Column いえズーム コラム

懐かしい風景を心に刻む 「石炭小屋」

修復もした形跡もなく、昔のままの状態で今も使われている石炭小屋付き倉庫


修復もした形跡もなく、昔のままの状態で今も使われている石炭小屋付き倉庫

父が公務員だったので官舎住まいだった小学生の頃の私。後ろに見えるのが石炭小屋


父が公務員だったので官舎住まいだった小学生の頃の私。後ろに見えるのが石炭小屋

母に聞きながら記憶を辿って描いた石炭箱


母に聞きながら記憶を辿って描いた石炭箱

この色と素材も当時のままに販売されていた


この色と素材も当時のままに販売されていた

フォルムは現代でもインテリアとして十分、通用するほど素敵


フォルムは現代でもインテリアとして十分、通用するほど素敵

住宅地に見つけた風景
住宅地のなかに、そこだけ時が経つのを忘れたかのような懐かしい石炭小屋のついた木製の物置がありました。懐かしさのあまり足が止まり、懐かしいあの頃に思いを馳せました。
近所に住むここの持ち主によると、昭和40年代前半からずっと使われてきたもので、今でも現役で活躍している物置だという。昔はどの家も冬の寒い時期は石炭ストーブを使っていて(お風呂も石炭だった。温度調節は勘!)、四角いバケツのような鉄の箱に木製の持ち手が付いた石炭箱(イラスト)に石炭を入れ、物置から家の中へと運んだものでした(子どもの頃、運ばされた。かなり重労働)。十能(じゅうのう・写真)という小さなスコップで石炭をすくいストーブに入れ、細く割った焚き付けと一緒に火を着けるとパチパチと燃える木の音から、やがてゴーッという勢いのある赤く燃える石炭の音へと変わります。
ストーブの中の様子は、デレッキ(イラスト)という先の曲がった鉄製の棒でストーブの蓋を開けて確認。アク(灰のこと)が溜まってきたら、目皿付いている穴に鉤(かぎ)を引っ掛けて左右に動かし、下にあるアク受けに落とします(これもよくやらせてもらった。昔の子どもはこうして生活の中で火との付き合い方を覚えたのだと思う)。この石炭のアクは冬の凍った玄関の入り口などに撒いて滑り止めにします(ちなみに薪のアクは料理の灰汁抜きにします)。無駄のない昔の生活の知恵!

あの頃を探しに...
十能を探してみると、なんと今も昔と同じ姿で金物屋に売っていました!価格も220円(税抜き)でお手頃だったので思わず買っちゃいました。デレッキもありましたが、持ち手がプラスチックに進化していてちょっとがっかり。昔は持つとことがコイル状の鉄でできていて、もっとカッコ良かった。
ますます当時の生活が懐かしく感じ、発寒にある三戸部記念館に訪れました。ここは昭和初期からの生活用品や農機具などを展示してある私設記念館。ここに同年代に使われていた広口型の石炭バケツを発見しました(写真)!ジュラルミンという軽くて強い合金で出来ていて、飛行機などの材料にも使われる金属らしい。たぶん高級品?

残したい記憶
一冬にどの位の石炭を使ったのかは分かりませんが、小屋の中の石炭が少なくなると、板を一枚ずつ外して底に残った石炭をすくっていき、それでもいよいよ足りなくなると、石炭屋のおじさんがトラックでやってきて、大きなスコップで小屋が一杯になるまで石炭を豪快にザーザーと入れていきます。この音がとても好きだった私は、ずっとおじさんの仕事を飽きずに眺めていたものでした。
今でもしっかりしていて、丈夫なこの物置ですが、数年のうちには取り壊しになるのではないか、とのこと。私の懐かしい風景がまだそこにあるうちにきちんと記憶に残しておこうと思います。


三戸部記念館
住所/札幌市西区発寒6条7丁目
電話/011-664-1894
観覧料/無料
開館時間/9時~16時
休館/12月28日~翌年3月31日まで休館(4月~12月27日開館期間)


編集者:くろまるとも子

2009年10月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。