札幌市北区の自然豊かな住宅街に暮らす川村さん一家。写真は晴れた冬の日に家族で外出する場面です。バギーに乗って散歩するのが大好きだという次男のとびとくんは笑顔いっぱい。玄関からまっすぐ伸びたスロープには、手すりも付いています。
この家は、バリアフリー住宅の経験が豊富なアウラ建築設計事務所(札幌市南区)の山下一寛さんが設計・監理を手がけました。
iezoomでは過去にも山下さんがプランした住宅を取材していますが、今回は、手足にハンディキャップがあるとびとくんが快適に暮らせる工夫はもちろん、ご家族ものびのびと、アクティブに暮らせる仕掛けがたくさんあるそうです。
家づくりの経緯やプランのポイントについて、川村さんご夫婦と山下さんにお話をうかがいます。
子育てに適した環境を選択することがマイホーム新築のきっかけに
川村さん一家は、ご夫婦と、長男のかずきくん、長女のなみきちゃん、次男のとびとくんの5人家族。お子さんたちはこの春(2024年)に小6、小2、小1に進級・進学します。
ご主人 夫婦ともに本州の出身で、10年前に転勤で札幌に来ました。子どもたちがすっかりこちらの暮らしに慣れたこともあり、札幌でのマイホーム新築を決断しました。
奥さま 養護学校は小学校から高校まで約12年間通うことになります。主人の転勤先で、とびとの通学や通院、リハビリの環境を新たに見つけるのは大変だと感じていました。
ここは養護学校も近く、災害時に避難できる学校もすぐ裏にあります。交通の便がよく、都心部に出やすいことも魅力でした。緑地や公園がたくさんある、緑豊かな環境も気に入り、この街で家づくりを進めることにしました。
とびとくんの暮らしの変化に対応できるフレキシブルで機能的な1階
玄関から見渡したLDKの様子。吹き抜けから陽射しを採り込む明るくオープンな空間です。
リビングに隣接した洋室は、兄妹3人の勉強部屋として使っています。将来的にはとびとくんの個室にする予定です。
洋室から、トイレ、洗面・脱衣室、浴室が直線で繋がる動線。通路や引き戸は車いすにも対応できるゆったりサイズです。
車いす対応のシンプルでおしゃれな洗面化粧台。
浴室の三枚引き戸は左右どちらにも格納でき、車いすのまま入ることができます。
通常は鏡の右側に付けられるシャワー・スライドバーを左に配置。空いた鏡の右側壁面は、将来的に入浴用の介護リフトが設置できるよう、下地を補強してあります。
本格的なクライミングウォールなど家族の趣味空間も実現
アウトドアが趣味のご主人。ロッククライミングも楽しんでいるそうで、自宅にはクライミングウォールを希望しました。
とびとくんが見守る中、ボルダリングのスクールに通って特訓中のかずきくんとなみきちゃんがスイスイとホールドに手足を掛けて登っていきます。
クライミングウォールのデザインは全てご主人によるものです。上部になると3面に渡り、様々な登り方が楽しめるようになっています。
採光を重視した奥さまの希望で階段壁は設けず、代わりに素朴な角柱をあしらいました。
ロープやハーネスを掛けたり、子どもたちがジャングルジムのようにぶら下がったりと、この家にぴったりな間仕切りになっています。写真は階段下に隠れて遊ぶ子どもたち。
踊り場やホールからも見守りができる2階。階段壁には昇降機の取り付けも可能
2階に続く階段は直線になっています。
山下さん とびとくんが成長してご両親が抱っこできなくなった時のために、昇降機を付けられるよう、階段壁を補強してあります。
昇降機を付けた際には、乗り降りがしやすいよう、2階ホールの前に2段下がった踊り場を設けました。
左/踊り場からは1階洋室の様子を見守ることができます。
右/このほか2階にはご夫婦の寝室と個室が2部屋用意されています。
Q 依頼の決め手を教えてください
ご夫婦 「札幌・車いす住宅」で検索したところ、アウラ建築設計事務所さんのホームページを見つけて、山下さんが手掛ける車いす住宅の存在を知りました。
子育て世代も高齢者も障がい者も、区別なくみんなが住みやすい家づくりをしていることに共感し、見学会に参加しました。
それまでハウスメーカーをはじめ、いくつかの住宅会社に相談した経緯がありましたが、山下さんは疑問や不安について、どこよりも親身に、的確に答えてくれました。豊富な経験と誠実な人柄に信頼がおけたので、お願いすることにしました。
Q プラン面ではどのような希望がありましたか?
ご夫婦 見学会で快適性を実感したので、玄関までのスロープと床暖房は必須条件でした。介護がしやすい機能的な動線や、とびとが家で過ごす時間が長いことから、陽射しが感じられるよう、吹き抜けも希望しました。
山下さん 車いす住宅は、ともすると大きくなりがちですが、川村さんのお宅はコンパクトに仕上げています。
プラン作成はとびとくんとの暮らしを、どのように形にしていくかという視点で進め、1階はとびとくんが一人で自由に移動できるようになっています。将来的に車いすの生活になる可能性にも考慮しています。
とびとくんも、家族もストレスなく過ごせることが大切です。出来る限りの「やりたい事」をコンパクトな中に詰め込みました。
Q 実際に暮らしてみていかがですか?
ご主人 とびとが家の中を楽しそうにハイハイしている姿や、兄妹たちがクライミングでのびのびと遊んでいる様子を見るたびに、家を建てて良かったなぁと感じます。
奥さま この家に来てからは「暮らしのすべてが楽になった」と感じています。どこに居ても家族の気配が感じられ、とびとも安心して過ごしているのが分かります。壁付けのキッチンは対面式のように回り込む動作がないため、とても使いやすく、子どもたちのお手伝いも増えました。
とびとには障がいも含めて、自分らしく成長してほしいと思っていますし、兄妹たちにものびのびと育ってほしいと願っています。
限られた予算の中でやりたい事を実現するために、建具やフロア材に高価なものは使っていません。「コンパクトで等身大。それでいて自然に介護ができる家」になり、家族みんなが満足しています。
写真:スタジオスーパーフライ 大道貴司
記事:iezoom編集部 松下綾
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