Story 取材記事

古さと新しさが同居する、温もりの家/札幌市・工藤さん

古いけれど愛着のある家から新しい住まいへ。これまで積み重ねてきた家族の歴史を建築家・中村欣嗣(よしあき)氏がうけとめ、未来を見据えたエネルギー選択をサポートして、現代にふさわしい家が完成しました。古さと新しさが同居した温もりのある家は、どのように誕生したのでしょう。

ペレットストーブ1台でほとんどの暖房をまかなう
ペレットストーブ1台でほとんどの暖房をまかなう
木質ペレットは北海道産。カラマツなどの針葉樹が原材料
木質ペレットは北海道産。カラマツなどの針葉樹が原材料
1階の床は古い家のフローリングを再利用
1階の床は古い家のフローリングを再利用
フラット屋根でも軒を出して外壁を保護する
フラット屋根でも軒を出して外壁を保護する
アイランド型の特注キッチンで収納力と希望のシンク位置を実現した。天板はステンレス、収納部分は木で作った
アイランド型の特注キッチンで収納力と希望のシンク位置を実現した。天板はステンレス、収納部分は木で作った
 
2階のピアノ室。手前に巾1.6mの引き戸があり、仕切ることも可能
2階のピアノ室。手前に巾1.6mの引き戸があり、仕切ることも可能
2階から3階へあがる階段には息子さんの工作がずらりと並べられている
2階から3階へあがる階段には息子さんの工作がずらりと並べられている
こんなタッチのイラストでご主人がわが家の希望を何枚も書き、設計者の中村さんに伝えた
こんなタッチのイラストでご主人がわが家の希望を何枚も書き、設計者の中村さんに伝えた
 

ペレットストーブで暖房

 玄関を入ってまず目につくのが、土間に置かれたペレットストーブです。これ一台で家の暖房をまかなっていて、ときおり「カチャン」と、ペレットを自動的に燃焼部分へ送り込む音が聞こえます。しかしストーブへのペレットの補充は人の手で行わなければなりません。玄関からつながるご主人の工作場兼物置き場には、ペレット10キログラム入りの袋がうず高く積まれています。冬だと1日に1袋半から2袋くらい使い、正直、石油と比べて割高なのだそう。しかし石油や電気はあまり使いたくないという考えから、工藤さんご一家はペレットを選択しました。  工藤邸を新築したのは、石油が高騰した時期でした。設計を担当した中村欣嗣(よしあき)さんから「ピークオイル(注)」という考え方を紹介され、薪ストーブへの憧れと同時にエネルギーの将来について考えるようになったと言います。ただ夫婦共働きで家を空けることも多く、薪の調達や保管場所などを考えたときに現実的ではないと判断し、ペレットに落ち着きました。給湯は灯油ボイラーですが、お風呂に使うくらいで、洗い物のお湯はストーブの上に乗せたやかんで十分とのこと。電灯も電力消費の多い白熱灯をなるべく使用しないなど、エネルギーをうまく使い分けしています。  中村さんはいいます。「住んでからも自分で手をかけていくという点で、ペレットを人の手でくべることは大事です。とはいえ、生活として実現可能なものでなければなりません。そのため壁の断熱を150mmにして暖房効果を高めました」。家は施主自身が積極的に関わるもの、という中村さんの思想がここに表れています。

※「ペレット」とは・・・間伐材などの木質を粉砕し、圧縮・成形した固形燃料のこと。煙が少なく、灰は肥料として利用することができる。燃やすには専用のストーブが必要。

思い出が残された、新しい家

 工藤さんがもともと住んでいた家は、築50年近くになる、昭和の香りただよう建物でした。奥様(Mさん)のお父様が建てた家で、結婚してからもご主人と子ども2人で10年間住み続けていました。ピアノ教師であるMさんが所有するコンサート用のグランドピアノを置ける家がなかなかなかったことも理由の一つです。「本当に大好きな家で、天然記念物になるまで住みたかった。でも昔の家だから寒くて、やっぱり暖かい家を建てようということになったんです」とMさん。また裏に両親が新たに家を建てて住んでいますが、古い家が視界をふさぐようになっていたことも気がかりでした。そして2007年、古い家の跡に新居が完成。両親の家の視界をふさがない配置の3階建てになりました。

 新しい工藤邸は、40坪とそう広いわけではありません。中村さんによると「グランドピアノを置く部屋と、ものづくりが趣味のご主人の工作室という、一般的な家にないものを作るためにレイアウトをかなり考えました」。部屋を仕切らない開放的な間取りと、ピアノを弾く時だけ扉を閉められるようにすることで、限られたスペースを有効に使う工夫がされています。
「古い家を残したかった」という思いを受け止めた中村さんは、ただ新しい家を建てるのではなく、前の家の「木」を活用しました。1階の床は、古い家で使われていたフローリング材を丁寧にはがして再利用。「合板ではなくカバの木のフローリングだったことと、接着剤を使わず釘だけだったことで再利用できました。昔の家ならではです」と中村さん。またご主人のお父様は元大工の腕を活かし、残りのフローリング材でダイニングの椅子をこしらえてくれました。
工藤邸では、こうした手作りのものや、古いものが大切に使われています。ご主人のお父様が作ったダイニングテーブルをはじめ、Mさんのお婆様が使っていたという着物を裁つ台をパソコンデスクに応用。Mさんのお父様が昔作ったという引き出しも現役で活躍しています。ピアノ室の本棚は、楽譜が入るようにご主人が手作りしたもの。気付くと、家の中に既製の家具が見当たりません。家族全員ものづくりが大好きで、いいと思うものしか置きたくないという強いこだわりを感じます。

「まずいな、バッチリの人を見つけた・・・」

 家を建てる際も、最初はハウスメーカーをまわっていましたが、家づくりへ実際に関わることのない営業担当が対応することに疑問を感じたと言います。だんだん工務店、さらに建築士を探すようになり、中村さんを知りました。中村さんに会った帰りにご主人が「まずいな、ばっちりの人を見つけてしまった」とつぶやいたとか。自分たちの考えと一致した家づくりを行えるところをとことん探した結果、本当に納得できる家になったようです。

記者の目

古いものを生活の中へ取り入れて、普通に使っているところに好感が持てました。また新しいものは、自分たちのセンスに合ったものを吟味しています。ご主人、そのお父様、Mさんとお父様、ものづくりにこだわる人たちばかり。取材した日に在宅していた小学生の息子さんも、血を受け継ぎかなりアーティスティック。豊かな感性が磨かれる家と感じました。

(注)ピークオイルについては以下のサイトも参考になります。
朝日新聞:http://www.asahi.com/strategy/0604c.html
東京大学名誉教授石井吉徳氏:http://www1.kamakuranet.ne.jp/oilpeak/

2010年12月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。