「森林はCO2を吸収しない!」「アマゾンは人工林だった!」「ゴルフ場は自然がいっぱい!」など、森林に関する驚くような新常識がいっぱいの講演会を取材してきました。
講演する田中淳夫さん
講演会のプロジェクター資料から。奈良県吉野地方では、200年という長いスパンで植林が行われている
講演会のプロジェクター資料から。お線香って木の葉っぱからできていたとは・・・蚊取り線香とゴッチャにしてました(苦笑)
講演会のプロジェクター資料から。人工林が荒れてくるとさまざまな弊害を起こす
講演会のプロジェクター資料から。「江戸時代からの街並み」と言われたので橿原市今井町の街並みかも。細い丸太を格子に使うというのは初めて聞きました
講演会を主催した物林(株)は、北海道の里山の木を活用したフローリングを販売している
森林に関する常識のウソ
先日、「森林ジャーナリスト」田中淳夫さんの講演会を取材しました。
森林について、生物学の側面や経済的、歴史的側面など広範囲に論じ、森と人の関係について考えていきたいと精力的な活動をされています。
聞いていて感じたことは、環境問題について知っているようで知らないことが多いということです。
「森林はCO2を吸収する」これはウソだそうです。「木がCO2を吸収することは事実です。でも、森林は吸収しません。なぜなら、落ち葉などを分解する菌類が酸素を消費するからトータルで見るとCO2を吸収しないのです」と田中さんは言います。
『木を見て森を見ず』とは、このことを言うのでしょうか。われわれは木のことばかり考えてしまいますが、森林は樹木以外の生き物も集まった集合体なのです。
またアマゾンの森林は、最近の研究で全体の3分の1から半分ぐらいは原住民が都合良く作りかえた「人工林」だと推定されています。さらに「ゴルフ場は自然がいっぱい」と田中さんは言います。常識を覆すような話で驚きますが、実は身近なところでも、似たような話があります。
たとえば、北海道で豊かな自然の象徴のように言われる「原生花園」。Wikipediaにも『人為的な手を加えず、自然をそのままにした状態でも色鮮やかな花が咲く湿地帯や草原地帯のこと』と紹介されていますが、最近の研究では入植者の生活とともにできあがった可能性が高いと言われています。
原生花園は、牛や馬などの放牧が行われていた地域が多く、牛や馬は鮮やかな花を咲かせるエゾカンゾウなどは「おいしくない草」として食べなかったため可憐な花園ができたのです。オホーツクにある小清水原生花園では、牛や馬の放牧が行われなくなってから花が激減したとして、最近は放牧を再開し、さらに野焼きも行うことで花の勢いが回復してきているそうです。
手入れされた人工林の価値
田中さんは講演の中で「良く管理された人工林は、原始林よりも生物多様性が高い」と話しています。木の成長をよくするために下草をこまめに刈り、手入れすることで森の奥まで光が入り、多様な生命が育つというのです。
「手入れされた森林は人間にとって有益である」というのが田中さんの考えのようです。それでは日本の現状はどうでしょうか。林業が衰え、森林が荒廃する危機です。それは木が使われなくなっているからです。
家を建てる木材は大半が輸入に頼っています。国産材はたくさんあるはずなのに、樹種によっては輸入材よりも安くなってしまって割に合わないのです。
木を使っていた製品の多くがプラスチックや金属製品に取って代わられました。住宅を建てたり外壁を塗り替えたりする時に使う足場は昔は木製でした。今は取扱いの簡単さからほとんどが金属製に代わっています。木樽や木桶なども使われなくなりました。北海道だと坑木も炭鉱が閉山されると使われなくなりました。
田中さんは奈良県の吉野林業を例に挙げ、街が何を必要としているかをリサーチして山から多種多様な製品を生み出し、利益を毎年生み出してきたその取り組みを評価しています。人工林は、苗木を植えたら、その木が成長して伐採するまで収益がないというのは間違いで、間伐材の有効利用や燃料製造(薪など)やキノコ・山菜栽培などさまざまな工夫で安定した収益が見込めるというのです。
道産材の活用も考え直してみた
北海道は豊富な森林資源がありますが、そこから生み出される道産材は十分に活用されているとは言えません。道産材の活用というと、住宅用の柱や梁とういイメージですが、それだけでは使い切れません。床や外壁材、家具や道具などのほか、最近は木質ペレット燃料や木質繊維断熱材など道産材の新しい利用法も出てきています。
ムダなく森林資源を活用するという観点から見れば、燃料や断熱材という利用法はとても大事だと思います。また、これまで活用法に困っていた木を「里山フローリング」として住宅の内装に使おうという会社も出てきています。
これまで「道産材を活用しよう」とだけ思っていた私は、「ムダなく使い切る」という観点が抜けていました。こういう無学な私に新しい見方を教えてくれるのがジャーナリズムの役割だと思います。「唯一の森林ジャーナリスト」への期待は今後も高まりそうです。
【参 考】
田中淳夫さんのホームページ(こちら)
2012年09月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。