Story 取材記事

u-h.o.u.s.e.@i 車いすで自立した生活 札幌市北区・Aさん/アウラ建築設計事務所

車いすでほんとうに生活しやすい家とは?建築家と施主がとことん話しあって完成したのがこのu-h.o.u.s.e.@iです。どうして建てたのか?どんな苦労があったのか?など、アウラ建築設計事務所の山下さんにお話を伺いました。(内容は2007年7月取材当時のものです)

ダイニングキッチンからリビング側を見る。ステンドグラスがアクセント
ダイニングキッチンからリビング側を見る。ステンドグラスがアクセント
直線と黒白のコントラストがシャープな外観。道路と玄関はわずか階段2段分の段差だが、長いスロープが必要なことがわかる
直線と黒白のコントラストがシャープな外観。道路と玄関はわずか階段2段分の段差だが、長いスロープが必要なことがわかる
車庫は道路から勾配つけて玄関と同じ高さまで上がっている。車いすはそのまま風除室→玄関と段差無しで進める
車庫は道路から勾配つけて玄関と同じ高さまで上がっている。車いすはそのまま風除室→玄関と段差無しで進める
キッチン全景。シンク下はキャスター付きワゴンで邪魔なときは移動。食洗機はシンク左下、電子レンジはシンク右手にあるIH調理器の下にビルトイン。後片付けと調理の動線を分けた
キッチン全景。シンク下はキャスター付きワゴンで邪魔なときは移動。食洗機はシンク左下、電子レンジはシンク右手にあるIH調理器の下にビルトイン。後片付けと調理の動線を分けた
風除室から玄関内部を見る。右に入るとそのままLDK。玄関カウンター下の空きスペースは、車いすで向きを変えるときにタイヤなどがぶつからないための配慮。デザインと実用性を両立させた
風除室から玄関内部を見る。右に入るとそのままLDK。玄関カウンター下の空きスペースは、車いすで向きを変えるときにタイヤなどがぶつからないための配慮。デザインと実用性を両立させた
水栓は通常シンク中央にあるが、右斜めに配置して45度傾けた。左半身麻痺の奥さまが体を回転させなくても使える。説明しているのは山下さん
水栓は通常シンク中央にあるが、右斜めに配置して45度傾けた。左半身麻痺の奥さまが体を回転させなくても使える。説明しているのは山下さん
シャワーコーナーは、開口部にカーテンを下げて濡れたカーテンが金属製の水切り(写真下部)に密着して水しぶきなどが外に出にくくなる
シャワーコーナーは、開口部にカーテンを下げて濡れたカーテンが金属製の水切り(写真下部)に密着して水しぶきなどが外に出にくくなる
ユーティリティ全体。洗面台左側がSK流し。トイレの取り付け位置を工夫して車いす対応とした
ユーティリティ全体。洗面台左側がSK流し。トイレの取り付け位置を工夫して車いす対応とした
ロフトは、Aさんが使用するスペースで、仕事に必要な本など収納スペースや書斎としても使う
ロフトは、Aさんが使用するスペースで、仕事に必要な本など収納スペースや書斎としても使う

日本の現状に一念発起

Aさんご夫婦は、長い間海外暮らしをしていましたが、奥さまが途中で片半身麻痺で左半身が不自由となり、車いす生活に。今後の治療も考え、高度医療の充実した日本に帰国することを決めた際は、最近の日本の住宅ではバリアフリー対応などができていると聞き、それほど心配していませんでした。

ところが、帰国してから日本流のバリアフリー基準では、奥さまが大変暮らしにくいことに気づきます。車いすで生活するにはスペースのゆとりが不十分。それならば、家を建てて「実験住宅」として自分の考えを試したい。そんな気持ちに駆られました。

そこで相談を受けたのがアウラ建築設計事務所の代表・山下一寛さん。新進気鋭の建築家です。Aさんは医療福祉の専門家で、「専門知識を活かして奥さまが快適に暮らせ、自立できる住宅を建てたい」と考え、ほかの方が同様の住宅を「建てたい」と思ったときに現実的な価格におさまるようにと、山下さんと何度も話し合い、プランを作っていきました。

車いすで使いやすい動線

プランで重要視したのは、スムーズな動線です。ストレスを感じずに車いすで生活、家事ができること。まずは車庫から家の中に入る動線。車いすのまま乗れる乗用車で家に帰ってきて、1人で車いすのまま室内に入れるようにしたいと考えました。車から電動リフトで車いすを下ろすとき、リフトは安全のため地面ギリギリまで下がります。ところが、通常は家の玄関は基礎の構造上地面より数十cm高くなります。これでは車庫と玄関との段差が大きすぎてスロープを別に造るか、段差解消リフトなどが必要になってしまいます。毎日の生活に必要な乗用車から家への出入りがこれでは大変です。

そこで、この住宅では車庫をスロープ状にして道路面から数十cm高くし、玄関との段差を解消しました。「プラットフォーム」と呼ぶ勝手口から風除室に入って車いすのタイヤに着いた汚れを落とし、そのまま玄関へ。玄関を右に曲がるとすぐにダイニング・キッチンです。ここにもひと工夫。壁際のカウンター下に車いすに乗せた肘がすっぽり入り込むようにカウンターの高さを工夫しています。プラン上、玄関スペースの幅があまり取れなかったのですが、おかげでスムーズに向きを変えることができます。

ひとくちに「段差を無くす」と言っても、玄関まわりは通常は段差がないと雨水が室内に入り込む心配があり、なかなか難しいもの。山下さんは玄関ドアの下部に数mmの段差を取り、気密部材を置いて解決しています。

片麻痺で使いやすいキッチンを追求

キッチンはI字型です。片半身麻痺の奥さまが車いすに乗ったままキッチンの横を移動して料理の準備や後片付けができる動線を考えました。使用頻度を考えて調理する場所は右半身を有効に使えるシンクの右側に集中させました。シンクの左側は使用頻度のそれほど高くない食洗機などを配置。一度お皿をセットしてボタンを押すだけでいいので不便さはありません。

こうした動線の徹底と、シンク下に収納スペースを十分確保できない関係で、キッチンの幅は通常よりも75cmワイドな3.3mになりました。吊り戸棚があるのは、Aさん自身が台所仕事を手伝い、収納物を出し入れするためです。

キッチン天板の高さは、最初車いす生活に適したものがなかなか見つけられず苦労したそうです。奥さまの体格からはじき出したキッチン天板の高さは75cm。
ところが、80cm以上じゃないと対応しないキッチンメーカーや、75cmに合わせると途端に価格が非常に高くなってしまうメーカーなど、なかなか決まりません。そこで見つけたのが、「スズランキッチン」の(株)樋口ホームページ上でも車いす対応キッチンをPRしており、75cm高のカウンターも現実的な価格でオーダーできました。

トイレは独立した部屋にはせず、カーテンで簡易間仕切りとしています。夫婦2人のときはオープンにしておき、来客があった場合はカーテンを使います。これは、車いす移動の際に間仕切りが障害物とならないよう考えた結果です。シャワーも車いすのままスムーズにシャワー室に入れるよう段差を最小限に抑えています。シャワーする際は、カーテンの足が適度に濡れて水切り部材に密着し、シャワー室の外部が濡れない工夫をしています。

洗面台は幅を広めに取っているのはもちろんですが、隣にSK流しも置き、介護用品の洗濯に使います。ふだんは蓋をしてアイロン台として使えるのも便利。

階段やロフトは、Aさんの収納兼書斎スペース。階段も1階との接続部分は角を丸めるなど車いす移動に配慮しています。

なお、道路から正面玄関へのアプローチは、介護の負担や将来ひとりで外出できるよう勾配を極力緩くしています。最初は16分の1勾配の予定でしたが、結局20分の1勾配に。わずか数十cmの段差を乗り越えるのに何mものスロープが必要になります。

現実的な価格で建てる

こうした様々な工夫をしていますが、外観は現代的なモダンデザインの住宅。延床面積が40坪程度で住宅の仕様を考えると割高になりそうですが、庭の植栽や組込車庫も含めた建築費は2300万円程度に納まっているそうです。Aさんは「10年、15年経った時に売れる価値のある住宅であってほしい」と希望したため、外観デザインや使う材料も吟味しています。

山下さんは、「Aさんととことん話し合い、ひとつひとつ確かめながら前に進みました。この経験を生かし、住宅で困っている方の手助けになれば」と話しています。

次回予告

次回は「いま」のu-h.o.u.s.e.@iをご紹介する予定です。この取材から4年が経ちました。住み心地は?使い勝手は?札幌良い住宅@編集部では、実際にAさんご夫妻に取材し、お話を伺ってみたいと思います。


2011年04月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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