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北国のサスティナブルデザイン住宅~札幌・アウラ建築設計事務所の挑戦

札幌の建築家・アウラ建築設計事務所の山下一寛さんは、車椅子生活に対応する為の住宅づくりを通し、多くの事を学びました。介護者の負担軽減や除雪の負担軽減、危険回避、1つしかないトイレや浴室を家族全員の為にどの様に作るのか・・・など。
 
そこから、子供や高齢者など誰にでも優しいデザイン=ユニバーサルデザインの家づくりに取り組み始めました。すると、住宅を訪ねてくれる親類やお友達、ご近所の方や福祉サービスの職員さんなどの事も気になり出します。

これからの家づくりは、家族だけでなく、社会との関りが重要である事に気づきました。高齢化社会や空き家問題、コミュニティーが抱える問題。

現在は北海道という地域性を考慮した持続可能な住宅造り=北国のサスティナブルデザイン住宅に取り組んでいます。その挑戦を取材しました。


目次

子育て世代も高齢者も障がい者にも住みやすい家


house@h&mの外観


北海道が公表した資料より、道内市町村の高齢化比率ランキング。50%を超える自治体がある


北海道の最新資料によると、今年1月現在の人口に占める65歳以上の割合は、北海道全体で31%、札幌市でも27%と確実に高齢化が進んでいます。中には、夕張市のように50%を超えた自治体もあります。これに対して高齢者向けの福祉施設の整備も進みましたが、自宅で過ごすことを望む高齢者もたくさんいます。

道内では、高齢化が進むと同時に、障がい者がふつうに暮らせる社会を目指し取り組みが進んでいます。一方で日々の大部分を過ごす住宅は、階段が急だったり、トイレが狭かったり、高齢者や障がい者にとって住みやすい家ではありません。リフォームしようにも、思うような動線が確保できず、結局建て直しに・・・そんなことも珍しくありません。


山下一寛さん


山下一寛さんは、これからの家づくりの課題について、
「高齢化が進むことで、家族同士の助け合いが今まで以上に必要になります。また、高齢者や障がい者は、体が思うように動かないと家に閉じこもりがちになりますが、社会とつながりを持ち、交流することが生きがいやリハビリにつながり、充実した暮らしが送れるようになります。
 
そこで問題となるのが家です。今までの住宅は、足腰が弱ったり、車椅子生活になると室内の移動がしづらくなります。さらに外に出ようとしても、玄関のアプローチは階段だったり、バリア(障害)だらけでした」と語ります。


高齢者も障がい者も動きやすい家にするには・・・


高齢者、障がい者も動きやすい家にするには、どうしたらいいでしょうか?
 
山下さんは、「バリアフリーを超えた住宅がサスティナブル(持続可能な)デザイン住宅だと思っています。障害や年齢の区別なく、暮らしやすい家です。だから、資産価値が出てくると思っています。これまでの北海道の住宅は建てて20年も経てば、資産価値はほとんどゼロでした。それは、古い家には魅力もなければ社会的資産としての価値もなかったからです。誰もが暮らしやすいサスティナブルデザイン住宅であれば、20年、30年経っても建物に価値が残ります。これは、ほかの住宅よりも高く売れたり、早く売れるという意味です。さらに建築家として外と内とのつながり=コミュニティを意識した設計をすることで、文化的にも価値が出る。そう考えています」と話しました。
 


誰が住んでも快適に暮らせるのがモビリティハウス


ところが家を新築しようとする人たちは、多くが30代の子育て世代。彼らは体力、気力ともに充実していて、老後のことや車椅子の話をしても実体験としてピンときません。でも、資産価値が残って将来売る時に有利だという話をすると、大いに興味を持ってもらえるそうです。
 



こうした家は、都市部にだけ必要なのではありません。夕張など、地方では過疎化や高齢化が進んで地域住民の助け合いやコミュニケーションを必要としています。そのとき、サスティナブルデザイン住宅であれば、地域住民が分け隔てなく交流でき、助け合える。そういう意味で、地方自治体や建設会社がサスティナブルデザイン住宅に興味を持ち、実際に建てることがますます重要になると考えています。
 

家づくりをトータルで考える建築家


段差をなくした玄関(2007年u-h.o.u.s.e.@i)


建築家(設計事務所)に設計を頼んで家を建てると、住宅会社に頼む時とでは何が一番違うのでしょうか。それに対して山下さんは、こう答えます。
 
「住宅会社は、お客さまのさまざまなニーズを考慮し、コストバランスも重視します。だから、バリアフリーと言っても「お客さまに嫌われたくない」、と妥協した設計になることもあります。私は、お施主様の家づくりにかける想いやニーズを汲み取って最良のプランをまず考えます。もちろん、ご予算に合わせることは必要ですが、コストダウンが必要な時も動線や暮らしやすさの大事な部分は妥協せず、施工の工夫や素材の選択など、違う方法でコストダウンを考えます」。
 


花壇の位置や高さはあらゆる方向からの見え方を計算して決めている


冒頭で紹介したように、住宅の断熱・気密の技術やノウハウは十分と言えるほどに発展しました。これからは、「街並みの統一感やコミュニティの充実にも配慮した家の設計が必要になる」というのが山下さんの考えです。細部にいたるまで心配りの効いた設計。それが、設計を専門とする建築家の強みです。

山下さんの設計した建物は、内部や外観のデザインだけでなく、花壇や外構部のデザインや道路からの見え方なども含めてトータルに考えています。
 


新築18事例中、2事例がアウラ建築設計事務所の作品


これまでのこのような取り組みが評価され、(公財)ノーマライゼーション住宅財団(土屋公三理事長)が、毎年募集している「バリアフリー建築助成」の中で、「今後の参考になる応募事例」の1つとして、アウラ建築事務所が設計したサスティナブルデザイン住宅の建築事例が選ばれ、事例集「ふれあい 総集編II」では、新築住宅18事例中に2事例が掲載されるほどになりました。
 


ふれあい総集編IIに掲載された、アウラ建築設計事務所の事例


アウラ建築設計事務所の「サスティナブルデザイン住宅」設計実例

山下さんが設計した住宅では、「サスティナブルデザイン住宅」の理念が形となり、足腰が弱って家に閉じこもりがちだったおばあちゃんが元気に動けるようになるなど、狙い通りの効果が出てきています。いえズームに掲載された住宅の中から、代表的な3つの事例を簡単にご紹介します。詳しい内容は、それぞれのリンクから記事をご確認ください。

1.u-h.o.u.s.e.@i 車いすで自立した生活


水栓を右斜めに配置して45度傾けた。左半身麻痺の奥さまが体を回転させなくても使える設計


https://iezoom.jp/20110405083357.html
2007年に完成したこの住宅は、山下さんが初めて本格的な車椅子対応の設計をした思い出深い住宅です。

医療福祉の専門家である施主のAさんは海外生活が長く、障がい者の奥さまも不自由なく暮らしていました。ところが、帰国してから日本流のバリアフリー基準では、奥さまが大変暮らしにくいことに気づきます。日本にもバリアフリー基準や目安となる考え方はあります。たとえば「玄関と玄関ホールの段差を小さくする」とか、「廊下の幅を78cm以上取る」など、でも、高齢者や障がい者の身体の状態は一人一人大きく違います。教科書通りの対応では住みよい家にならないのです。それならば、家を建てて「実験住宅」として自分の考えを試したい。そんな気持ちに駆られました。


玄関カウンター下の空きスペースは、車いすで向きを変えるときにタイヤなどがぶつからない


そこで当時、新進気鋭の建築家としてスタートした山下さんがこの難題に取り組みました。Aさんは奥さまが障がいを乗り越えて自立した生活ができる住宅にしたい考え、さらに今後同じように建てたいと思った人が現実的な価格で建てられるようにと、山下さんと何度も話し合い、プランを作っていきました。

壁を取り払ってカーテンで仕切るトイレ、1/20勾配の緩やかなスロープで車椅子での外出を可能にした玄関周りなど、このときの経験がその後の住宅設計に生きています。
 

2.車いすで明るく前向きに暮らす住まい


植栽の高さや形も計算して作られている


https://iezoom.jp/20121205190700.html
Fさんは、いえズーム(掲載当時は札幌良い住宅)の記事「u-h.o.u.s.e.@i」も参考にしながら、思わぬ事故で車いす生活となった奥さまのための新居を山下さんに依頼しました。


真新しい白いコンクリートが、段差をなくすために市道を改修した部分


今回の事例では、車いす用のスロープを作ろうにも、道路から玄関までの距離が短く、駐車スペースと両立しない大きな悩みを抱えていました。そこを山下さんは、別の方法で乗り切ります。さらに、札幌市と交渉して市道を改修する許可までもらいました。奥さまが外出しやすくなる工夫です。

廊下幅は車いすがゆったり通れる1100mm幅。放熱器が室内にない床暖房の採用など、車いすでの動きやすさを考え抜いた設計です。
 

3.歳をとってもアクティブに。安心・安全な和風モダンの家


階段の滑り止め加工は凝っている


https://iezoom.jp/20160304083918.html
今は車いすを使わずに元気に動けるお施主様ですが、老後もガーデニングなどを楽しみたいと、マンションではなく戸建の新築を選びました。2階建てですが、車いす生活になった時は1階で生活が完結できるよう、LDK以外に個室を1部屋確保しています。


通路と一体化する合理的なトイレのつくり


玄関ホールに上がり框がなく、床との段差がないフラットなつくり。通路と一体化するトイレの設計。ゆったりとした勾配の階段には、滑り止め防止の凝った加工が。山下さんの設計のアイディアに、お施主様も驚いたそうです。詳しい内容は、ぜひリンク先の記事で確認してください。
 

デザイン住宅ももちろん得意



https://iezoom.jp/20180829160000.html
アウラ建築設計事務所では、デザイン住宅の設計も積極的に行っています。
上記の事例は、大型のキャンピングカーなど3台分の駐車スペースに犬を安全に遊ばせられる庭を設計した邸宅です。
2世帯住宅として、親世帯の暮らしやすさを考えているのは、モビリティハウスの設計経験が生きているからこそです。



さまざまな建て主の要望に応えられる建築家として活躍中の山下一寛さん。真駒内の商店街の一角にある事務所に、気軽に相談に行ってみてはいかがでしょうか。

2019年11月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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