iezoomでもご紹介した笠井啓介建築研究所の「椄さびの家」が、2025年夏、「第9回日本エコハウス大賞」の「モデルハウス・自邸部門」で奨励賞を受賞しました。「日本エコハウス大賞」は、脱炭素時代の省エネで優れた設計実例を表彰するコンテストで、建築家の伊礼智氏や東京大学大学院准教授の前真之氏をはじめ、著名なエコ住宅の専門家5名が審査員を務める住宅建築の栄誉ある賞です。今回は受賞実例となった笠井邸を再訪問し、設計コンセプトについて詳しくうかがいます。
古さのなかに、あたらしさを。
笠井さん 「椄さびの家」は、私の祖父母が暮らしていた築36年の家を骨組みから見直し、古材を生かして再構築した住宅です。空間を編み直し、時の蓄積とこれからの暮らしが自然につながる「程よくサビれた快適な住宅」を目指しています。
「エコハウス」8つの評価項目、それぞれの工夫について
「日本エコハウス大賞」は、8つの評価項目を設定しています。
1.脱炭素時代の省エネ住宅の提案
2.地域・周辺環境に合わせたパッシブ設計
3.自然エネルギーを活用した創エネルギーの提案
4.新しい試みや挑戦
5.心地よさ、暮らしやすさを考慮したプラン
6.安心して住み続けられる耐震性の確保
7.公共に配慮した普遍的な美しさ
8.長持ちするための工夫や維持管理の提案
笠井さんはそれぞれ、どんな工夫をしたのでしょう?いくつかの項目についてお聞きします。
「脱炭素時代の省エネ住宅の提案」について
築36年の木造住宅の基礎と骨組みだけを残したスケルトン改修で、新築に伴う解体や廃材処分による環境負荷を回避しました。断熱性能は北海道基準を上回るUA値0.21を確保しています。
暖房は薪ストーブ1台で、燃料には廃木材や譲り受けた木材を活用し化石燃料に頼らない生活を実現しています。間取りの工夫とダクト送風によって室温を均一化し自然エネルギーと設備のバランスを活かした省エネ住宅。断熱性能と暖房コストの最適なバランスを図り、持続可能な省エネ住宅のあり方を目指しました。
「地域・周辺環境に合わせたパッシブ設計」について
北海道江別市は積雪5mを超える積雪・寒冷地。寒い冬の日には日差しであたたまり、夏は日射をさえぎる庇付きの開口部を設けました。断熱性を高めるため窓は必要最小限とし吹き抜けを通じて採光と空間の広がりを確保しています。
薪ストーブから離れた1階の空間へは、2階から送風ダクトを使って熱を配分。さらに、建具を最小限に抑えた連続性のある間取りによって、熱の滞留を防ぎ住宅全体の暖房効率を高めました。自然エネルギーと機械設備を組み合わせた地域環境に即した快適なパッシブ設計です。
「新しい試みや挑戦」について
築36年の住宅を新築ではなくスケルトン改修によって再生することで、「普通の古い住宅に新たな価値を見出す」という試みに挑戦しています。構造材や建具、無垢材の階段などを可能な限り再利用し、経年変化をデザインとして活かす空間づくりを行いました。
「心地よさ、暮らしやすさを考慮したプラン」について
2人暮らしに合わせてコンパクトにまとめつつ、ワンルームのような一体的な空間構成にしています。空間を少しずつずらして重ねることでゆるやかな境界が生まれ、各室に自然な居場所が感じられるようになっています。天井高や素材、視線の抜けに変化を持たせることで狭さを感じさせず心地よい奥行きを演出。吹抜が1・2階をつなげ、空間全体に開放感と一体感が生まれました。
観葉植物やアクアリウムのための造作棚や、有孔ボードによる植物ハンギングスペースを設けることで、趣味が日常に自然と溶け込むよう計画しています。経年変化した梁や建具、テーブルも取り入れ、感覚的にも身体的にも“ちょうどよい”心地よさを追求しました。
笠井さんにお聞きします
これから家を建てる方にメッセージがあるとしたらどんな言葉をかけますか?
この家の場合は「どこまで自分たちらしく住むか」を大切にしました。家事ラクなどの効率の良さが重視されがちですが、もう少し趣味やライフスタイルを追求して建てる人が増えてくれたら嬉しいです。
もう一つ、Instagramなどを見て気に入ったポイントを取り入れるのは危険だなとも感じています。そういうものが家全体のバランスと合っているか、ずっと好きであり続けられるのかを良く見極めて採用してほしいです。「どこかで見たことのある、このデザインを取り入れたいがために、バランスが崩れてしまっている」というパターンをよく見かけます。住宅全体のバランス、統一感はとても大切です。
断熱と暖房について、思うところはありますか?
最近はトリプルサッシが当たり前みたいになっていることに多少の違和感を感じています。この家は全部ペアガラスで、熱源は薪ストーブなので暖房のランニングコストは0円ですが、全然寒くありません。今、どの熱源価格も上がっていますが、中でも都市ガスを使うなら、断熱性能を上げてトリプルサッシを採用することで、ランニングコストを抑えることは可能だと思います。熱源と住宅性能のバランスを正確に判断することも、大事なことだと思いますね。
「椄さびの家」は暖房を薪ストーブ1つで完結するなど、自邸だからこそできたという実験的な試みも多かったそう。笠井さんは断熱・気密の高さはもちろん、オーナーの予算とニーズに合わせ、何十年も愛される唯一無二の住宅建築を目指しています。こだわりの1棟を希望しているなら、ぜひ一度相談してみてはいかがでしょう。
記事 iezoom編集部 松下綾
「椄さびの家」の取材記事はこちらをご覧ください。
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