北海道で20年~40年前に新築住宅を建てた方、あるいは中古住宅を安く購入し、その家をリフォーム・リノベーションして快適な住まいに、というニーズは年々高まっています。
外壁や屋根、キッチンやバスルーム、内装などを直したいという要望も多いですが、案外多いのは、家が寒い、結露に悩まされている、暖房代がかかりすぎる、といった住宅の断熱・気密などに関する要望です。
とはいえ寒さや結露、省エネの悩みを解決できる断熱リフォームという選択肢に気づかない、あるいは実現できる住宅会社に出会えないケースも少なくないようです。どのリフォーム会社を信頼していいのかわからないという声も聞きます。今回は札幌圏の住宅の断熱改修に詳しい専門家に「断熱改修・外壁交換」の注意点を中心に話を聞きました。
断熱リフォームの施工例から
編集長/戸建て住宅の断熱リフォームを、広い札幌のどのリフォーム会社に頼み、どのような工事をしてもらったら快適な住まいを実現できるのか。
多くの方が悩んでいます。まず皆さん、日頃行っている住宅のリフォーム工事について一例を話してください。
住み慣れた家を壊したくない /サンケイ建匠
入山/以前なら築30年を超える住宅は建て替えることがほとんどでしたが、最近はテレビ番組の影響もあり、札幌でも「住み慣れた家を壊したくない。リノベーションしたい」というお客さまが増えました。
たとえば、車いすが必要になった施主のお母様が自立した生活を送れるよう、約26坪の住宅を増築して2世帯同居できるリノベーション工事をしました。お母様の希望で「亡くなった主人が建てた家だから」と、主要な柱と基礎は可能な限り再利用しました。
断熱改修、14坪の増築と間取り変更、バリアフリー改修など含め工期は1ヶ月半かかりました。札幌市の事例です。
入山俊文さん(サンケイ建匠) 社員5人の小さな会社。新築の現場管理で経験を積み、今はリノベーション室長。リフォームはお客さんとやりとりの回数が多いぶん、結びつきが深くなるのが魅力。メインは木造戸建てのリフォーム。札幌市内のマンション内装リフォームも手がけており「お客さんの建康にまで気を配ったリフォーム」を目指す。 写真 入山俊文さんのリノベーション事例 断熱改修、バリアフリー化と増築で2世帯同居の住宅に
あの「北海道の家」も暖かく改修!/ヨシケン
吉田/古い家には良いところもあり、そこはきちんと評価した上で、断熱性など現代の水準に達しない部分はきちんと直すようにお客さまに話しています。「北海道の家」で有名になったT社が建てた築23年の江別の住宅は、お施主さまが「頑丈でしっかりしている」とお気に入りの家でしたが、冬場の寒さと結露に悩まれていました。
T社は独自工法のため、リフォーム提案で競合した数社は間取り変更も最小限にした無難な提案をしたようですが、私は構造面も検証した上で間取りの大胆な変更やしっかりした断熱改修とバリアフリー化を提案して受注し、お客さまにもたいへん喜んでいただきました。
吉田純治さん(ヨシケン一級建築士事務所) 兄が吉田建産(株)という建築会社を経営。父の代からやっていた。自分の好きなものをつくりたいという思いが強く、別部門を立ち上げ、設計も施工も行う。先代からの古いつきあいのお客さんからのリフォーム依頼も多く、「建て替わったの!?」というくらい変えてしまうフルリフォームが得意。写真 冬の寒さと結露を克服し、ウッディな住まいに大変身
山本/特に高齢の方は床が寒いといわれます。床に入れてあるはずの断熱材が垂れ下がったり、落ちているケースが多いですね。
築20年以上の家が暖かく変身する/あったかハウス河合建築事務所
河合/私は「すきま風のない家をつくりたい」ということでやっています。お客さまの中心は50代後半~60代なので、お住まいも築20年以上の建物が多いです。
先日は札幌市北区新琴似で築50年(1964年建築)の物件をやりました。家の基礎は外回りが鉄筋の入っていないコンクリート基礎、内部は外回りと独立し、束石を立てた昔のままでした。
床下点検口がないから、畳をはぐって点検口をつけようともぐってみたら、カビ臭い。畳の裏が真っ白にカビている。これはダメだと消毒を青山プリザーブに頼んで防カビ剤をまいてもらい、防湿工事をして断熱材も入れて...。最低限のことしかできませんでしたけど「いや、あったかくなったわ」って喜んでもらいましたよ。
河合良夫さん(あったかハウス河合建築事務所)
主に新築住宅の現場長として30年の経験。札幌で独立して丸3年。断熱リフォーム主体で、営業から図面描き、施工の管理、集金までこなす。
新しい換気システムの普及を目指す「NPOパッシブシステム研究会」と環境省登録団体の「あったかリフォーム倶楽部」に参加。
最新技術の習得はもちろん、市民セミナーで情報発信。古い家でも手を加えてあったかくしたい、直るものなら直してあげたいと強く感じている
思い出の家を残すためにリフォームして暖かく
吉田/壊して新築した方がいいものができちゃうんですけど、建物に愛着があれば残してあげたいですよね。なかにはリフォームを決めて、開けてみたら、ここもダメだ、そこもダメだと、構造の直しを延々やってさっぱり進まない泥縄のケースもあります。
それでもいろんな提案をして、お客さんに「こんなこともできちゃうの?」と思っていただけると、幸せ感があるんですよね。
入山/弊社の場合、新築の断熱の方法は現場発泡。ウレタン系のイソシアヌレートという樹脂を吹き付ける工法が100%なので、リフォームにもそのノウハウを利用しています。
河合/昔は気密性を高める、断熱効果を上げる、という概念すらなかったですよね。私は新住協という産学一体の省エネ住宅研究団体に入って初めて学びましたから。
1970年代に使われていた気密用資材は0.1mm厚のポリフィルムがせいぜい。100mm厚・密度16キロの断熱材を床と壁に入れるのが「断熱住宅」でした。断熱材の上に張る壁のポリフィルム、床のポリフィルムは、本来は重ね合わせてスキーのジャンプスーツのように上から下まで連続しなければならないのですが、当時は床面で突きつけたらカッターで切ってしまって。
そういう概念しかなかった時代の建物を、いま必死になって直しています。
外装そのまま、内装工事でできる断熱リフォーム
編集長/新築は特別な費用をかけずに暖かい家ができるのに、断熱リフォームとなると数百万円の費用がかかります。もう少し割安にできる方法はありますか。
例えば内装のリフォームを依頼されたときに、断熱工事も一緒にできるのでしょうか?
山本/できます。断熱改修というと、皆さん外壁からしないとダメだと思い込んでいますけど、室内側からやる方法もあるんですよね。ボードを剥がして、断熱材を入れ直して。
そうすると防湿・気密用のポリシートもきちんと貼れるし、外壁材を張り替える費用もかかりません。弱いところには合板を貼ったりして耐震も一緒にできます。家具を移動しなくちゃならないので少し大変ですけどね。
山本明恵さん(恵和建築設計事務所)
住宅設計の本業とは別に(一財)北海道建築指導センターで住宅相談員として全道一円の一般市民からの相談に乗る。また、専門家や市民団体と行政が連携し住まいの課題を解決するNPO法人「札幌住まいのプラットフォーム」で理事長を務める。
ユーザーの生の声を聞く機会が多く、最近は新築よりもリフォーム相談が多いという。特に65歳前後の相談が圧倒的に多い。建て替えた方がいいのか、リフォームして住み続けるのか、迷う人が多い。
河合/寒さの原因は、壁の中を冷気が床下から天井裏に向けて移動していることです。
せっかく家の中を暖房しているのに、壁はその熱を奪って天井裏に抜けている。それが寒さの一番の原因なんですね。これを止めれば、暖かい家に変わります。
クロスの張り替え工事の時に一緒にできる断熱工事として、私は新住協方式の「気流止め工事」を行っています。
例えば中間仕切り壁の石膏ボードを床から90cmくらいの位置で切って、壁の中に詰め物をして冷気の流れを止めます。詰め物としては、グラスウールをゴミ袋に入れ掃除機で吸うことで小さく圧縮したものを、壁の中に入れて放してやります。布団圧縮乾燥機の要領ですね。小さくしたグラウスールを壁の中に入れ、再びふくらむといい具合に壁の中がふさがります。
本当は2階もやればいいんですけど、床下だけでも効果がありますよ。
柴田/1階は内側からやって、2階は外側からやったこともありますよ。築45年の札幌市清田区の家でしたが、モルタル壁がごつくてまだ使える。1階の壁は壊さないでくれというので、室内側の壁を破って床も剥がして断熱材を入れて、それから構造用合板を貼りました。
年配の方だと既に屋根も壁も窓もお金をかけて直しているので、そういう場合は室内側からやるのがいい。お客さまには一度引っ越してもらわなければなりませんが、工程はそう長くはありません。
結露の悩みは意外にカンタンに解決できる!
編集長/北の街・札幌ならではの「結露をなんとかしたい」という相談はありますか?
柴田/ありますよ。ひとつはサッシ。ひどいのはお風呂の窓のペアガラス間に水滴がたまっているんです。カビが生えて真っ黒になっていて、内側と外側をキレイに拭いても黒ずみがとれない。それはガラス交換で対応します。
ガラス交換時にステイ(金具)やレバーハンドルが寿命なら、これも交換。ただし、気密パッキンの交換は足場を建てないといけないから2階が難しい。いずれにしても窓サッシを丸ごと交換するよりはるかに安いです。
河合/5年前にリフォームした札幌市清田区の家ですが、窓は引き違いからサッシを交換、断熱材も外から入れて、構造用合板を貼ったんですけど、それでも2階の寝室が結露すると連絡がきたんです。
で、行ったら確かにベチョベチョ。見るとストーブが灯油のファンヒーターなので「ファンヒーターは燃やした灯油の量と同じだけ水蒸気を室内に出すからやめてね」と頼んだんですが、寝室だから温度も低いし、電源も近くにないので他の暖房機も設置しにくい。
困って「グッドマン」換気口を1個つけたら解消しました。押入れの中も結露するというので、押入れの中にもつけたら結露が全くなくなりました。グッドマンは余計な電気も使わないし、重宝しています。
窓の結露は換気不足の場合も!
柴田/窓ガラスの結露は、換気量が足りない場合が多いですね。空気の入口と出口が決めてあればいいですが、そうなっていない住宅が多いから、大手ハウスメーカーの建てた家でもやっぱり湿気が家の中にこもってるケースが多い。
吉田/昔の家はガラリ式の換気レジスターがついていたりしますね。お客さまに「これは何のためについているの?」「空気を入れるためですか、出すためですか?」と問われても答えにくい。あるときは出すし、あるときは入るあいまいな存在が「ガラリ」です。
私なら結露は湿度感知型の換気扇を2台つけましょうと提案します。1階の脱衣室に1個と、2階の寝室に1個つけて2台を回してくれれば、たいていの結露は解消しますね。
山本/最近はかなり浸透しましたが、以前は防湿・気密のためのポリシートの張り方も知らない大工さんもいましたからね。推して知るべしです。
建て替えるべきか、リフォームで乗り切るべきか?
編集長/リフォームするべきか、解体して建て替えるべきか、最終的な見極めはどのへんがポイントになるのでしょう? 山本さんのところにはそういった相談はありますか?
山本/退職された方は、ご夫婦ふたりであと20年は住むつもりで、建て替えた方がいいのか、リフォームした方がいいのかという相談が圧倒的に多いですね。
札幌市内に土地を持っている方は、最近はコンパクトな小さな家に建て替えたいという方が増えています。
「老い先短い」ですか? そうでもないよ!
柴田/私はお客さまの年齢によって提案内容を変えますね。
年配の方にはなるべく費用をかけずにやろうと提案します。2階が空き部屋になっていても、そこは手をつけずに、主に生活している1階だけを改修しましょう、とかね。
60歳以上の方は皆さん「せいぜいあと10~15年」と言いますけど、たいてい元気で長生きですよ。リフォームしてから30年、90歳でもピンピン元気な方がたくさんいらっしゃいます。
河合/やっぱり、まず予算ですよ。
いじる部屋、いじらない部屋を決めて、いじる部屋は床を壊して断熱材を入れて、壁をほぐして断熱材を入るだけ入れて、床下にもぐって発泡ウレタンを吹き付けて。あらかじめ「2階は寒いですよ」と伝えておきますけど、それでもあったかくなったと喜んでくれます。2階はいじらないって決めたのに「やっぱり上も入れてくれ」というお客さんもいますね。
山本/私は「あと何年住むつもりか」を尋ねますね。
10年か、20年か、年数である程度線引きしています。20年住むならもう一回建て替えてもいいですし、ご夫婦どちらかが体調が悪くて、いずれ一人になったら高齢者賃貸住宅に移るつもりであれば、できるところだけリフォームして住んだほうがいい。
なかなか直接聞きにくいんですが、あと何年住みたいのか、家を受け継いでくれる人がいるのか、は重要です。
柴田/私はもう端的に聞いちゃいます。「あとどのくらい暮らすと考えてるの?」「10年? ダメだよ。15年はみておかなきゃ」「このへんまで直して奥さんに残した方がいいよ」ってストレートに。
まあ、自分も歳をとったから言えることなんでしょうけどね。
入山/僕なら絶対、言えません。ありえないですよ(笑)。
編集長/リフォームの提案にも、年の功がいかされているんですね。
座談会の続きはこちら
→施工次第でタイルでも凍害。お勧めの外壁は? 札幌リフォーム座談会(2)
2015年02月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。