住み慣れた本州の自宅を離れ、美瑛町市街地から約7km離れた広大な畑作地帯に建つ薪ストーブのある新居におひとりで移り住んだ佐藤さん。-25℃を下回る冬の厳しい寒さに対応した300mm断熱のZEH住宅での“田舎暮らし”を覗いてみました。
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憧れの北の大地に単身移住
美瑛の丘を背にして建つ片流れ屋根のお住まいがこれから向かう佐藤邸です。登山者が一休みするヒュッテを思わせる、カラマツ貼りのワイルドな外観が緑の田園風景と見事に調和し、まるで1枚の絵のよう。
「この場所に都会的なフラットルーフの家を建てても似合わないと思います」。そう語る佐藤さんは山登りと写真が趣味の三重県からの移住者。筋金入りの鉄道ファンでもあります。生まれは愛知県名古屋市。
15歳の夏、蒸気機関車の写真を撮りに来たことがきっかけで北海道が大好きになり、頻繁に道内を訪れるように。昨年11月、眺めが良く、インフラも整ったこの土地に自分だけのお城が完成、長年の夢だった北の大地への移住を果たしました。
「北海道の工務店で北海道仕様の住まいを」
佐藤邸は太陽光発電で家で使う電気をすべて賄えるZEH(ゼッチ)。断熱性能UA値=0.25W、隙間相当面積C値=0.4cm2というハイスペックな性能です。換気は極寒冷地のカナダで実績のある「ライフブレス」熱交換換気システム。
南に傾斜した片流れ屋根に出力330Wのパネルが24枚、合計7.9kW設置されています。設計・施工は旭川の隣・東神楽町の藤井工務店。
「冬の寒さを考えると、大手ハウスメーカーではなく、地元の工務店が建てた北海道仕様の家が1番。美瑛での施工が可能な旭川周辺の工務店を探しました。候補は何社もありましたが、自然素材を使って傾斜屋根などの自由設計を頼むと、ローコストをうたった工務店よりもむしろ安く建てられる正直な見積を出してくれた藤井工務店さんを選びました。光熱費のかからない快適な家づくりにこだわり、木をふんだんに使った特徴のある外観も希望通り」。
当初「200mm断熱で十分」と考えていた佐藤さんですが、藤井社長の説明を聞くうち「多少の初期投資をしても、ランニングコストが抑えられる家にすべき」という方向に心が動き、より重装備の300mmに。開口部は全てトリプルガラス入りサッシを使用しました。
十勝岳連峰を一望。薪ストーブのあるリビング
おうちの中も柱・梁を見せた山小屋風。壁はホタテの殻を原料とする左官材による塗り壁、床は無垢ナラ材のフローリングです。
玄関と居住空間の間に仕切りがなく、ホールから薪ストーブのあるリビング全体が見渡せます。「大きな家ではないので空間を広く使えるよう、ワンルーム的なオープンスペースにしました」と佐藤さん。
ウッドデッキに面したテラスの外は一面の豆畑。その彼方に十勝岳連峰の山並みが広がっています。この日は快晴に恵まれ、真っ白な噴煙を上げる十勝岳がハッキリと見えました。
「木の間から山が見える位置にテラスを設けました。夕暮れ時の眺めも格別。遠くの山々がピンクに染まっていく様子が何とも言えません」。
好きなお酒と旬の野菜で贅沢な自炊生活
建物のちょうど真ん中あたりに木の手すりの造作階段があります。その横がダイニングスペース。テーブルの向こうにキッチンが見えます。
いかにも山男の住処、という雰囲気のステンレス天板のオリジナルキッチン。標準的なI型キッチンより横幅が短めですが、奥行きが深く、よく使う調理器具や調味料を手元に置いても邪魔になりません。
シンクの向かいに食器棚と食品庫を造作。食器棚の中を見せていただくと、ふだん使う食器と一緒に、各地で集めたいろいろな地ビールグラスが並んでいました。パッキン付きの扉がついた食品庫は冬は外気を取り入れて冷やせるため、ワインの保管に最適。
「付近にお店がなく、3食自炊しなくてはならないのがちょっと大変だけど、地元で採れた新鮮な野菜が味わえます。手の込んだ料理は作りません。お酒に合う簡単なメニューがほとんど」。ちなみに、取材前日の佐藤さんの夕食はチーズフォンデュでした。
居住空間と水廻りを結ぶウォークインクローゼット
リビングの隣は道内外から訪ねてくるお友達を泊めるために造った客間。リビングとの境に吊り戸があり、ふだんは開けたままで生活しています。画面右端の引き戸は通り抜け可能なクローゼットの入り口。ここからユーティリティに移動できます。
オリジナルの洗面台を設置したユーティリティ。左側に行くとトイレ、さらに進むとキッチンがあります。「着替えも洗濯も衣類の収納も、1室で済ませられるのが便利。歳をとったら客間にベッドを置き、1階だけで生活するつもりです」。
秘密基地みたいなロフトで鉄道模型作り
リビングを見下ろす2階のプライベートスペース。1階同様、間仕切りを造らず、フロア全体をワンルームとして使っています。
3方に窓があり、外の景色を眺めながら、ゆったりと朝の時間を過ごすのが佐藤さんの美瑛でのライフスタイル。「今の季節は午前4時でも辺りが明るい。鳥の声も聞こえます」。
ロフトをのぞくと、製作中の鉄道模型のジオラマが。ロフト内を占拠するほどの大きさで分解しないと下ろせないとか。冬はジオラマ作りに没頭しました。
取材に立ち会って下さった藤井社長も「ロフトを希望するお客さまはたくさんいらっしゃいますが、こんな活用の仕方は初めて」と驚いた表情です。
光熱費0円以下で快適な田舎暮らし
佐藤さんがこの家に入居した11月中旬の美瑛の気温は-5℃。「雪が積もっていましたが、家の中は暖かでした。-25℃以下まで冷え込んだ夜、ストーブを消して寝ても朝凍えることもなく、300mm断熱の効果を実感しました」。
薪ストーブの生活も佐藤さんにとって初めての経験。「万が一、点火できなかった場合に備え、美瑛の真冬の寒さでも十分な暖房能力のある寒冷地向けエアコンを付けたので不安はありませんでした。朝は焚き付けが面倒だからエアコンを使いますが、やっぱり炎が見える薪ストーブがいい。友達にも好評です」。
敷地内には薪の山がいくつも。丸太をトラック1台分購入して佐藤さん自らチェーンソーを使って玉切りして割って薪にしました。さらに、この土地にあったサクランボの木や藤井工務店からもらった端材も薪として活用しています。
「3年は持つでしょう。調理・給湯などに使う電気は太陽光発電で十分賄えます。売電で光熱費が0円以下。お金の問題もさることながら、快適なのが何よりです」。
佐藤さんが新居に移り住んでから撮影した1枚の写真。地平線に虹のアーチがかかった幻想的な朝の光景です。ここに住んでいなければ撮れない貴重なショット。「最近はあまりカメラを手にしていません。いつでも撮れると思うから」。
そのかわり、サイクリングや家庭菜園など新たな楽しみも。「5~6月は新型コロナウィルスの影響で外出できず、薪割りをしていました。またすぐに冬がやって来そうな気がします。夏が終わらないうちに山に行きたいですね」。
記者の目
山をこよなく愛する男性にふさわしいラフな雰囲気が魅力の住まい。藤井工務店が得意とする自然素材を活かした意匠と住む人の個性が絶妙に噛み合い、味わい深い家に仕上がりました。「この建物なら資産価値が落ちない」と胸を張る佐藤さん。許容できる範囲であれば、ここぞという場面で投資する覚悟が家づくりという一大事業には必要なようです。
2020年07月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。