道内でも多発する洪水被害。1時間あたりの雨量が50㎜を超える大雨は、40年前に比べて約1.5倍に増えています。パリ協定により世界の平均気温上昇を2℃以内に抑える温暖化対策を実施しても、世界の降雨量は平均で約1割増加し、洪水発生頻度は約2倍に増加するという予測もあるほどです。
そうした中、河川の氾濫による木造住宅の浸水被害軽減に向けて、㈱一条工務店は、(国研)建築研究所と(公財)日本住宅・木材技術センターと共同で、2024年6月27日に十勝・幕別町の十勝川千代田実験水路で、実際に建設した木造住宅の耐浸水性と構造安全性を検証する公開実験を行いました。
ここからは住宅専門誌「北海道住宅新聞」が取材し、2024年7月15日号に掲載した記事の一部をご紹介します。
一条工務店が十勝川に実大木造住宅を建設
6月27日に行われた公開実験では、洪水発生時にどの程度の流速・水深となっているか、また建築物各部にどのような荷重が作用するか等、基礎的なデータを収集。さらに、耐水害住宅が洪水発生時に浸水を避けられるかなどの検証を行った。
実大木造住宅は、建築研究所がハウスメーカーの一条工務店に発注して建設した。建物は総2階建てで、延床面積は約30坪。一条工務店が2020年9月から発売している「耐水害住宅」のスタンダードタイプで建てられており、耐水害住宅はサッシや玄関ドアの浸水防止対策はもちろんのこと、壁面に独自開発の特殊な透湿防水シートを採用して防水性能を向上させ、汚排水の逆流防止弁を設けたり、床下空間に洪水を流入させて建物の自重を増やすことで流されにくくするなど、さまざまな水害対策が施されている。
今回は水害時に建物各所が受ける圧力や応力を検証できるよう、建物付近には数多くのセンサーが設置された。人工的な堤防を決壊させた後、どす黒い水流が一気に住宅に押し寄せ、水位は想定されていた高さ1mを大幅に超え、一時1.7m前後まで達した。それでも建物が流されることはなく、わずかな浸水のみに抑えられた。
一条工務店の耐水外住宅の詳細はこちら
一条工務店は、2019年と2020年に(国研)防災科学技術研究所(防災科研)で実大住宅を使い、浸水実験を行って浸水防止性能を検証していたが、今回の実験協力では独自にセンサーやカメラなどの測定機器を設置し、より実際の洪水に近い条件でのデータ収集を行って耐水害住宅の性能検証に役立てたいとしている。
今回実験に使用した耐水害住宅スタンダードタイプは、床下空間に洪水を取り込んで自重を増やすことで浮き上がりを防止し、押し寄せる水流の圧力に対抗するが、同社ではより大規模な洪水に耐えられる浮上タイプも用意している。浮上タイプは、住宅を専用ダンパー付きの係留装置で敷地内の四隅に設置したポールとつなぐ。船を港に係留するような考え方だ。これにより、大規模な洪水の際は安定して建物が浮き上がり、係留装置により敷地内に建物をとどまらせて流失を防止。水が引いたら元の位置に建物が収まるよう二重基礎構造を採用するなど、凝った造りとなっている。
2020年に行われた防災科研での浸水実験では、実験場内で浸水防止効果を確認するとともに、水かさが増すと建物が浮上し、水が引いた後に元の基礎に着地することも確認している。2020年9月の発売以来、これまで約3年半で両タイプ合わせ全国で約4500棟を受注しているという。
実験を担当した一条工務店特建設計部の平野茂部長は、「堤防決壊後、洪水で建物は想定の1.7倍以上の水深となったが流されずに持ちこたえ、わずかな浸水で済んだことは評価できる。水害だけでなく、さまざまな災害に耐えて生き残る住宅造りを今後も研究していきたい」と話している。
住宅性能表示制度に追加の方向―浸水被害防止の性能―
浸水被害防止に対する建築側のアプローチは、2001年に(一財)日本建築防災協会が刊行した「家屋の浸水対策ガイドブック」が最初と思われる。住宅の浸水防止に関して「基礎を上げて高床にする」「1階をRC造にして混構造にする」「門扉や塀に防水性能の高い製品を採用する」、といった指針が記されている。さらに2021年7月には、住団連が「住宅における浸水対策の設計手引き」を発表し、行政が出す浸水被害のリスク情報などを住宅設計に生かし、浸水防水の目標を設計上どこに設定するかなどをまとめた。
これらの成果を踏まえ、建築研究所では2023年1月に「建築物の浸水対策案の試設計に基づくその費用対効果に関する研究」という文書を発表。建物の浸水防止対策について、一般的な住宅仕様と比べて浸水対策を施した住宅がどれぐらいコストアップになり、浸水被害時の復旧費用や手間などがどう軽減されるかをまとめた。床下浸水を許容し、浸水後の早期復旧を低コストで目指す仕様にする「修復容易化案」、建築防水により、建物内部への浸水を防止し、建物・家財の被害軽減を図る「建物防水化案」、高基礎で1階の床レベルを上げることにより床上浸水を防ぎ、浸水被害の軽減を図る「高床化案」と3つの詳細な住宅仕様と一般仕様とのコスト差額、洪水被害時の修復にかかるコストなどをシミュレーションした。
さらに国土交通省では水害被害を軽減するため、建築研究所などと連携して住宅性能表示制度における耐浸水性能評価基準等の整備に向けて検討を進めている。水害時に建物に加わる力については、これまでわかっていないことも多く、今回得られた実験データを、性能表示制度に加えていく際の基礎的な資料として活用する。
浸水被害地域の建築は許可制に―「流域治水」で建築側の対応必要―
気候変動の影響によって、台風や低気圧による河川の氾濫が全国で増え、住宅が被害を受けることも多くなってきている。道内でも2016年8月に活発な低気圧や4つの台風が立て続けに上陸し、大きな被害をもたらした。
こうした状況を踏まえ国土交通省では、洪水被害を最小化し、被害からの早期復旧を行うため、河川の周辺区域だけでなく、雨水が河川に流入する地域や河川の氾濫で浸水が想定される地域も含めた「流域治水」という考え方に転換。「土地利用や建築物の構造の工夫、避難体制の構築など、防災の視点を取り込んだまちづくりの推進が必要」としている。
たとえば、土地利用に関しては2021年11月の改正特定都市河川浸水被害対策法施行により都道府県知事が指定した「浸水被害防止区域」には、居室の床面を基準水位以上にかさ上げし、洪水に対して安全な構造としているかを確認できなければ住宅を建てられなくなった。
一方で、木造住宅・建築物の耐浸水安全性については検討・研究が始まったばかり。国は、建築研究所や(一社)住宅生産団体連合会(住団連)などと連携し、住宅性能表示制度における耐浸水性能評価基準を整備する方針だ。
このように産官学が連携し、治水をはじめとする水害対策、そして水害に強い耐浸水住宅の研究も進んでいます。中でも「家は、性能」を掲げる一条工務店は、水害のほか、地震や火災など、様々な災害に耐えうる住まいの研究を長年精力的に続けており、常に業界をリードしているハウスメーカーです。「性能がどれだけ優れているか」は「暮らしがどれだけ快適・安心か」という差になって表れ、住まいの満足度につながると考えるからです。
iezoomでは一条工務店の北海道での家づくりについて、今後様々な角度から取材・記事化して皆さんにご紹介していきます。モデルハウスやイベントの情報ページもぜひご活用ください!
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