アウラ建築設計事務所の山下一寛さんは穏やかでもの静か。近寄りがたい「センセイ」とは違った親しみやすい雰囲気です。しかし、Kさんから依頼された家づくりは、時間もかかるタフな仕事でした。Kさんの思いをくみ取った上で優れたプランを提案し、プロの厳しい目で施工監理まで行った山下さんの粘り強い仕事ぶりを取材しました。
施主の悩みに応えてくれる建築家を探して
Kさんが山下さんに設計依頼をしたのは、「満足のいく家を建てたい」という強い思いからでした。
十数年前に新築でマイホームを購入したものの、引き渡し当初から雨漏りなどの欠陥に苦しめられ、しかも工事した住宅会社がなくなってしまうなどたいへんな苦労をしました。
その後、中古住宅に移り住んで「もう一度建てて満足のいく家にしたい」と、家づくりの勉強を開始。まずは、「技術力や対応がしっかりしてそう」と考えてハウスメーカーのモデルハウスを見に行きました。モデルハウスはすばらしい。でも、プランに現実味がなく、費用もかなり高そうでした。また、CMやチラシなどの宣伝費で消費者が無駄なお金を払っているのではないかという疑問もありました。
そこで「デザイン力があり自分の思い通りの家を建ててくれるのではないか」と期待し。建築家の住宅も研究。ところが、実際に会ってみると「施主ではなく建築家自身のために建てているのでないか」と思う方も。「家は完成してからがスタートだと思っているのでこれはちょっと・・・」とKさん。
そんな中、アウラ建築設計事務所の山下一寛代表と出会い、「今まで出会ってきた建築家と違う」と気づきました。
「まずは私の話を聞いてくださる。そして押しつけが一切無いけれども、悩んでいたりすると、専門家としての視点から的確なアドバイスをいただける。この人なら最後までうまくいくのではないかと思いました」とKさん。
Kさんが考えた要望に山下さんは・・・
最初の家づくりでは、業者に任せきりで現場を見ていなかったという反省から、今回は最初から最後まで徹底的にかかわろうと考えました。
「絶対後悔しない家づくりをしたかった」というKさんは、自らがプロジェクトリーダーとなりました。設計、施工、資材購入など全てに責任を持つリーダーです。
山下さんが図面を描き、さらにその図面通りの建物ができあがるかチェックする(=施工監理)。工務店は、補修などの時に見せた技術力で図面通りの建物になるよう工事する。建材販売店はできるだけ安価にムダなく資材を供給する。それぞれの役割がはっきりし、完成に向けて家づくりがスタートしました。
Kさんは、当初山下さんに抽象的に家づくりの要望を伝えました。設計者として自由な発想で取り組んで欲しかったからだそうです。Kさんが実現しようとしたことは大きく分けて3つありました。
1)エリアフリー
2)バリアアリー(バリア有り)
3)暖かくて明るい
これらの要望に山下さんはどう応えたのでしょうか?
1)は、たとえばキッチンの壁を一部開閉することで、裏手にある娘さんの部屋へ「ご飯できたよ~」と声をかけられるようにしました。家族のコミュニケーションが広がるプランです。
2)は、住宅内にスキップフロアを意識して設け、空間を広げる豊かさを獲得しました。
3)は設計段階で断熱性、耐震性と耐久性が高い長期優良住宅の認定を受けて応えました。さらに、ハイサイドライト(高所窓)のおかげで冬は家の奥深くまで光が差し込み、暖房の温度設定を最小にしないと暑いぐらいだとか。また、この高い位置にある窓は、道行く人からリビングが見えにくく、プライバシーを適度に保つ役割もあります。
周辺環境との調和まで考えた家が完成
このプランを最終的にまとめるために、山下さんは建築模型を作ってコンセプトを伝えました。それは、建物内部の説明だけではなく、建物から回りがどう見えるのかなど、周辺環境とどう関わるかまで考えていたからです。そして、「道路に対しては城壁のような壁がそびえる家」というイメージが固まりました。
山下さんは設計変更などにこまめに対応したほか、住まいの専門家の立場でKさんのプロジェクト推進にいろいろな面で協力。また、土地探しにも関わり、公園に隣接した今の土地を勧めました。緑豊かな公園を借景として眺めを楽しむなど、調和の取れたプランができあがりました。Kさんの思いを受け止めながら、建物だけでなく、敷地条件や周辺環境も考えたトータルな家づくりを提案したのです。
Kさんは、「途中で大変なときもありました。でも、そういう苦労を乗り越えて完成した今は、やり遂げた満足感でいっぱいです」と心から嬉しそう。Kさんの暮らしはまだ始まったばかりですが、これからも山下さんとの交流は続きます。
2014年07月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。