※この記事は北海道住宅新聞の「知っておきたい住宅業と知的財産」という連載記事を転載しています。北海道住宅新聞はこちら
こんにちは! 弁理士の中山俊彦です。
前回に続いて“建築物・建物の内装の意匠”についてお伝えします。
想定される住宅業界/建築業界への影響
さて、意匠法の改正が住宅業界や建築業界に与える影響は、どのように考えればよいのでしょうか?
私としては、今後建築物や内装の意匠権にまつわる大きな事件が生じても不思議ではないと感じています。
意匠登録の要件には「新規性」というものがあり、既に世の中にあるデザインや、これから容易に思いつくようなデザインは保護されません。その意味で言えば、これまで既にあるデザインを踏襲している限りにおいては心配することはありません。
しかし、実際日々の業務においては、趣向を凝らして新たな工夫を盛り込んだデザインを行っていることと思います。そうした「新たな工夫」が、たまたま他社が先に出願した意匠とバッティングすると、とても厄介です。
意匠権と呼ばれる権利には、大きく言って「差止請求権」と「損害賠償請求権」が含まれます。
「損害賠償請求権」は、平たく言えば過去にあった侵害行為によって生じた損害の補填を求める権利を言います。お金で解決できるのですからある意味まだ何とかなります。
問題が大きいのは「差止請求権」です。法律上、「意匠に係る建築物の使用」を中止させ、さらに究極的には使用中の建築物の廃棄=取り壊しまで請求できる権利です。
「業として」使用している建築物等の「差止」ですから、個人向けの住宅の場合は引き渡し後であれば、その個人が何か差止請求を受けるということはないと考えられます。
ただ、その物件が意匠権を侵害する物件の場合、その施工・販売で得た利益は意匠権者の損害と考えられることになり、損害賠償請求の対象となり得ます。
商業施設の場合はその物件の商業的使用自体が差止請求の対象になりますし、使用し続けている限りにおいて損害は蓄積されていくことになります。
とまあ、書いている本人もちょっと恐ろしくなるくらい、建築物や内装の意匠の意匠権はその効果が“えげつない”と感じます。通常の商材であれば、係争が起きた段階で販売等をいったん取りやめて損害の膨張を回避しますが、なにせ一度建てられた物件はないことにできませんから。(続く)
知っておきたい住宅業と知的財産は連載です。
次回記事は近日公開予定です。
北海道住宅新聞では毎月25日号で掲載しています。
中山俊彦氏プロフィール
札幌と鎌倉に拠点を有する「あさかぜ特許商標事務所」代表弁理士。地域ブランド支援案件を多数手がける。ブログ「弁理士三色眼鏡の業務日誌」ほぼ毎日更新。
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連載一覧
知っておきたい住宅業と知的財産【連載】弁理士:中山俊彦
【連載2】会社名も商標登録を あさかぜ特許商標事務所
【連載3】“マルアール”は何のため?商品に“信用の証”を
【連載4】法改正で建築物・内装の意匠登録が可能に
【連載5】意匠法の改正が住宅業界に与える影響
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