Story 取材記事

愛馬を見守る総板張りのイエ  浦河町・T邸/神馬建設


躍動する筋肉美、スラリと伸びた脚…。浦河町内を車で走ると「走る芸術品」とも呼ばれる美しい馬たちに出会えます。そんな牧場の一角に、外壁は道南杉の総板張りで周辺の自然環境に馴染む、牧場を営むTさんご夫妻の住まいがありました。写真の左右はTさん夫妻、中央は神馬建設の神馬充匡さん。イエづくりのいきさつを伺いました。



3人家族の新居、T邸が完成したのは2022年9月。



窓の配置は、イエの中から、外にいる馬の様子が見てわかることを重視しています。



玄関先には無病息災などを願う伊勢のしめ縄が飾られています。「商売柄、ゲンをかつぐので一年中飾っています」と奥さま。それでは室内も拝見します。

部屋のどこにいても馬が見える窓の配置に



リビングダイニングの窓からは主に南に面した牧草地が見渡せます。「朝起きたら窓を開けて、馬たちがどこにいるか、異常はないかをまず確認するのが日課です」とTさん。

奥さまには自然の風景になじむ木の家や、アレルギー持ちの家族のために自然素材を用いたいという想いがありました。そこで床はカラマツ、壁は伊達産のホタテ漆喰の塗り壁をメインにしました。



薪ストーブは帯広の「薪火屋」でノルウェーのヨツール社製を購入。メンテナンスも考え、なるべく丈夫で壊れづらいものを選びました。薪は近隣の山から伐ってもらって調達できるそう。その結果、電気代高騰の状況にもかかわらず、T邸は、冬の暖房代が安く済みました。



キッチンはキッチンハウスの姉妹ブランド、グラフテクトのアイランド型です。コンロは背面にあり、スペースが広く活用できる造りで、「2人で一緒に台所に立つので、このほうがチームプレーで家事ができますね」と奥さま。Tさんも、「手伝いやすいキッチンで、息子も気がついたときは “何かしようか?”と言ってきます」。



吹き抜けのリビングは、窓も多く開放感があります。小学生の息子さんは2階にある子ども部屋では遊ばず、リビングにおもちゃを持ってきて過ごすそうです。

コンパクトに暮らしたいとスペースを抑えたため、家具は置かず、食器棚やベンチ、趣味のレコードを置く棚などを造作してもらいました。すっきりとした階段や、存在感のある神棚の外枠も大工さんの造作です。



このイエを建てるまで、一家は敷地内にあるTさんの実家に住んでいましたが、牧草地に面した窓の前に大きな木があり、馬の様子がよく見えなかったといいます。このイエでは1階のキッチン、リビング、和室、そして2階のホールからも馬の様子を観察でき何かあったときにもすぐに駆け付けることができます。

ではイエづくりのいきさつを伺います。

地元の業者だからこそ依頼



Tさんご夫妻がこのイエを建てるまでには長い道のりがありました。

帯広出身、馬が好きで自給自足への憧れもあった奥さまと、牧場の3代目のTさんは、町が主催する農業後継者のマッチング企画で出会いました。

2013年に結婚。翌年には家を建てようと考えはじめましたが、敷地内の農地を宅地転用するのが予想以上に大変でした。

調べていくうちに、伊達市にある小松建設の家づくりに興味がわき、モデルルームや見学会に足を運び、家づくりを打診。プランニングも進みましたが、農地転用の問題やコロナ禍が重なり、計画はいったん頓挫します。

しかし、牧場としての業績が徐々に向上、宅地転用も可能となった2022年初頭、家を建てる絶好の機会が巡ってきました。イエづくりの再開を実現するために、基本設計は小松建設さんで作っていただいた案で、小松建設の富田さんのサポートを受けながら、浦河町内の住宅会社、神馬建設が施工を担うということになったのです。



奥さまは神馬社長の奥さまと趣味の繋がりで見知った間柄。Tさんも、「昔からある浦河の会社ですが、世代交代をはじめ、新しいことに意欲的に取り組んでいたので」と、依頼することに。「それに、名前に“馬”がついていて縁起がいい」とも思ったそうです。

急ピッチで打ち合わせを重ね、実際に施工が始まったのが2022年5月の連休明けでした。

馬の生産牧場にとって、2月から6月は馬の出産時期で、いつお産が始まるかわからない時期でしたが、同じ町内の住宅会社でもあり、手が空いた時間に、打合せを行い、時にはオンラインも駆使しながらイエづくりの詳細を固めることができました。



住み始めてまもなく1年。「私たちの気持ちに寄り添うプランが実現でき、体にも優しい家になりました。家族にとって完璧な造りで満足しています」(奥さま)
「本当にくつろげます。起きたらすぐに馬の様子が見られるのもいいです」(Tさん)と話してくれました。



自然の中に建つイエなので色ムラなどの経年変化があっても違和感がないだろうと考え、外壁は無塗装に。「神馬建設さんと一緒にメンテナンスしつつ、このイエをよくしていけたら」とTさんは話します。

家庭菜園も営み、奥さまが憧れた自給自足の暮らしにより近づいているTさん一家。くつろいでいても常に視界に馬が入ってくる、そんな馬と人がより近い距離で営む暮らしがこのイエで実現しました。

スタジオスーパーフライ 大道貴司


2023年09月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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