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旭川家具にも使われる広葉樹の製材工場・昭和木材旭川工場



旭川に本社を構える昭和木材株式会社は、1913(大正2)年創業の老舗総合木材会社。社員約260名、国内及び海外に12拠点を構え、造材業、木材の販売、木造建築の構造材プレカット、木造住宅の設計・建築、木質内装材・家具の製造などを手がけています。


JR旭川駅構内


JR旭川駅の内装に昭和木材のタモ材が採用されているほか、多くの旭川家具のメーカーに木材を提供していることから、同社が加工した木材を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

昔から木材の集積地として発展を遂げた上川エリアを、今も牽引し続けている昭和木材。今回は9万㎡の敷地に建つ旭川工場(東川町)を訪ね、創業者から数えて6代目にあたる専務取締役の髙橋謙太郎さんに製材の流れを案内していただきました。

広葉樹の美しさをさらに引き出し個性を見分ける加工工場

前回ご紹介した札幌工場は針葉樹の加工がメイン。柱や梁などの構造材が作られていました。
家づくりの根幹!構造材の素材・加工を学ぼう 昭和木材プレカット工場を視察



今回訪ねた旭川工場が扱っているのはナラ(オーク)やクルミ(ウォールナット)などの広葉樹。ゆっくり成長するため木が硬く、色や見た目の美しさから床板や家具、造作用の木材や集成材加工が行われています。

それではさっそく、旭川工場の製材工程を見せていただきましょう。

約30種類の木材を自然乾燥・ストックする原木ヤード



旭川工場を訪ねたのは2月の下旬。原木ヤードには、工場で加工する1年分の原木が山積みされていました。国内外から買い付けた広葉樹の丸太が重なる様は圧巻です。

屋外ヤードの様子はこちらの動画でもご覧いただけます



広葉樹は、成長が盛んな春から夏に伐採すると、その分傷みが早くなるため、葉が落ちて成長が止まる秋から冬の間だけが伐採期間。1年分の材料の買い付けはこの間に行われるため、原木を大量に保管するスペースが必要です。

樹齢20、30年のものから150年もの年月をかけて育った大木まで、原木ヤードには個性豊かな木が揃います。



髙橋専務 この原木ヤードには、シラカバ、ザツカバ、クルミ(ウォルナット)をはじめ、約30種類ほどの広葉樹がストックされています。その半分以上が、北米からやってきたもの。丸太の状態は植物ですから、生鮮品と同様に、冷やして保管する必要があります。


東大演習林(富良野市)で伐採され、銘木市で銅賞を獲得したミズナラ


冬の間は雪が積もるので、4月くらいまでは自然の力で冷やせます。温かくなってきたら地下水を汲み上げて、打ち水のようにスプリンクラーで原木に水をかけて冷やすのだとか。東川町は町民が地下水で生活する町ですが、工場にも大雪山連峰の恵みが活用されていました。


買い付けしてストックされた木々


買い付けを担当する4人のスタッフは、割れ目や木目から、中身が見えない木の質をチェック。木の質はもちろん、加工される1年後の需要も考えながら買い付けを行います。


重機を使って原木を運ぶ様子


製材加工1 原木の切り出しと用途に合わせた切り分け・加工



工場に運び込まれた原木は、転がしながら樹皮を剥ぎ取ります。



木目や木の特徴を瞬時に見極め、阿吽の呼吸で切り出し方を決めます。機械音が響く工場内は、ほとんど声が聞こえません。

各作業工程で木の特性がチェックされ、どの製品に活用するか選定しながら作業は進みます。



ベルトコンベアで運ばれた木材は、用途に応じて様々に加工されていきます。

巨大な原木を切り出すのは大型機械ですが、すべての人の目によるチェックが加わり、すばやい判断と流れるような作業が同時進行。それぞれの木の特長を見極めながら進む加工は、見惚れてしまう職人技でした。

製材加工2 屋外の製材ヤードで「天然乾燥」

製材工場で加工された木は、次の乾燥工程に行く前に、長さや種類ごとに桟積(さんづみ)されます。製材の間に桟木(さんぎ)と呼ばれる細い角材をはさむひと手間には、風通しをよくするすき間を作ると同時に、板の変形を防ぐ役割もあるそうです。



桟積された木材は、乾燥させるために屋外へ搬出されます。



髙橋専務 丸太の時点で70%ほどあった含水量が、約1年かけて屋外乾燥させると、20〜30%程度まで下がります。

外で乾燥させますから、当然、雨も降りますし、カンカン照りの日もあるわけです。濡れたり乾いたりを繰り返して環境に慣れさせると、製品になった時に落ち着くといいますか、木の性質がおとなしくなるんですね。

「乾かし続けるより、風雨にさらされた方が落ち着いた木になる」。これもまた、110年の歴史の中で培われた製法です。

温度湿度管理による仕上げの「人工乾燥」



木の種類によって乾燥管理は変わるので、小回りが利くように、青い扉の乾燥室は計12個用意されていました。薪や木くずを燃やしたボイラー熱を活用し、最初は50度程度、後半は80〜90度まで温度を上げながら、2〜3週間かけて含水量が8%になるまで、ゆっくりと仕上げの乾燥を行います。

原木を切り出してから乾燥するまで約1年半から2年の歳月をかけて、ようやく家具材として使われる製品が完成するのです。



木材の乾燥や工場の暖房に使われているのは、木くずなどを燃料とするボイラーの熱です。廃棄物になるはずの端材の有効活用はSDGsにも通じています。

住宅資材や造作家具、集成材まで木の美しさを引き出す加工工場



加工工場で行われているのは、木材を貼り合わせて作る集成材や、取引先からのオーダーに沿った加工、住宅資材や造作家具づくりまで実にさまざま。
並んでいる木材の色や木目に、広葉樹が持つ表情の豊かさが感じられます。



集成材を接着する大型機械。



カットされた集成材は、ホームセンターなどにも並びます。



こちらのチームは、テーブルの天板を製作中。



美しい天板が仕上がっていました。

110年の歴史を重ねた昭和木材がこれから目指していくこと



髙橋専務 時代のニーズが多様化する中で、事業の形は大きく変化してきました。100年近く前は、北海道の木材をヨーロッパに輸出していましたから、木材を輸入して加工販売する今の形とはまったく逆の商売だったんです。しかし、一貫して変わらなかったのは「木を扱う仕事」であるということです。

住宅資材の加工を原木から手がけ、住宅設計や建設まで自社完結できる体制は、お客さまに安心を提供できるスタイルだと自負しています。

住宅事業部で設計や工事に携わるスタッフさんも「自社製の資材だから、安心して使える」と口を揃えます。昭和木材で家を建てようと考えるお施主さんは、工場見学や、テーブルなどの家具を造作する際の素材選びで工場を訪れることも。また旭川家具のファンの方が、昭和木材に住宅建築を依頼されるケースも多いそうです。

この工場を見れば、どれだけ大切に木材が扱われているのか、どれだけ品質の良いものが使われているのか、木を扱う職人さんたちの誇りを実感できるはずです。



一枚板が保管されている倉庫には、樹齢を重ねた木が醸す凛とした空気が流れていました。

髙橋専務 木材屋として、木材の有効活用はずっと考えてきました。木材加工するうえでの副産物となる枝葉はバイオマス発電燃料に、製材時に出るチップは製紙用パルプ、端材は薪ストーブの燃料、おが屑は燻製やコンポストで再利用。

でも、まだまだできると思っています。木を丸ごと使い切ることを、これからも考えていきたいと思っていて。そのひとつの取り組みが、一般の方が広葉樹材をDIYで使える「MOOQs element(モークス・エレメント)」です。


サンプルとして製作されたコースター


一般的にホームセンターで販売されているDIY用の木材は針葉樹材です。「MOOQs element」は、高級家具で使われることが多いオーク、ウォルナット、サクラなどをDIY用木材として加工。木目の細かさや美しさ、触り心地の良さを、ぜひ店頭で確かめていただきたいです。

MOOQs elementについて
https://mooqs.jp

ショップリスト
https://mooqs.jp/shoplist/

広葉樹の苗を植えても、ほぼ自分の代で製品にすることはできません。長い年月を経て育つ広葉樹の価値を知っているからこそ、昭和木材は100%使い切る加工を目指しています。

【記者の目】



全国的に見ても、丸太から板を切り出し、乾燥保管まで行っている製材会社はごく稀です。工場で働く社員は約90人。人の目利きによって、工程ごとに木材の生かし方が決められ、同時に何人もの職人さんのチェックを経て品質管理がなされていました。そこに「美しさ」や「味わい」という観点が入るからこそ、決してAIに置き換えることができない、製材業という仕事の奥深さを感じる取材になりました。

写真 村川写真事務所
文章 布施さおり

2023年05月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

昭和木材株式会社 住宅事業部の取材記事