10月下旬のある日、最高気温は15度を下回り、そろそろ暖房が恋しくなる季節。恵庭市の新興住宅街に、拓友建設が手がけた暖かく快適なお家があると聞き、足を伸ばしてみることにしました。
シャープなフォルムが際立つ外観
真新しい住宅が建ち並ぶ一角の中でも、目を引くMさん宅。外壁はダークグレーのガルバリウム鋼板を横葺きにし、直線を強調。シャープなフォルムが際立っています。「窓枠の縁と鋼板のエッジラインを揃えるには、高い技術が必要だったんです。拓友建設さんは、それにしっかりと応えてくれました」と、オーナーのMさんは微笑みながら迎えてくれました。
ふと気が付いたのは、玄関側=建物南面の窓の大きさ。南側の窓は、陽差しを取り込むため大きくすることが多いのですが、M邸はどちらかといえば控えめ。これは、室内の熱溜まりを避けるためだそうです。それでも「中はとても明るいんですよ」と奥様はニッコリ。
カーポートから枕木のアプローチを通って、どっしりと厚みのある玄関ドアを開けると、吹き抜けスペースが出現します。日中は、吹き抜けの上まである細長い窓からやわらかな光がふんだんに入るので、照明はまったく不要。框(かまち)を上がって室内へ足を踏み入れると、「裸足で暮らしたい」と奥様が切望された無垢材のフローリングから、温もりがじんわりと伝って気分が和みます。
玄関から真っ直ぐ動線上にある階段の、木(もく)を組み合わせた造形美は、思わず目を奪われるほど。設計したメグロ・アーキ・スタジオの目黒泰道さんは、「階段はもっとも時間をかけて検討を重ねた部分のひとつです」と話します。約4ヶ月を要したプランニングの過程で「位置を何度も変更して、その都度形も変わりました」とMさん。目黒さんが提案したいくつもの案から、ベストなものをチョイス。決め手は「3歳になる娘が2階に行く前に、必ずリビングを通る位置」だったとMさんは説明します。
その結果、1階フロアの大きなアクセントとなりました。取材に同席した拓友建設・社長の妻沼澄夫さんも、その出来栄えにあらためて納得の表情。たどたどしく上り下りする3歳の娘さんをしっかり確認できるこの階段。Mさん一家の、絆の象徴とも言えるでしょう。
専門家同士の連携
室内は全体を通してナチュラルな雰囲気。その中でも、東向きの大きな窓からの陽差しが優しいリビングは、ゆったり感に包まれます。そちらに席を移して、お三方に馴れ初めをお聞きしました。
「実は、目黒さんとは学生時代からの友人なんです」というMさん。Mさん夫婦は目黒さんと同じ大学で建築を学び、ともに設計の仕事に携わる専門家。2012年春頃の土地購入をきっかけに、念願だった自宅の自主設計に踏み切りますが、ご夫妻の専門はビルなどの大きな建物で、住宅は未経験でした。
そこで、Mさんが日頃からその実力を認める目黒さんに援軍を依頼。2012年12月から本格的な作業が始まりました。その後、これまでに多数の北方型住宅を建設してきた拓友建設がチームに加わりました。北海道SHS会の会長を務め、高品質住宅への思いを強くする妻沼社長は、信頼する設計事務所に設計は一任し、自らは施工に専念する考えの持ち主。その一方で、独りよがりな設計は許さないという気骨の人です。「お施主さんが建築のプロであっても、当社は普段通り淡々と高品質の家づくりをするだけでしたよ」と、こともなげに話します。
プロ同士だからわかるこだわり
Mさんが最初からこだわったのは、リビングに連なる小上がり風の和室を設けることでした。将来仏壇を置くことを前提としながら、"和"に偏り過ぎることなくスッキリとまとめたところがポイントです。加えて、リビング側に敷居框(しきいかまち)が張り出しています。それは、腰をおろした際にかかとが当たらないようにしたものです。200mmという高低差にも意味があり、リビングとの一体感と和室の存在感を両立させる「ちょうどよい高さ」なのだと目黒さんは説明します。
和室とリビングを何気なく見回していた妻沼社長。ふと、壁の下部に目に止めて「この幅木の"散り"(壁からの出幅)も、目黒さんを介してかなりやりとりしましたね」と思い出し笑い。そして「通常は10mmぐらいですが、薄いほどスマートに見える。でも、きれいに仕上げるには熟練の職人ワザが必要です。Mさんが指定された4mmは、言わば専門家ならではのこだわり。それに応えることも、ウチに期待されたことでしたね」と振り返ります。「たとえ自己満足と思われてもいいんですよ」と目を細める目黒さん。その言葉に、Mさん夫妻も大きく頷いていました。
家族の気配を感じ取れるキッチン
ユーティリティー関係では、造作した洗面台が印象的。幅をたっぷりとる一方で、高さはいくぶん抑え目。娘さんの踏み台を外す日も、そう遠くない未来のことでしょう。
キッチンは、寸法・幅なども含めて奥様が詳細に設計しました。体のサイズに合わせた使い勝手重視の造りで、「1階全体を見渡せることも、希望通りです」とのこと。実際に立ってみると、奥の和室までがきっちりと視界に収まります。炊事をこなしながら、家族の気配を常に感じていたい―、そんな奥様の気遣いが伝わります。
2階の共用スペースは玄関と吹き抜けで通じており、家族の出入りもよく分かります。階段を上がりきった左手のスペースに、窓を掃除するためのキャットウォークがあります。この形状は冷暖房の効きを考慮したもの。また、右手にあつらえた横長のカウンターは十分なスペースを確保。娘さんの勉強机に変わることも想定しています。愛娘の成長にともなってMさん邸は少しずつ、その表情を変えていくようです。取材中、奥様の側で一人遊びを続けていた娘さんは、ずっと裸足のままでした。M邸で営まれる日々の暮らしがいかに快適なものか。それを、ちんまりとカワイイ素足が物語ってくれました。
記者の目
建築の専門家が住む家は一体どんなん―? 興味津々うかがったM邸は、家族と快適な暮らしがしたいという願いの賜物でした。その思いには、専門家も私たち一般市民も、何も変わりません。思いの強さこそ、良い家を建てるチカラなんだなと、当たり前のことを再認識しました。
2013年11月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。