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「10年経っても省エネで快適」。緑ある終の棲家でスローな暮らし/札幌市Sさん 拓友建設

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新築間もない2009年秋に一度取材したS邸に再びおじゃましました。「住み慣れた土地で豊かに歳を重ねていきたい」という願いを込めて建て替えた家。設計を担当した札幌在住の奈良建築環境設計室・室長の奈良顕子さん、施工を行った拓友建設社長の妻沼澄夫さんに同席していただき、住み始めて11年目の夏を迎えるSさんにお話を聞きました。

山野草に彩られた2階リビングの家


庭に咲くオオバナノエンレイソウ


3方を住宅に囲まれた西向きの土地に建つS邸。流行に左右されない落ち着いた色使いのシンプルなお住まいです。玄関廻りの木製の建具やビルトインカーポートはお手入れが行き届き、築10年とは思えないほどキレイ!
通りから敷地の奥へと、建物に沿って設けたお庭はプルーンの木やツツジを取り巻くように色とりどりの山野草が植えられ、新築時よりずっと賑やかになりました。



取材に伺ったこの日は北海道大学の校章のモチーフとして知られるオオバナノエンレイソウがちょうど見頃。北海道や本州北部に広く分布していますが、可憐な白い花が咲くまで少なくとも5年、一般的には10年かかると言われています。

扇形のプランで日当たりの悪さを解消



通りからはオーソドックスな箱型に見えるS邸ですが、日中の日差しを効率良く取り込むため、南東側全面に丸みを持たせた2階リビングの家。奥様が新築の記念に保管していた住宅模型を上から見ると、扇形に近い形をしています。


シャープな金属外装と、柔らかな曲線が意外にマッチする


建て替え前の家は、1980年頃建てられました。1階にリビングがある一般的な長方形の建物でしたが、お隣の陰になって日が入らず、断熱も気密も不十分で冬は凍りつくような寒さ。その反省を踏まえ、設計者の奈良さんと検討を重ねた結果、このような個性的で変化に富んだ住まいが生まれました。



寝室と水廻りもLDKのある2階に配置しました。ワンフロアで生活が完結します。奈良さんの設計で陽当たりにも眺めも恵まれた2階は夫婦2人のコンパクトな暮らしにはぴったり。1階には子供世帯が泊まれる和室と書斎コーナーを設けた多目的室があり、普段は奥様が趣味の洋裁などに使っています。

「1日中、日差しが差し込む暖かい家。特に朝日の入る時間帯が最高に気持ちいいですね。歩道まで庇が延び、除雪スペースもごくわずか。おかげで快適な冬を過ごしています」。現在のお住まいで過ごした10年間を笑顔で振り返るご主人。奥様も2階中心の生活にすっかり馴染んでいます。「階段を頻繁に使うことが足腰の衰え防止に役立っているようです」。


平均気温の高低と暖房用(ホットタイム22L)電力消費量の大小に相関関係が成立しており、断熱性能が劣化していないことがわかる


木造で曲線部分のある建物は施工がたいへんですが、そこは施工技術の高さで定評のある拓友建設。奈良顕子さんの設計をみごとに形にしました。住宅本体の性能はQ値1.09W、C値0.44cm2(完成当時の実測値)と北方型住宅ECOの基準をクリア。最近の平均的な新築住宅よりも高性能です。また、窓のおさまりは拓友建設のこだわりで、ガラス面が通常は壁面より出ているところを少し引っ込んだ位置にしています。これはガラス面を出来るだけ壁の断熱ラインに合わせることで熱橋(ヒートブリッジ)を少なくし、結露をしにくくさせるという配慮です。外壁とのおさまりは難しくなりますが、性能と快適性を第一に考えた拓友建設だから、妥協はしません。

「暖房を21~22℃に設定していますが、少し動くと暑いくらい」と奥様。上の表の通り、暖房用の電力消費量は外気温とほぼ連動して増減しており、年間トータルの暖房用電力消費量は8年前と変わっていません。新築時から性能が劣化していないことがわかります。

歳月に磨かれた道産無垢材のインテリア


2019年5月のリビングダイニング。羽目板の色が飴色に変化し、床は光っている


2009年取材時のリビングダイニング。羽目板の色が浅い。ブラウン管テレビが懐かしい

緩やかなカーブを描いた壁面に下川町産トドマツの羽目板を贅沢に使った日当たり満点な2階リビング。Sさんご自身が「余計な物は持たない」というライフスタイルを貫いていることから新築時と同様、最小限の家具だけが置かれています。フローリングは道産のナラ材。

若々しい白木の色だった羽目板貼りの壁は10年の歳月を経て艶やかな飴色に。「日が当たるからでしょうね。塗装では出せない色です」。妻沼さんも思わず足を止めます。道産材をふんだんに使用したインテリアは奈良さんの提案。「年月を重ねるほど味わいを増していくのが無垢材の良さ。化粧材だと紫外線劣化で色が抜けたようになってしまいます」。

建物の間を縫って日差しが入るように設計された開口部も高級感のある木製サッシが使われています。



お隣のモミジが顔をのぞかせるリビングの出窓。「住宅密集地にわずかに残る緑を借景に生かすため、モミジが見える位置に開放感のある出窓を設けました(奈良さん)」。視線を下に移すと、奥様が丹精込めたお庭が見えます。窓の横にお孫さんの背くらべの跡が。

出窓の手前には木製のダイニングテーブルが置かれています。このカフェのようなスポットが奥様のくつろぎの場所。「人目を気にせず、リラックス出来ます」。今回の取材もテーブルを囲み、奥様手づくりの美味しい草餅をいただきながらお話を伺いました。

安全に配慮した間取り。エレベーター設置も想定



キッチンの隣はカウンターを造作した書斎コーナー。歳をとって身体機能が低下した時、大がかりな改修をしなくて済むようにエレベーターの設置場所として確保した空間でもあります。その奥の真っ直ぐな動線上にトイレ、洗面スペース、浴室を配置。「室内を移動する時、邪魔になる物がないから暮らしやすい。子供が走り回っても安心です(ご主人)」。

1階は『もしも』に備え車いす対応の間取りに



コーナーに設置した三角のカウンターがオシャレな1階多目的室。隣にはモダンな和室があります。



多目的室の引き戸を開け放すと…。



2階同様、車いすの通行に支障のないオープンスペースに。雰囲気もガラリと変わります。上り下りしやすく、通常よりも20cm以上幅広の階段は、手すり部分に小型の階段昇降機も設置可能。

お孫さんが遊びに来たときはここに泊まりますが、ふだんは趣味の空間として活用しています。洋裁、園芸、野菜の栽培と多趣味で手作りが大好きな奥様。なんと、お味噌まで作ってしまうとか。ご主人も草餅の餡をこすのを手伝ってくれるそうです。

DIY感覚でメンテナンスを楽しむ



フローリングなど木製品を長持ちさせるには定期的なメンテナンスが欠かせません。Sさん宅ではエクステリアの塗装やフローリングのワックスかけはご主人、造作収納や棚を磨くのは奥様と役割分担を決め、こまめなお手入れを心がけています。

物干し台として重宝しているバルコニーの管理はご主人の担当。毎年、気温の低い春先に植物性の塗料で塗装します。その甲斐あって新築から10年経っても積雪による傷みや腐れのない美しい状態を維持しています。


11年目のナラ無垢フローリング。お手入れがいいので状態が良い


面倒なメンテナンスを長期に渡って続けることは容易ではありませんが、「もう当たり前になっています。手を動かすことが好きだから苦痛を感じないのかも」と奥様。ご主人も日曜大工的な感覚で楽しんでいるようです。

「家を可愛がっていただいているんですね。設計者として大変嬉しく思います」。9年ぶりにS邸を訪れた奈良さんは感慨深そうに室内を見つめていました。

「出来ることは自分で」というSさんですが、プロの手が必要な場合はその都度、拓友建設さんに相談しています。「そろそろ窓廻りのコーキングなどの補修が必要になってくる時期」と妻沼さん。引き渡し後のメンテナンスをいつでも気軽にお願いできる地元工務店は、なじみのホームドクターのようで心強いですね。

緑と触れ合う穏やかな夫婦の時間



お庭の奥には生ゴミから堆肥を作るコンポストがあります。生ゴミの再利用によって春夏の1回に出す燃えるゴミの量を5L程度に減らせるとか。

白菜など葉物野菜やナスの栽培に用いる液肥も手作り。「空のペットボトルに米ぬかと水を入れ、1ヵ月ほど発酵。上澄みを薄めて使います」。ご主人が作り方を教えて下さいました。

「以前は無趣味だった」というご主人ですが、いつしか奥様と一緒に草花や野菜を育てるのが楽しみの1つに。「通り沿いに造った小さな花壇にグリーンカーテンみたいにゴーヤを植えたことがあります。かなり立派な実がなりますよ」。

自分自身の手で磨きをかけた緑あふれる住まいでスローライフを満喫するSさんご夫妻。10年後、この家のお庭にはどんな花が咲いているのでしょうか。

記者の目



10年の歳月を経て住む人らしさが滲み出た円熟味のある家へと進化を遂げたS邸。それを可能にしたのが加齢による生活の変化を予測した女性建築家らしいきめ細やかなプランと、拓友建設の経年劣化の少ない精度の高い施工です。マメなメンテナンスを楽しみながら続けるSさんご夫妻も、家を良好な状態に維持管理するお手本のようですね。使い込まれた木の美しさが印象的でした。


2019年06月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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