山形県鶴岡市に行ってきた!
私が過去に食べたアイスクリームで最も美味しいと感激したのは、5年前に食べた山形の「だだちゃまめアイス」です。明るい緑色のアイスに豆がそのまんまどっさり。そして濃厚な枝豆的風味。あのおいしさ!感動はいつまでも私の心に残っています。
そして私は、だだちゃまめの産地、山形県鶴岡につい先日まで居ました。山形県鶴岡市のある庄内地域は、地元で何世代にも渡って栽培され、種を採取し、食べ、独特の料理法やそれを使うお祭りなどの行事も受け継がれる「在来作物」が多い地域です。
海と平野と山があり、多様で肥沃な土壌があったこと、3ヶ月おきに強烈な四季の移ろいがあることから、海の幸、野菜、果物、山菜など多種多様な食材に恵まれたこと。明治以降、高速道路や空港、新幹線などが通らない、交通の便が全国的に見ても悪い地域だったことでよその農産物の流入がすくなったことなどが要因といわれます。また東北関東などの修験者たちが信仰のため出羽三山に訪れる際、地元の野菜の種を持ってくるので、様々な農産物が生産されるようになったとも。食料自給率は170%を超えています。
失われつつある在来作物
しかし、庄内の農家さんたちも、全国同様、スーパーで流通しやすい生産性や日持ちの良い、そして現代人の野菜嫌いに対応した、全国画一的な味と規格、生産性の高い農産物であるF1の商業作物の生産に徐々にシフトしていき、在来作物はどんどん淘汰されていきました。
たとえばお米。明治時代には4000種ものお米の品種があった日本は今や160種の品種しか生産されず、そのうち70%の品種はコシヒカリ系の上位5品種です。つまり全国どこでもほぼ同じ品種が生産されているわけです。このように多くの農作物が全国一律になる中で庄内の農家も例外ではなかったのです。
スーパーに並ぶ商業作物は安く、味は没個性、くせがないのでどんな料理にも合うし調理がしやすいし、マヨネーズをかけるだけでも美味しく食べられます。全国一律のレシピ本に従ってつくれば美味しく簡単に料理できます。お店に行けばだいたいいつでもありますし。時代は全国一律の商業作物が流通する社会になっていったのです。
学者、シェフ、農家の志
そうした中、鶴岡市内にある山形大学農学部に、在来作物の魅力を研究し、地域を歩き、品種を採取し、農家の方にルーツや料理法を聞いて回った江頭准教授という方がいました。おいしさ、遺伝的価値、料理法、関連行事、文化などを丹念に調べ本にまとめ、地域の農家などにその価値を訴え続けました。
また地元にいた奥田さんというシェフは在来作物の独特の味を十分に生かすその地域だけの農産物を使った料理を研究し、五感に訴えるえぐみ、にがみなどを生かした料理を提供しました。1軒の農家しか生産していないといった在来作物を引き取り、お返しにレストランの食事券を渡し、食べに来たら専用のグリーンシートに座らせ、腕をふるった料理を食べさせます。その席は生産者専用シート。全国から訪れるお客さんたちがその在来作物を感激しながら食べる様子が一番見える場所に専用席を設けているのだそうです。
農家は在来作物をなぜ守り育ててきたか...。
それは
俺の作る野菜がとても美味しいと分かっているから。
先祖から受け継いできたこの種を絶やしたくないと思っているから。
地域の行事、料理のために必要だから。
↑このような理由が多いのだそうです。
金、流通の事情、そういった理由ではないのです。
新聞、映画監督、市役所の後方支援
地元の新聞社はそういったことを記事にします。地元出身の映画監督は「よみがえりのレシピ」というドキュメンタリー映画を撮影し、地元で上映します。地元で上映した際には満員御礼で上映延長。そして観客の中には思わず涙を流す農家さんたちもいっぱいいたんだそうです。例え生産性が悪くとも美味しく、地域の行事には欠かせない、先祖から受け継いだ在来作物を守り育ててきたおじいちゃん、おばあちゃんたちの誇りも取り戻す映画...。
鶴岡市役所も市役所の予算でレシピ本を発行。なんと16000部も売れているだそうです。あけびのずんだあえ、からとりいものごまあえ、ぶどう葉もちなどおいしそうなレシピが満載です。また、ユネスコの生物多様性を守るための登録制度に庄内の在来作物でエントリーし、世界にその魅力を伝える、といった役場ならではの後方支援もおこなっています。
たとえば外内島きゅうりについて江頭准教授が住民らを前に「きゅうりの苦みはククルビタシンという成分で・・・」という話をしたあと、奥田シェフがその苦みを生かした料理をみんなに食べさせ。理論とおいしさでその場にいた役場職員や住民らを感激させた結果、来年はこのきゅうりを生かして地域活性化をしよう!というような空気をつくったりしているのだそうです。学者と民間の料理人が脳と舌を刺激しながら住民を主導し、農家と一般市民、行政の心を動かし、メディアを動かし、今では庄内の野菜を食べに全国各地から観光客が訪れるようになりました。
在来作物の価値
庄内のだだちゃ豆は、私も含め濃い味を好む東北、北日本の人には特別な感激を与える強い風味、豆そのものの味が強烈です。庄内の人たちは、7月から9月にかけて、毎日のようにだだちゃ豆を食べるほど大好きなんだそうです。「豆好き民族」と役場の担当者はおっしゃっておりました。2ヶ月間ずっと最高に美味しいだだ茶豆を食べ続けるために、収穫期の異なる多彩なだだちゃ豆の品種が現在まで残っているとか、ゴミ収集の日には各家庭からだだ茶豆のさやでいっぱいになったゴミ袋がいっぱい並ぶというほどに・・・。
カブも庄内にはたくさんの品種があります。地域の主産品である稲が不作の年には、このまま行けば餓死者がたくさん発生してしまうことになります。不作だとわかるお盆明け頃には、農家は一斉にカブを植え始め一ヶ月後には間引き菜を食べ2ヶ月後には収穫して食べ冬には漬け物や雪の下保存で春までカブを食べてしのいできたのです。ずっと同じ野菜を食べ続けると栄養が偏るなど健康被害が起きがちですがカブは何ヶ月食べ続けも健康上支障がないこともあり、地域を救う野菜の一つだったんだそうです。独特の苦みなどは親から伝わった料理で美味しさに変えて食卓に並べることができます。
在来作物独特の苦みなどはそれぞれに適した調理法をしなければ美味しく食べられない、生産も簡単ではない、品種が多すぎたり日持ちがしないなど、大量消費大量流通、効率重視の現代人には受け入れがたい要素がありますが、その地域でしか食べられないおいしさ、プレミア感は人々の心をゆさぶったのです。
在来作物により多彩な遺伝子が継承され、気候変動などが起きたときにも生き残れる作物が残る。
地域固有の料理法、味、関連の文化が残される。
数千年の歳月を農薬や化学肥料に頼らずとも生きてこられたオーガニックな農産物が地域にある。
その味を食べたくてその地への愛着の源になり、観光客のお目当てにもなりうる。
俺しか、おれたちの集落でしか作れない野菜があるという生産者の誇り
など、いろいろなメリットがある。
腹を満たすだけではなく、おいしさに満足でき誇りを感じることもできる農産物だから作り続けられたのです。
とはいえ農業の収益性低下、高齢化の波、料理をしない家庭の増加などの逆風は続いています。一部脚光を浴びる在来作物だけが大量生産され、その陰でほかの在来作物が生産されず絶えるという動きもあります。唯一の、志の高い生産者がその在来作物を作るのをやめてしまったらその品種が耐える、その味も耐える、そんなことが頻繁に起きています。この事態を産官学民で打開しようとする山形県鶴岡市の皆さんの志に感動しました。
じゃあ私たちはどうする?
北海道はどうでしょうか。
るるる♪キッチンガーデンくらぶでも、誇りある地域固有の食材をもっと大事に考えて活動すべきではないかと感じました。
在来作物を地域住民が育て収穫しみんなで料理し、一緒に囲んで食べる。
同じものを一緒に食べ地域の誇りを呼び覚ます・・・。
大きな宿題をいただいた気がします。
2012年07月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。