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車いす対応のバリアフリーレストラン「石のうえ」/札幌市Iさん


札幌市南区の住宅街の一角に、開放的な庭と白いスロープが目を引く一軒家があります。ここは1日1組限定の小さなレストラン「石のうえ」。2023年5月にオープンしました。


写真はお店のInstagram投稿から


看板も出さず、宣伝は今のところインスタグラム(@restaurant_ishinoue)のみ。農家から直接仕入れる野菜を使ったフレンチや和食をベースにした、コース料理が楽しめます。オーナーのIさん夫妻が小さなお子さん2人の子育てまっ最中ということもあり、スローペースで始めたお店です。



レストランの奥はIさん一家が暮らす住まいとなっています。設計したのはアウラ建築設計事務所の山下一寛さんです。

Iさん夫妻はどちらも医療職で、ご主人は作業療法士として働いています。奥さんは薬剤師でしたが、腎機能が低下した患者さんとの出会いにより、勉強をして栄養士の資格を取得しました。

結婚して家を建てようとなったとき、車いすの方や身体が不自由で外出しにくい方、赤ちゃん連れの方などが過ごしやすいお店ができたらと、自宅にレストランを併設することを計画。

インターネットで調べていくうちに、車いすの方が暮らす住宅を数多く手がけてきたアウラ建築設計事務所(札幌市南区)の山下 一寛 さんを知り、依頼しました。

車いすの方や赤ちゃん連れにも優しい設計



レストランはどんな方でもくつろげるよう、細部にまで工夫が施されています。お店の入り口に向かってスロープがまっすぐに伸びており、引き戸を開ければ段差なしでスムーズに室内に入れる造りです。




お店の入り口を右に回り込むように進むと、もうひとつドアがあります。普段はIさん一家の住まいの玄関ですが、冬場はこちらがお店の玄関に。スロープに直結する引き戸は、冬は開け閉めするたびに冷たい空気も入ってしまうため、季節によって入り口を変えることにしました。



支柱と手すりのある回廊には足元に植栽を入れ、季節が感じられるように。取材当日は愛らしい花々が盛りを迎えていました。

外の視線を遮り、穏やかに過ごせるレストランホール


ペンダントライトは「オンリーワン」。小樽にショールームがある


室内には大きなテーブルが1つ、最大8名まで利用できます。車いすのアームレスト(肘置き)がテーブル下におさまるよう、テーブルの高さは75㎝と少し高めに。それに合わせて椅子もやや高めにしています。カンディハウスで作ってもらいました。トイレや洗面スペースも車いす対応になっています。



まわりが住宅街ということもあり、往来からの視線が気にならない地窓を採用しました。地窓のすぐ外側に植栽を加えたことで、室内からも緑が感じられるよう配慮されています。



壁の一部を凹凸のある塗り壁(ジョリパット)にしたことで、より落ち着いた雰囲気に。床はコンクリート塗装で床暖房を入れているため、夏はひんやり、冬はしっかり暖かいそうです。

住まいはコンパクトに、最小限を目指す


レストランホールとは玄関を挟んでつながっている


さてIさん一家の住まいのほうに目を向けると、1階にはLDKと個室が、2階は家族4人の寝室と子ども部屋の2室があります。



「家のほうはとにかくコンパクトにしてくださいと山下さんにお願いしました」とIさん。子どもたちがやがて巣立っていくことを考えると、必要な広さは自ずと決まっていきました。



一方、奥さんは「いろいろなところに座れて、自分の居場所がたくさんある」ことを希望しました。そこで、LDKの本棚のあるヌックもそうです。



2階の踊り場スペースにはカウンターを設けました。カウンターは将来、子どもたちの勉強スペースにもなる予定です。



階段のある壁面は高い位置に窓をいくつも配したことで、南からの陽射しや風がたっぷりと入ります。そのおかげで、階段も心地よい居場所の一つになっています。



キッチンはトーヨーキッチンのキューブ型です。ゆくゆくは奥さんがここで料理教室も行えるようにと、この形を選びました。



ガゲナウの食洗機を組み込んでいます。

「動線が短く、すべてに手が届きます。道具の収納や掃除もしやすくとても重宝しています」(奥さん)。




キッチンの奥にはユーティリティと浴室があり、その並びに洗面所やトイレなど水回りを集中させました。リビングとの間に桟を入れ、空間をゆるやかに区切りながらも光が通る、明るいスペースとなっています。



暖房は床暖房だけで冬も十分暖かく、夏は風がよく通って過ごしやすいので、住み心地には満足しているとIさん。奥さんも、動線がよいので家事がしやすく、4歳の娘さんもよく手伝ってくれると話します。

地域に開かれた場所を目指して



レストランはゆっくりと長く過ごすお客様が多いといいます。

Iさん夫妻は、このお店を地域の人にも開かれた場所として活用してもらえたらと考えており、プロジェクターを使ったイベントもできるようにするなど、汎用性を持たせた店内となっています。

また、もともとあった庭の季節の移ろいを、地域の方が楽しみにしていることを耳にしたIさんは、庭木の一部をそのまま残し、より開放的で、往来の人も楽しめる庭に仕上げました。

地域に開かれ、どんな人でも利用しやすくくつろげる、そんなレストランを目指すIさん夫妻。設計を担当した山下さんも地域の街づくりに積極的に参加しており、そうした気持ちを共有できたことも、お店づくりの助けになったよう。これからどんなふうに活動を拡げていくのか楽しみです。

自宅レストラン石のうえ



北海道札幌市南区石山東
1日1組限定・最大大人8名様まで
予約はこちらから↓
インスタグラム:@restaurant_ishinoue
LINE ID:035vvkbp


2023年08月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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