Column いえズーム コラム

札幌建築鑑賞会の赤れんが庁舎見学に参加しました!


「わが街の文化遺産を再発見」をテーマに、1991年に発足した札幌建築鑑賞会は、札幌の街並みや歴史的建物の見どころを解説する「大人の遠足」や写生会「古き建物を描く会」を定期開催するほか、通信「きーすとーん」を年3回発行しています。

今回は「大人の遠足2025~リニューアル赤れんが庁舎は何を物語るのか?~」にiezoom編集Mが参加、代表の杉浦正人さんの案内のもと、ディープな視点で語られる赤れんが庁舎の魅力に迫ります。


目次

赤れんが庁舎が周辺建築にもたらした影響を探る



集合場所は札幌市北3条広場(イチョウ並木)・赤れんがテラス前。代表の杉浦さんのあいさつでスタートです。「大人の遠足」は年に数回開催されていますが、今年は今回限りということと、対象がリニューアル後の赤れんが庁舎とあってか、90名の応募があったそう!2回開催予定だったところを4回に増やして行うということです、凄い人気ですね。編集Mは個人的に会員となっていましたが、鑑賞会は初参加。今からワクワクが止まりません!


代表の杉浦正人さん 2024年には著書「さっぽろ探見 ちょっとディープなまち歩き」(北海道新聞社)を発刊


杉浦さん 赤れんが庁舎が2025年7月に5年の改修を経てリニューアルしましたが、見どころは八角塔だけではありません。赤れんが庁舎は今も昔も、周辺の建物や街並みに大きな影響を与えているんですよね。今回はそこにスポットを当てて皆さんと見ていきたいと思います。まずは赤れんがテラスの中から見て行きましょう。

建築資材に見る地域性と歴史



はじめに訪れたのは2階レストラン街。写真は「鶴雅ビュッフェ ダイニング札幌」の店舗前。壁面には札幌軟石が使われています。

杉浦さん 札幌軟石は耐火性の高い石材で、日本基督教団札幌教会や旧札幌控訴院庁舎(札幌市資料館)など、明治期から盛んに使われてきました。赤れんがテラスの店舗装飾には、北海道・札幌に由来した素材が使われているんですよね。そうしたところに着目して見て行こうと思います。



こちらは「cafe&bar Manhattan(カフェアンドバー マンハッタン)」の店舗前。レトロなレンガ壁が目を引きます。

杉浦さん 私が調べたところ、壁面に使われているレンガは、札幌市豊平区西岡に昭和20年代に建てられたりんご倉庫のものと思われます。明治時代に使われていたレンガは白石村(現・札幌市白石区)で創業した鈴木煉瓦製造場がつくっていたのでレンガには「S」の刻印があり、そこからも根拠を得ています。建築当時の赤れんが庁舎にも、鈴木煉瓦が製造したレンガが使われています。

そして、この西岡のりんご倉庫自体も、明治時代に月寒にあった25連隊の建物を再利用している可能性が高いとみています。

うわぁ~!のっけからものすごくディープな検証を披露されています。参加者の皆さんも興味津々でお話に聞き入っています。



建物を出る手前で再び立ち止まる杉浦さん。イチョウ並木側のエントランス壁にも石材が使われているようです。

杉浦さん これは国産の石材ではなさそうですが、よく見るとアンモナイトなどの化石を発見することができます。

イチョウ並木と赤れんが庁舎がつくる景観美



建物を出た後も杉浦さんのお話は続きます。

杉浦さん 皆さんの足元を見てください。側溝がありますよね。側溝から向こう側は、現在歩行者天国になっていて、行政が整備したエリアです。側溝から建物側は、いわば私有エリアですが、レンガのインターロッキングが連続しています。

民間企業も赤れんが庁舎に似合う街並みの整備を心掛けている表れだと思います。



このイチョウ並木についても解説がありました。1925年(大正14年)に札幌発の街路樹が整備された舗装道路が完成した時に記念として植栽され、道内に現存する最古の街路樹でもあるのだそう。当時、東京から運ばれた32本のイチョウは、樹齢100年を超えてなお28本が現存しています。


赤れんが庁舎敷地内には当時運ばれてきたイチョウが大きく育っている


杉浦さん 赤れんが庁舎に向かってシンメトリーに街路樹が立つ景観デザインは、おそらく神宮外苑を手本にしたものだと思います。当時の最先端の都市計画デザインが採用されていたことが分かります。

また、赤れんが庁舎の前庭には、当時の植樹で余ったイチョウが植えられて、こんな巨木になっているんです。ここは開拓使時代に故郷から移植した木や外来種などが多く植えられており、植林行政の歴史遺産でもあります。今でも100種以上が生息していて、日本庭園風の池を残した形で、都会のオアシス的な存在ですよね。

赤れんが庁舎と共に、街並みや周辺の建物、前庭なども一緒に歴史的な意味を感じていただける場所です。


前庭の入り口にある赤れんが庁舎のあゆみ。明治40年代に火災に遭い、その後防火対策を強化していく


なかなか内部に入らない!マニアックな散策が続く


開拓使時代の北海道庁跡地。赤れんが庁舎よりもかなり小さかったことが分かった


約2時間コースの予定だった大人の遠足ですが、ここまでで1時間ほどが経過しました。さて、中に入るのかな?と思ったのもつかの間、前庭のイチョウを見た後は、開拓使本庁舎時代の道庁跡を確認し、その後は裏にある現在の北海道庁へ移動します。



杉浦さん 左側に見えるグレーの建造物、何かに似ているのが分かりますか?実はこれ、北海道100年記念塔をオマージュしたデザインなんです。100年記念塔は残念ながら2023年に解体されてしまいましたが、こうして道庁の一角に面影を見ることが出来るんですね。

またまた驚きトピックスですね。気づかずに通り過ぎてしまいそうな建造物も、杉浦さんの手にかかると、歴史と意味をもった存在として認識することができます。



正面から見ることの多い赤れんが庁舎の横顔がこちら。使われているレンガは全部で250万個。レンガの長手と小口を交互に横に組んでいくフランス積みと呼ばれる積み方で、どこをとっても優雅で重厚な佇まいです。次は、いよいよ建物本体の解説です。



建物の腰回りには高温で焼かれ防水性の高い「焼過れんが」が使われています。レンガの小口に見える十字の刻印が、明治期の札幌で造られたものであることを表わしています。



入館後は、ずんずん2階に上ります。この時点で予定していた2時間が過ぎており、絵画を背にちょっとだけ早口になる杉浦さん。

杉浦さん 実は赤れんが庁舎のひとつの魅力として、絵画をあげることが出来るんですね。赤れんが庁舎が重要文化財に指定された時に、当時の北海道美術界を代表する作家が制作したんです。北海道の開拓の歴史にちなんだ作品が並んでいて、これは見応えがあります。建物もそうですが、美術館としても楽しめると思いますよ。


2階・「建築」の部屋に飾られた模型。③の八角塔から南面にバルコニーが伸びている


杉浦さん 今回のリニューアルの見どころは八角塔の内部や展望バルコニーなどがあります。そちらは時間が許す時にじっくりご覧になってください。

赤れんが庁舎は札幌のれんが造の先駆け



杉浦さん このメタルシーリングはプレス成型されたもので、当時の最先端技術が用いられていたことが分かります。この時代のメタルシーリングは私の知るところでは、赤れんが庁舎と、個人の邸宅1軒で、貴重なものだったと思われます。


天井のメタルシーリングとシャンデリア


金属の天井は防火対策でもあったそう。この耐火・防火対策は、あらゆるところに見られます。最後に杉浦さんが案内してくれたのは、地下1階のボイラー室でした。


桜の季節のサッポロビール園開拓使館


杉浦さん ボイラー室は防火天井(床)仕上げになっています。火気の危険性があるため、防火性を高めるためにレンガを用いたヴォールト(アーチ状)天井にしたんです。創建当初からだとしたら、その後のレンガ造りの工場建築(現在のサッポロビール園開拓使館やファクトリーのレンガ館など)の先行モデルになっているんですね。明治40年代の火災があった後だとしたら、逆にレンガ造りの工場に習ったということになります。

こんな風に、赤れんが庁舎は札幌のレンガ建築の先駆けであり、今なお札幌の建築と街並みに大きな影響を与えているんですね。今回も私の解説が長くて時間を押してしまいましたが、懲りずにまた次回の遠足も参加いただけると嬉しいです。



参加者の声

大人の遠足2025に参加されていた男性にお話をうかがいました。

参加者の方の声 いつも目にしているものの、近くにあり過ぎて良く知らない赤れんが庁舎ですが、詳しく話が聞けるという事で楽しみにして来ました。レンガの刻印があるなんてこともまったく知りませんでした。札幌建築鑑賞会の方たちは、赤れんが庁舎の全集を隅々まで調べていると伺い、すごいことだなと感じています。古い建物が好きで、建物が壊された跡地を見た時に、何があったのかなどとても興味があって。そうならないように、建物があるうちに見ておきたいという想いが強いです。深堀りしたお話がたくさん聞けて、とても満足しています。​

杉浦さんの深い研究と、独自の洞察から導かれた建物探求の世界。建物好きの編集Mにとっても大満足な鑑賞会となりました。また当日は大人数の参加でしたが、杉浦さんをサポートするボランティアの方たちのおかげで、歩行者の妨げになることなく迷子も出ずに、スムーズに移動できました。興味のある方はぜひ問い合わせてみてください。慣れ親しんだ街並みに、また違った魅力を感じられること請け合いです。

札幌建築鑑賞会

メールや電話で参加の意向を伝えてください。

公式ブログ https://ameblo.jp/keystonesapporo/
メール keystonesapporo@yahoo.co.jp
TEL・FAX 011-895-0082 

※通信「きーすとーん」は2025年7月に第100号を発刊、33年の歴史があります。

2025年10月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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