2017年完成の八雲町T邸。
この家は、北海道の住宅業界が抱える大きな課題を解決するために、函館・八雲の住宅会社、ノースランドホーム(山野内建設)が、Tさんの了解を得てモデルハウスとして公開する前提で建築した住宅です(公開は終了)。
北海道の住宅業界の課題とは何か・・・T邸の写真とともにお伝えしてきます。
「安い新築」のリスク
積雪寒冷地北海道では、寒さ、結露、光熱費負担に悩まされる暮らしから脱却するために、道外の住宅より高い断熱気密性能の家が必要です。
しかし建材費の高騰、大工や技能者の高齢化と人材不足が進む中で、新築戸建て住宅で2000万円を切る家を建てるのは難しい。また、家を購入する側からすると2000万円超えの建物+土地代というのは大きな経済的負担です。
そのため、家の性能、大きさ、仕様を削って2000万円以下の新築戸建て住宅を建てる、という家づくりが近年増えています。ただし、それによって断熱気密性能が不十分になると、光熱費が年間で40万円を超えてしまうことも珍しくありません。そうなると住宅ローン+光熱費負担で支払いはむしろ苦しくなります。
「中古+断熱改修」ならどうか?
かといって築30年の中古住宅を安く買い、断熱改修をすると、総費用は決して安くない。しかも断熱改修は新築工事よりも高い技量と経験が必要です。良い住宅会社・リフォーム会社を見つけられず、断熱改修しても省エネにならない・暖かくないというケースも出てきます。
中古住宅購入後は、クロスや床材などのお化粧リフォーム、キッチンやお風呂、トイレなど水まわりの改修も必要で、断熱改修の予算を捻出できなくなる。寒さや結露、光熱費負担は我慢するというご家庭が多いのが実態です。
「安い新築」を選んでも「中古住宅」を買っても、どちらにしても寒さや光熱費負担から逃れられないとすれば、いったいどうすればいいのでしょうか。
「ZEH(ゼッチ)+リノベーション」という選択肢
函館・八雲のノースランドホーム(山野内建設)は、北海道内の住宅業界でまだ高断熱高気密住宅という言葉、技術が知られていなかった1980年代から、住宅の断熱・気密・換気の研究と実践を重ねてきた工務店(住宅会社)です。
いえズーム編集部(北海道住宅新聞社)も、長年に渡ってノースランドホームを注目。高断熱高気密住宅→ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)などの先進的な取り組みを取材してきました。
「安い新築」を選んでも「中古住宅」を買っても寒さや光熱費負担から逃れられないという課題に対し、ノースランドホーム(山野内建設)は、
ZEH(ゼッチ)と、リノベーションを組み合わせた「ZEH(ゼッチ)リノベーション」という答えを出しました。
そしてその有用性を一般の方に分かりやすく実証するために、今回の家は、Tさんの賛同、ご了解を得て当初モデルハウスとして公開されました(公開は終了)。
ZEHは光熱費負担実質ゼロなのに普及が進まない?
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)とは、
住宅の断熱性能等を大幅に向上させ、高効率な設備システムも導入、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロになることを目指した住宅です。
一般的な断熱気密性能の住宅を新築すると、20年間でおよそ900万円、30年で1350万円の光熱費がかかります。
ZEHの住宅なら光熱費負担はほぼ実質ゼロにできます。30年間でおよそ1350万円の節約になります。しかも暖かく快適な住まいです。
光熱費が実質ゼロで環境にも優しい家。国交省や環境省、経済産業省も補助金などを導入して全国の工務店・ハウスメーカーなどに採用を促しています。北海道でも普及が進んでいるかと思いきや、実はそうではありません。北海道ではなかなかZEHの家が普及しません。
それは、北海道の厳しい気候条件の中で、光熱費ゼロを実現するには断熱気密性能、太陽光発電のスペックをかなり上げないとならず、ZEHを選ぶと住宅の建築費が3000万円を超えてくることが多いからです。
1000万円以上の光熱費削減が実現できるとしても、新築費用が1000万円近くアップするなら、たとえ快適な住環境で、環境負荷が低減できたとしても、ZEHの家を選べる人は多くないという事情です。
その結果、断熱気密性能は国の定める基準ぎりぎり、太陽光発電の搭載も諦める、家も小さめ、住設機器の仕様も控えめで新築住宅を建てるか、中古住宅をお化粧リフォームして、家の寒さ、省エネ性能は妥協する、という落としどころを探る人が多くなるわけです。
リノベーションならZEHへの活路が開ける!
「ZEHは大変魅力的だけど、建設費のアップが悩ましい」ということで、ノースランドホームは、新築ではなく、リノベーションでZEHを実現する方法で活路を見出しました。
リノベーションとは
家の不具合箇所を直し新築時の状態に近づけるのがリフォームであるのに対し、リノベーションは、新築時にはなかった性能・機能などの価値を新たに生み出すほどの徹底した大規模改修のことです。
この2つを組み合わせたノースランドホームの「ZEHリノベーション」とは
・地盤や基礎、立地、構造材の状況など、条件の良い中古住宅をノースランドホームのスタッフが厳しくジャッジして、その候補物件の中からオーナーが安く購入する
・基礎や構造部材など、再利用できる部分だけを一部活かしつつ、ほぼ建て替える
・省エネ性能を一般的な新築住宅以上に高める
・太陽光発電で光熱費分のエネルギーを産み出す
というものです。そのメリットは
・年間40万円前後かかる光熱費負担がゼロになる
・災害・停電時でも、太陽光発電が稼働すれば照明や家電を使える(蓄電池があれば日没時も電気を使える)
・住宅の省エネ関連補助金を活用できる
・新築のZEHより安く、立地も良い家に住める
・プランや間取りも好みの仕様にできる
・エネルギー自給で、環境負荷を削減できる
のです。「新築で安い家でなければダメ」と決めつけている方には興味をもってもらえなさそうなコンセプトですが、「省エネ性能」「維持費」「環境負荷」「立地」「室内温度環境」などに興味がある方には魅力的な提案です。
このT邸を見学して、ZEHリノベーションを決意された方も多く、現在、ノースランドホームは、函館・八雲など道南エリアで年間3棟ペースでZEHリノベーションの実績を積み重ねることができています。
オーナーのKさんにもお話を伺いました。
家づくりのきっかけは?
Kさん 八雲も冬はマイナス10℃くらいになる日もあります。以前住んでいたアパートは寒くて灯油代もかさみました。カビや結露にも悩まされました。子育て環境も考え、戸建て住宅を手に入れようと、以前から住宅用の貯金もしていました。
ノースランドホームとの縁は?
Kさん 妻が独身時代に住んでいた快適なアパートは、暖かくて綺麗でした。実はノースランドホーム(山野内建設)が建てた建物でした。ノースランドホームは、地元でもよく知られている住宅会社ですし、完成住宅見学会を見に行ってオーナーさんの話も聞いて好印象でした。
築30年の中古住宅をZEHリノベーションするというという手法を山野内社長から教えてもらい、興味を持ちました。
性能の良い新築住宅は高いですが、中古住宅をZEHリノベーションすることで建築費を抑え、しかも光熱費が実質ゼロになるというのはよさそうだと思いました。
モデルハウスとして公開する前提なら、安くしていただけるというのも魅力で、両親にも相談したところ賛同してくれたので、ほとんど他のハウスメーカーなども検討せずに、ノースランドホームに決めました。
家づくりの打ち合わせは?
Kさん 築30年の中古住宅は、そのままでは快適に暮らせるような建物ではありませんでした。それが元になるので、リノベーションするといってもどんな仕上がりになるか、想像しにくい部分もありました。
和室や洗濯物を干せるバルコニーなどの要望は担当の久保田さんに伝え、優しく丁寧に対応してもらいました。ZEH住宅の魅力は山野内社長に教わり、とても共感できました。予算面でも、両親などに相談しても、この機会は逃さないほうが良いといわれるほどで、ノースランドホームさんに依頼できてよかったと感じました。
住み心地は?
Kさん 玄関やお風呂も含めて家じゅうどこも暖かく快適です。床下のエアコンで暖房しているので足元も暖かいです。
敷地にゆとりのある中古住宅を購入したので、車2台と、十分な雪置き場もあります。近くに河川敷もあり、春は桜を眺め、お散歩も楽しめます。立地的に利便性も良く、子育て環境も恵まれています。
キッチンの使い勝手もよく、一階に和室を設けたので、子どもが小さいうちは一階で家族全員並んで寝ています。熱交換換気のフィルター掃除も、目線の高さで作業できるので、室内の空気を綺麗に維持できると思います。
ソーラーは約7.5KW搭載しています。フラット屋根に架台なしに設置しているので、雪が積もれば発電しなくなりますが、それでも年間で25万円ほど売電収入があります。光熱費もほぼ同額なので光熱費ゼロ、実現できています。
収納もたくさんあって、整理整頓しやすいので良かったです。
T邸の省エネ性能などのスペック
天井 | セルロースファイバー400ミリ |
外壁 | 高性能グラスウール16キロ105ミリに押出ポリスチレンBⅢ100ミリ |
基礎 | 押出ポリスチレンBⅢ100ミリ両面 |
土間 | 押出ポリスチレンBⅢ100ミリ |
窓 | トリプルLOW-E |
玄関ドア | D2タイプ |
換気 | 第1種熱交換換気システム |
気密性能 | C値0.3 |
外皮平均熱還流率 | UA値0.27 |
建築物省エネルギー性能表示制度 | BELS(ベルス)★★★★★(最高等級) |
太陽光発電 | 7.5KW |
売電収入 | 年間約25万円 |
補助金 | 長期優良住宅リフォーム補助金(250万円) |
外皮平均熱貫流率(UA値)は、住宅の内部から床、外壁、屋根(天井)や開口部などを通過して外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値です。国の定める基準はUA値=0.46/m2Kなので、T邸は大幅に上回っています。
あとがき
この家を見学した人が続々とZEHリノベーションで家づくりを実現しています。高性能の新築住宅より安く、でも性能は高くなる仕組みや、将来にわたってどれだけの経済的メリットがあるのか、その仕組みを語る山野内社長も嬉しそうです。
ZEHリノベーションの事例を紹介する動画もあります。
【中古住宅をリノベーション】ゼロエネルギーハウス事例|ノースランドホーム(山野内建設)
2020年03月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。