Hさんは札幌の豊平川に近い住宅地で猫の「ひな」と暮らす70歳の女性です。同じ敷地内に建っていた以前の家は冬になるとストーブのそばを離れられないほど寒く、暖かい家に住みたいという思いは切実でした。
何とかしたい!と思い、住宅に関する資料を集めていたとき、「北海道の家づくりを学ぶ会」を知り、入会。毎月の学習会で家づくりを学んでいきました。しばらくしてその学習会でも講師をしていた建築士の中村欣嗣(よしあき)さんに設計を依頼し、昨年(2013年)10月に現在の家を新築しました。それから1年、換気設備を中心とした室内設備の使用方法の確認と建物のメンテナンスの説明のために訪れる中村さんに同行し、1年間暮らした感想をお聞きしました。
"私が住む家"を作ってくれるという安心感
中村さんとの出会いが家を新築する契機になったというHさん。「見た目重視の家ではなく"私が住む家"を作ってくれるという中村さんの言葉が心に響いて、安心してお任せできると思いました」と言います。Hさんは「とにかく暖かくて雪の処理がしやすく、防犯対策がしっかりしていること、70代後半から80歳になっても住んでいける家」を要望しました。
〈リビングの断熱戸を少し引き出してみた〉
敷地内の除雪がいらない!
何よりも暖かい家を切望するHさんの思いを受けた中村さん。断熱に関しては、断熱材は壁に21cmのグラスウールを入れて、南向きの居間には大きなはめ殺し(固定式)のトリプルガラスを使った窓を取り付け、太陽の日差しがたっぷり入るようにしました。
その窓の下には夏の通気用に開閉式の小さい窓をつけ、人が通りぬけられないように固定格子を取り付けました。さらに窓一面には引き戸式の大きな断熱戸を設置。省エネルギー的に非常に有効な方法でもあり、しかも「昼間は戸袋にしまっておき、日が落ちてから引き出すと、また違ったリビングになるんです。すごくいい」と取材に同席してくれた息子さん。防犯強化にもなっています。
居間の天井は平面的ではなく変化を、というHさんの要望に応え、下地の梁(はり)を利用してその間に照明を組み込み、木目を生かした個性的で素朴な趣を取り入れました。また、床にはナラのムク材を使用、自然木と白を基調にした明るくあたたかく、健康的な生活空間にしました
冬は寒さだけでなく雪処理なども悩みの種でした。以前の家は玄関先や外階段に氷がはりやすい上に除雪がしにくく、排雪スペースもなかったので雪捨て場に苦労していました。そこで、玄関前とカーポート前の除雪が最小限にすむよう屋根を道路ギリギリまで大きくはね出し、カーポートの横に雪を堆積しておけるスペースを設けました。そしてこの水平に大きくはね出した屋根が外観上の大きな特徴にもなっています。
〈寝室からユーティリティを通ってトイレへ〉
床の段差を作らずワンフロアーに
1階は階段を家の真ん中に配置して、その周りに居間、食堂、キッチン、寝室、風呂、トイレ、ユーティリティーを回遊動線でつなげました。引き戸の間口を広くとり、床の段差をなくしてバリアフリーにすることで、朝起きて食事をし排泄をし入浴して寝る―という日常生活動作を、不自由を感じることなくひとつのフロアでできるようにしました。それは、健康を害したときも、高齢になったときも、家族構成が変わったときも、また、住む人が変わったときでも、"その家に住む人が安心して気持ちよく日々暮らせる家"としての備えです。
〈洗面は数人が使うためほぼ標準高さの80cmだが、鏡はHさんの身長に合わせ低めの位置に〉
「工務店やハウスメーカーに依頼した場合、自分の希望した材料が使われているかどうか、設計図通りになっているかどうか知るすべがないけれど、中村さんなら建て主側に寄り添ってくれ、材料や寸法が正しいかどうかも管理してくれるので安心でした」と言うHさん。以前の家は工務店が建てたそうですが、その時の担当者が設計士に相談するように何度も薦めてくれていたこともあり、今回は、設計士に頼もうと決めていたと言います。そんなときに中村さんに出会い「分からないことはわかっている人に頼むのが一番ですね。いろいろな選択肢を説明しながら提示して一緒に考えてくれ、自分の予算内でそれに見合った家を建ててもらって本当に良かったと思います」と笑顔を見せてくれました。
〈猫のトイレスペースには、臭いが拡散しないように集中換気の排気口を設置〉
記者の目
ドアの取っ手や手すりに金属ではなく木を使っていることに気がついて尋ねると、「冬に乾燥した手で触って静電気が起きないように」という配慮でした。中村さんは、Hさんの思いを受け止め、それを具体的な形にした一例だったようです。信頼できる建築士に出会えたHさんは幸運だったなぁと感じました。
2014年10月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。