Column いえズーム コラム

住宅の屋根まとめ(札幌ほか北海道)2022年版


無落雪のフラット屋根が圧倒的に多い北海道。道外から訪れた方は「屋根が平らで真四角な家が多い」と、不思議に感じることも多いようです。

北海道の家も昔は三角屋根でしたが、急速な市街化により都市部の人口が増えて敷地が狭くなり、落雪の問題が深刻になってきたことから、屋根を平らにして隣家への落雪を防ぐようになりました。今回は、このような環境要因に加え、素材や施工技術の発展とともに変化してきた北海道独特の屋根事情、そして実際の住宅事例について詳しくまとめます。

北海道の屋根の歴史 明治の開拓期~戦前まで

北海道の屋根形状の変遷を見ていくと、自ずと北海道の家づくりの歴史をふり返ることになります。明治期に開拓使が入植してからは、本州から来る大工さんなどを中心に、従来の日本家屋と同じか、似たような住宅が建てられていました。



明治期の農家の住宅(北海道開拓の村蔵)。この家は木造のかやぶき屋根で、屋根は屋根勾配が2段階で構成される「しころ屋根」と呼ばれる形をしています。



開拓の役割を担った屯田兵の住まい(屯田兵屋、北海道開拓の村蔵)は、板張りの木造平屋建て。屋根は三角形ですが、「越屋根」といって、かまどや囲炉裏の上にあり、採光や煙抜きのための別棟をもつ小屋根をのせています。



こちらは作家の有島武郎が明治期43年から1年ほど暮らした旧有島家住宅(北海道開拓の村蔵)ですが、昭和期の戦前までは住宅のほとんどが、こうした下見板張り(横手に長く張った板の下端が、下に来る板の上端に被るように張っていく)の木造でした。断熱材などは入っておらず、隙間風が入り込む住宅でした。

北海道の屋根の歴史 戦後~現在

通称「三角屋根」のコンクリート造住宅



通称「三角屋根」。北海道で三角屋根の家といったらコレでした。
1960年代~1970年代にかけて、北海道住宅供給公社が積立分譲住宅として供給した規格型コンクリートブロック造の家です。都市部への人口集中を回避するため、都市近郊に造成されたニュータウンを中心に大量に建てられたもので、色とりどりの三角屋根が並ぶ町並みは、北海道の原風景とも言えるでしょう。
それまでの木造住宅に比べて、耐震性、防火性、断熱性能は一気に上がりましたが、湿気が多くなったりスペースを広く取れないなど、コンクリート造ならではの課題もありました。当時、屋根材には板金(とたん)が使われていました。

無落雪屋根が登場。落雪はないが新たに雪庇の問題が



都市への人口密集がいよいよ過密になり、住宅街の敷地が狭くなっていく中で、隣家への落雪は深刻な問題になっていきました。そうした中登場したのが「無落雪屋根」です。無落雪屋根は一見平らに見えますが、緩い勾配がついた谷状になっていて、谷の底(真ん中)にある溝(ダクト)を流れて家の内部を通って排水する「スノーダクト」方式を採用しています。雪下ろしの際の落下事故や、滑り落ちる雪の下敷きになるなどの事故を回避でき、ツララが出来にくいないどのメリットがありますが、積もった雪が屋根から張り出す「雪庇」が課題となっています。雪庇は大きくなると落下する恐れがあるため、まめに雪庇を落とすなどの配慮が必要です。

また、この頃になると三角屋根の住宅では、一定間隔で雪止めとなるリブ形状を成型した横葺き方式の屋根材「スノーストッパールーフ」を使ったり、屋根に「雪止め金具」を付けるなどの方法がとられました。

フラットルーフ(陸屋根)



その後、ほとんど傾斜が無く、平らに近い屋根形状のフラットルーフ(陸屋根)が登場しました。こちらは集合住宅の屋根にも多く使われています。勾配がほとんどないため、雨水がたまりやすく、しっかりとした防水機能が求められます。防水には大きくアスファルト防水、シート防水、塗膜防水の3つがありますが、どれも継ぎ目の劣化から漏水する心配があるため、10年ほどでメンテナンスが必要になってきます。フラットな屋根はモダンな外観デザインを可能にするため、近年では益々人気のある屋根です。

屋根材の進化で落雪しない三角屋根も登場


写真は石付金属瓦のコロナルーフを採用した例


三角屋根では、北米では一般的に使われている「アスファルトシングル(ガラス基材にアスファルトを浸透させ、表面に石粒を吹き付け接着してある屋根材)」や、「石付金属瓦(瓦や杉板調にプレス加工したガルバリウム鋼板に色付きの天然石を砕いて焼き付けた屋根材)」が現れ、主に洋風住宅や輸入住宅の屋根材として人気となっています。どちらも表面がざらざらしており、雪が屋根にとどまる性質が広く認められています。

現在、北海道の住宅で使われている屋根をまとめると
〇無落雪屋根 スノーダクト+板金
〇三角屋根 スノーストッパールーフ、雪止め金具を使用した板金、石付金属瓦、アスファルトシングル
〇フラットルーフ 板金に加え、最近では耐久性が高いシート防水も

となっていることがわかりました。

住宅実例に見る屋根形状

ここまでは北海道における屋根形状の変遷や、屋根の素材について見てきましたが、ここからはIEZOOM編集部が取材した住宅実例を通じて屋根形状を見ていきたいと思います。

太陽光発電を搭載した長い片流れの屋根 北海道恵庭市/キクザワ



合計56枚ある太陽光パネルは、すべて屋根に設置しています。日中、太陽光でつくった電気は消費分と、蓄電池(定格容量で約7kWhの製品を2台設置)の充電にあてて、余剰分を売電する仕組みで、夜の消費分は蓄電池でまかないます。
空間の「余白を楽しむ」片流れ屋根のオフグリッドな家 恵庭市Kさん/キクザワ

一部が六角屋根の特徴的な外観 北海道音更町/カントリーヴィレッジ



一部を六角形にした屋根が特徴的な外観は朝日良昌社長による設計。角地という立地を活かしたデザインです。六角屋根部分はご主人の書斎になっています。
住み心地も満点のカントリースタイル 六角屋根の家/音更町Kさん

住宅とカーポートの双方の屋根に太陽光パネルを設置 北海道帯広市/水野建設



カラマツ外壁が主役のシンプルな外観。住宅と並んで存在感を放っているのは、同時に作った物置兼カーポートです。「相性の良いオール電化と太陽光発電を組み合わせたくて」と、住宅、カーポート双方の屋根に太陽光パネルを設置しました。凹凸のあるカラマツ外壁は夜間のライトによる陰影も味わい深く、近所の方にも好評です。
市街地で叶えるスローライフ/帯広市S邸 水野建設

太陽光パネル付きの三角屋根 旭川市/藤井光雄工務店



家づくりにあたっては、ご夫婦共に「スタイリッシュにしたい」という希望がありました。外装は道産カラマツをメインに使っています。こちらはウッドデッキを付けた建物背面。正面はモルタルを使い、バイカラーで仕上げています。三角屋根の片面には7列3段、全部で21枚、発電量7.14kWの太陽光パネルが設置されています。

藤井社長 「この家は年間の一次消費エネルギー量の収支をゼロ以下にすることを目指したZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。夏季には2万円/月ほどの売電が可能なので、夏の間に売電した分で冬期の電気料金が実質ゼロ以下になる試算になっています。自ら屋根に上って太陽光パネルの設置工事を賄うことで、費用を抑えるなどの工夫もしており、環境を守るためにも、1棟でもZEHの家を増やしたいと思っています」。
自然素材でつくるスタイリッシュ住宅 旭川市N邸/藤井光雄工務店

吹き抜けで広さを創る片流れ屋根 北海道旭川市/昭和木材



Kさんのお宅は2015年9月に完成。のどかな住宅街にあります。縦長な土地に、縦長に配置された平屋建てで、敷地の間口から建物まで、駐車スペースを広く確保しています。勾配屋根の形状を生かした吹抜けのリビングは10畳大。開放感溢れる空間で、実際よりも広く感じられます。ナラの無垢板を使った床には、掃除がしやすいようウレタンワックスを掛けています。
ミニマルで暮らしやすい平屋の家 旭川/ 昭和木材株式会社

輸入住宅らしい三角屋根 北海道札幌市/プルーデンスの家



井元さんのお宅は札幌市内の閑静な住宅街にあります。外観は隣接する雑木林の緑に彩られ、往来からも目を引く上品で華やかなデザイン。切り妻屋根をバランスよく配し、妻飾りや、飾り雨戸などの装飾も印象的です。

「三角屋根と一言で言っても、これだけ切り妻屋根を多用したものはプルーデンスの家ならではと言えます。複雑に入り組んでいますが、まき垂(屋根の雪が屋根の先端から軒に垂れ下がり、壁側に巻き込む現象)などの心配はないのかとお聞きしたところ「そうした心配はなく、意匠性の高いデザインがお客さまからも喜ばれています」と井元さん。
スモーキーカラーの塗壁に格子窓の輸入住宅 札幌市/プルーデンスの家

片流れ屋根にソーラーパネル 北海道七飯町/渋谷建設



Hさん夫妻は、子ども部屋も含めて家族が近い空間にいたいという思い、そして自分たちが高齢になってきたときに階段の上り下りが負担にならないようにと、平屋建ての住まいを要望されていました。敷地が広めで南東の角地の土地を探したのも平屋住宅が前提だったからです。太陽光発電のソーラーパネルが16キロも搭載されている片流れ屋根なので高い部分はほぼ2階分の高さがあり、そこに大きなスペースを確保することができました。
子育て世代の平屋住宅・七飯町H邸/渋谷建設(函館)

zehに対応した片流れ屋根 北海道北斗市/ノースランドホーム(山野内建設)



片流れ屋根はソーラーパネルを搭載しやすいメリットもあります。フラット屋根にくらべ架台を施工せずに、直接屋根に貼れるのでコストダウンできます。T邸の太陽光発電は試算で、年間9.3KW分、金額で約25万4千円分の発電額になります。

夏場は発電額が多く暖房しない、冬場は発電量が減るが暖房費がかかる、というムラはあるものの、年間で計算すると、一般的な家が30万円~50万円近くかかる中で、K邸は光熱費負担額が実質ゼロになる、ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。
家族を守る防災&快適なLCCM住宅/北斗市T邸 ノースランドホーム(山野内建設)

片流れ+三角の組み合わせ 北海道清水町/カントリーヴィレッジ



2019年11月完成のG邸は緩やかな片流れ屋根と三角屋根を組み合わせた平屋建て。レンガ調タイルとモルタル壁をバランスよく配し、ナチュラルな木でアクセントをつけたインダストリアル系のモダンデザインが印象的です。

設計・施工はカントリー系やインダストリアル系のデザインを得意とし、高性能な住宅づくりにこだわる芽室町のカントリーヴィレッジ。「ホームページに掲載されていた素敵なガレージハウスが目に留まり、事務所を訪れたのが朝日さんとの出会い」とGさんはいいます。
十勝の厳しい気候に高断熱高気密で対応。洗練されたモダン平屋 清水町Gさん/カントリーヴィレッジ

除雪が要らないフラットルーフ 北海道恵庭市/キクザワ



Sさんは、築19年の2階建て注文住宅を減築して平屋にし、さらに一部増築してシンプルモダンな住宅にリノベーションしました。もとは三角屋根で、屋根から落ちた雪の除雪に苦労されていたそう。リノベーションを機に、屋根はフラットリーフに変更して、見た目も全く違った印象に仕上がりました。今では雪かきの心配もなく、開放的な住空間に満足されているご様子です。
リノベで実現!使いやすい動線と自然素材の心地よい家/恵庭市Sさん キクザワ

フラット+ソーラーパネル 北海道北広島市/キクザワ



建物は日当たりを考えて敷地の北側に配置し、総2階の建物に別の平屋の建物がつながっているような、特徴ある外観です。敷地は、購入当初は道路と高低差があって車が出入りしづらかったのですが、道路に面した敷地の土砂を掘削して道路と水平になるよう整備。そこへカーポートを設けました。

カーポートの屋根と、建物の屋根には合わせて7.8KWという大容量太陽光パネルを設置。これが後から説明する「ZEH」に欠かせない設備なのです…!
最新鋭ZEHと自然素材が絶妙コラボ!北広島市・佐久間さん/キクザワ

モダンデザインのフラットルーフ 北海道札幌市/アウラ建築設計事務所



Tさんご夫妻は、アウトドアが大好き。週末は犬を連れて湖へ。キャンピングトレーラーに犬と滞在しながら、ボート遊びや仲間とのバーベキューなど、オフタイムを満喫しています。そんな楽しみを支えているのが、札幌市内の住宅地に完成した新居です。フラットルーフの屋根に向かって少しずつ膨らみを見せる外観は、デザイナーズ住宅さながらのモダンで個性的な印象です。
建替えで実現!ペットとアウトドアが楽しめる家 札幌市・Tさん/アウラ建築設計事務所

実際の住宅実例を見てみると、ソーラーパネルを載せる場合は架台が必要ない片流れ屋根を選んだり、長年、三角屋根からの落雪で苦労した方がリノベーションでフラットルーフを選択するなど、屋根形状はデザインの好みだけでなく、目的に合わせて選択する人が多いようです。
住宅会社や家のデザインをどうするか検討中の方は、屋根の形状についても考えてみてはいかがでしょう?そこから始まる家づくりもありそうです。


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