負担が減り、とても助かりました。

神社長が建築家とのコラボレートで大切にしていることは何ですか?


穏やかで気さくな神社長。質問に対してもしっかりと受け止め丁寧に応えてくれる


神社長 外観はできるだけスッキリとシャープにしたいのですが、通気や屋根の雨仕舞いのために、必要な納め方という現実もあります。そうした機能性とデザイン性のバランスを取りながら、完成形を目指すのが私の役割だと思っています。

費用面も同様で、使用する素材や商品を変更することでコストバランスを保つことも重要です。

そうしたバランスを取りながら、設計者が描いたデザインスケッチのディテールやイメージを損ねないよう仕上げることが大切だと思っています。今回のように造作が多い場合は、キレイに納まっていくととても達成感がありますね。

【記者の目】



神社長は現在、札幌市内で自宅を建築中です。次回はSVD建築工房が建てるこだわりの住宅をご紹介予定です。お楽しみに!

写真 スタジオスーパーフライ 大道貴司
記事 iezoom編集部 松下綾


2025年07月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。