Column いえズーム コラム

当別の家具工房・旅する木を訪ねて


札幌の中心部から車で40分ほどの当別町東裏に、旧東裏小学校をアトリエとする家具工房「旅する木」があります。一点一点、完全オーダーメイドで製作する家具は、オーダーキッチンをはじめ、チェストやテーブル、仏壇、木製の車いすなど、どれも使う人の暮らしや気持ちに寄り添ったものばかり。一生ものの一点を送り出しています。iezoomでは過去にも造作キッチンやダイニングセットなどをマイホームに採用したお宅を取材していました。今回は、代表の須田修司さんが、家具を含めた住宅の総合プロデュースを手掛けたと聞き、家具の製作や、家づくりに携わるようになった経緯などを伺いました。

人の体に合った、使いやすいモノを作りたくて家具職人に


旧東裏小学校の体育館を工房に、教室をショールームとして活用している


須田さんはカメラのデザインや製造を行うエンジニアの仕事をしていました。当時、カメラ業界は性能に加え、どれだけ軽量化できるかを競い合っていた時代でした。



須田さん 「世界最軽量」を求めて小さくなっていくカメラは、決して人の手のサイズに合っているとはいえず、使いやすさが損なわれていることに違和感を感じていました。自分は人が使いやすいものを作りたい。もともと家具や木工などが好きだったので、思い切って家具職人を目指そうと、20代後半で旭川の家具工房に弟子入りしたのが家具の道に入ったきっかけです。


教室に展示された作品の数々。手前からダイニングテーブルと椅子セット、ソファー、テレビボードなど


旭川で修業する中で、建築も含めた「暮らし全体を提案したい」と感じるようになった須田さんは、独学で二級建築士の資格を取得し、札幌の住宅会社に転職します。その後、35歳の時に独立して家具工房「旅する木」を設立しました。


iezoomで2021年に取材した住宅のキッチン


iezoomでは過去に、当別町の老舗建設会社で、田園生活を楽しむ暮らしの提案や、薪ストーブや自然素材を使った家づくりに定評のある辻野建設工業の住宅取材の際に、「旅する木」が造作したオーダーキッチンやテーブルなどを拝見していました。木製のオーダーキッチンは惚れ惚れするような美しさで、機能性もばっちり。決して主張しないデザインですが、艶やかで美しいフォルムのおかげで、「旅する木」の家具が入ると、空間がさらにグレードアップする感じです。

工房で暮らしを共にしながら学ぶ職人の技



工房に使っている体育館。この建物と巡り合うまでは、使わなくなった玉ねぎ倉庫なども候補にあがっていたそうです。天井が高く広々とした作業場で、3人の職人さんが製作に励んでいました。





40代を筆頭に、20代の職人さんが二人。若い方が多い印象です。どの業界も若手不足が深刻ですが、須田さんのところは様子が違っています。職人さんを、どのように育成されているのでしょう。

須田さん 工房に入って2年間は住み込みで働いてもらっています。近くに自宅がありますが、私もここに寝泊まりして、生活を共にします。言葉では伝わらないことも、一緒に過ごす中で感じ取ってもらえると思うからです。思い切り距離を無くしてしまうんです。技術はその後についてくるものだと考えています。昔の職人さんはみんなそうでしたね。来春には20歳の女の子も入ってくる予定です。

今回の住宅建築について教えてください


札沼線廃線跡を活用した新・当別田園住宅エリアに建つTさんのお宅


Tさんとは、ダイニングテーブルをオーダーしていただいたことがきっかけで、数年前からお知り合いでした。私の工房で家具をつくっていただいた方たちと、「旅木会(たびもくかい)」という食事会を定期的に開いているのですが、Tさんもそこに参加して、交流を深めていました。

ある日の旅木会で、Tさんに「家具も含めて家を丸ごと提案してほしい」と依頼されたんです。辻野建設工業さんが分譲中の新・当別田園住宅エリアが理想的なロケーションで、土地の購入と施工を辻野建設工業さんに依頼し、家づくりが実現しました。


写真は「旅する木」ホームページより


外壁のイメージを共有するためのツアーに出かけたり、真夏の現場でキハダのフロア貼りをTさんと一緒にしたり。曲線を描いたベンチや、4隅がRのキッチン造作は大変でしたが、とても喜んでいただき、苦労が報われました。デザインはほぼ任せてもらえたので、遊びのある提案を随所に散りばめています。


見晴らしの良い2階LDK。「旅する木」のオーダーメイド家具で統一されている


「窓の向こうに広がる景色、内装の統一感など、家の中を見渡した時に納得感があり、満たされた持ちになる」とTさん。奥さまは「主人が物置の整理など、空間を有効活用するためのイレギュラーな家事をしてくれる時間が増えたことが嬉しいです。家が好きだから、家の事がしたくなる。このサイクルがとても良いと思っています」と話します。



須田さんは家具製作をベースに、今後も住宅建築を展開していきたいと話してくれました。冬は雪原が広がり、春にはタンポポが咲き乱れる野原に建つ「旅する木」の工房とショールーム。興味のある方は問い合わせの上、工房を訪ねてみてはいかがでしょう。使う人の暮らしや気持ちに合った家具を、一緒につくってくれる家具工房です。

家具工房「旅する木」



写真:スタジオスーパーフライ 大道貴司
記事:iezoom編集部 松下綾

「旅する木」公式ホームページはこちら
北海道石狩郡当別町東裏2796-1
TEL:0133-25-5555
FAX:0133-25-5557
MAIL:kagu@tabisuruki.com

2023年12月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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