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空間の「余白を楽しむ」片流れ屋根のオフグリッドな家 恵庭市Kさん/キクザワ

レッドシダーの無垢板で天井を仕上げた玄関ポーチ。すぐそばに自然が広がる好立地


2022年8月、恵庭市Kさんの新居が完成しました。設計・施工したのは、自然素材をふんだんに使った温もりと、断熱・気密に優れた高性能な住まいづくりで人気のキクザワ(恵庭市)です。

Kさんは30代の4人家族。ペット3匹と暮らしを楽しんでいましたが、2019年に2人目のお子さんが誕生し、住んでいた家が手狭になってきたこともあって、本格的に新築について考え始めたそうです。

Kさん 最初は漠然と新しい家について、『いつかはマイホームを建てたいな』と思っていた程度だったのですが、駅にも割と近い公園横の広い土地がタイミングよく売りに出されたのを知ったんです。自然豊かで環境が良く、子供たちが公園に遊びに行く機会も多いので、良い土地だなと思い、そこから一気に家づくりが加速しました。

せっかく建てるのであれば、暖かい家に住みたかったので、『断熱』や『気密』といった住んだ後に手を加えることが難しい基本的な住宅性能を大切にしたいと思い、断熱気密施工で評判の良い会社での新築を検討しました。

性能を活かした上で、エネルギーの自給自足に繋がるZEH(ゼッチ:ネット・ゼロエネルギーハウス)やV2Hシステムに関しても興味が湧き、一つ一つ調べて、自宅に導入できないかを検討していきました。


縁側のように腰を掛けることができる、庇と袖壁の付いたウッドデッキも


これまでZEH住宅も数多く手がけてきたキクザワ。今回K邸では、電気を自給自足する「オフグリッド」住宅に挑戦しています。

「オフグリッド」住宅とは電力会社などの送電網につながっていない家のことをいいますが、冬は積雪により太陽光発電が十分に機能しない可能性もあるため、Kさんのお宅は完全なオフグリッドとはせず送電網に
接続して、電力が足りないときは商用電力を購入できるようになっています。

電力網に接続され、余剰電力を売電できる太陽光発電の創蓄連携システムの他に、電力網に接続せず、住宅内でのみ発電した電力を活用できる自家消費専用の創蓄連携システムも搭載。冬期間の暖房や給湯など、ライフラインとなる設備は発電・蓄電が不十分な時にも電力網から電力を購入できるように電力網に接続した創蓄連携システムを利用します。

一方、レンジや炊飯器、洗濯機、家電類などの消費電力量の小さい設備は自家消費専用の創蓄連携システムを利用することで、電力消費を分散し、天気が悪い日や朝・夕方など低日射で発電量が不十分なときもできる限り太陽光発電で電力を賄えるよう工夫しています。

さらに、電気自動車やプラグインハイブリッド車と住宅内で電力のやりとりができるV2H(ブイ・ツー・エイチ:Vehicle to Home)システムも搭載し、太陽光発電による電力をEVなどに蓄え、夜間に住宅内に送電できるようにすることで、太陽光発電を最大限活用できるようにしています。

■自家発電+蓄電池で災害に備えられる
■商用電力の使用量が少ないのでエネルギー価格が上昇しても影響を受けにくい
■エネルギーをつくり出すエコロジーなシステム。売電と自家消費によって家計を助けるエコノミー効果もあり、結果「二つのエコ」を実現

と、限りなくオフグリッドに挑戦しています。

それでは、Kさんがキクザワと取り組んだ、こだわりの家づくりを見ていきましょう。

21.44kW分・56枚の太陽光パネルを屋根に設置


長い片流れ屋根に搭載した太陽光パネル。ここだけで36枚載っている


K邸は2022年10月に施行された住宅性能表示制度の断熱等性能等級7(UA値0.2)を上回る超高断熱住宅です(断熱仕様は末尾の表を参照ください)。

さらに21.44kW分の太陽光発電パネルを設置することで、ざっくりした表現でいうと、暖冷房や給湯、照明・テレビなど、家1棟が年間に使うエネルギーの2倍以上(※2)を 太陽光発電で創り出すことができる、電力自給住宅になりました。

※2 BELSによる再生可能エネルギーを加えた設計一次エネルギー消費量の基準一次エネルギー消費量からの削減率は157%削減


ガレージと玄関の通路壁面に設置された蓄電システム。上から分電盤、ハイブリッドパワーコンディショナー、蓄電池ユニット


合計56枚ある太陽光パネルは、すべて屋根に設置しています。日中、太陽光でつくった電気は消費分と、蓄電池(定格容量で約7kWhの製品を2台設置)の充電にあてて、余剰分を売電する仕組みで、夜の消費分は蓄電池でまかないます。

ルームエアコンを使った独自の全館空調システムを採用

K邸ではもう一つ、ポイントとなる住宅設備があります。



こちらは中2階のフリースペースです。



飾り扉を開くと、さらに扉が現れました。



奥は傾斜屋根の小屋裏にあたります。ここに設置した14帖用のルームエアコンの冷気・暖気を、ダクトを通じて各居室に送りこんでいます。

セントラルヒーティングよりも数十万円のコストダウンが見込め、太陽光発電を活用することで、冷暖房コストも小さくなります。少ないコストで温度ムラのない、快適な居住空間が叶うそうです。換気システム自体にはダクト式の第1種全熱交換換気を採用しています。

ここまでの性能や設備にこだわったのは、次世代を生きる子どもたちに対しての責任感もあったとKさんは語ります。

Kさん もともと家電や自動車等も機能や性能など、見た目よりも目に見えない性能部分が重要だと考えていました。お金を出して買ってもすぐに故障したり、逆に光熱費が高くなるような物は長く使えないですから…。

せっかく家を建てるのであれば性能として安心でき、長く住み続けられて経済的に負担にならない家をと考えていました。
そして同時に、自分たちだけの経済性のメリットだけでなく、環境や地域にとっても負担をかけずプラスに繋がるものでありたいと。子どもたちが安心して過ごせる未来を考えると、二酸化炭素の排出を抑える家づくりは必須になると思いました。

引き算の設計が生み出す「余白」の心地よさ

それでは家の中を拝見していきましょう。



リビングの上部は傾斜屋根を生かした吹き抜けになっています。その高さは最高部で5m65cmもあるのだそう。



テレビの背面には木毛セメント板にグレーの塗装を施したアクセントボードを付けました。テレビの壁面を中心に、左右の通路から玄関に出ることができる回遊動線です。



リビングの様子が見渡せるキッチン。腰壁のカラフルなタイルは奥さまが悩みながら選んだこだわりのセレクトです。ダイニングは横並びに配置し、移動もしやすく見た目もスッキリしています。



キッチン奥にはパントリーも備えています。ご主人の希望で造作したダイニングテーブル天板は、センターにカツラの木と両側に日高産のクリの木を合わせた、こだわりの一点です。

Kさん プランをつくる時に一番大切にしたのは、空間の余白です。家が完成した時に、20%くらいの余白を持たせたかった。ちょっと寂しいくらいがちょうど良くて、絵を飾ったり、季節の小物を飾ったりしたときに空間が華やかになるようにしたいと考えました。必要に応じて足したり引いたりしながら暮らしたいと考えています。

また、人と人との適度な距離感もほしいと考えていました。子どもたちが遊ぶ場所、自分や妻が集中して仕事や作業ができる場所、静かに眠る場所など、暮らしの場面に応じて使い分けができるゾーニングを希望しました。



テラスに面した幅の広い通路もその一つ。窓の外の景色も採りこみ、視覚的に広がりを感じさせる効果があります。LDKは21帖ほどの広さと聞いて驚くほど、スケールを感じる造りです。



リビングの奥にはさらに吹き抜けの廊下が続きます。階段手前の半地下に、ご主人の書斎をつくりました。



作業用のデスクを完備した書斎。楽器演奏が趣味だというご主人の希望で壁は簡易防音になっています。集中して作業ができ、重宝しているそう。



さらに廊下を奥に進むと、ユーティリティーがありました。広い洗面化粧台の背面には、お子さんたちが自分で身支度ができるように、家族分のハンガーラックを備えています。



インテリアバランスを見た時に気になりがちな猫ちゃんのトイレも扉収納の奥にきれいに収まりました。



その奥には脱衣乾燥室があり、洗濯物を畳んだりアイロンがけに便利な家事カウンターやタオル等の収納棚も造っています。スロップシンクは、洗濯前のつけ置き洗いや靴の泥汚れなど、あると生活が便利になる設備の一つ。スロップシンクの背面に浴室がある間取りとなっています。



階段下のちょっとした空間を活用したロボット掃除機用の収納スペースなど、入居後の実生活を反映できるプランニングと造作はキクザワならでは。

スキップフロアやカフェのような個室など遊び心あふれる空間設計



2階フロアの手前には、中2階(スキップフロア)の畳のフリースペースがあります。今はお子さんのプレイスペースとして重宝しているそう。文机を設けることで絵本を読んだりお絵描きや工作を楽しんだりとちょっとした作業スペースとしても活用できます。階下は半地下空間を活用したご主人の書斎になります。



吹き抜けのリビングに面した2階ホール。天窓からも陽射しが入る、明るい空間です。



ホールに面した子ども室。今は仕切りを設けず2部屋をオープンに使っていますが、お子さんの成長に応じて間仕切り、それぞれの個室として使用可能な可変性のある間取りとなっています。



ホールをさらに進むと、奥さまの個室があります。床材には桜の無垢フローリングをセレクト。木目が美しく、サラサラとした足触りの良い素材です。



カフェが大好きな奥さまの希望で、カウンターテーブルに合わせて景色を切り取る窓を配置しています。和紙で出来た鮮やかな黄色が目を引くペンダントライトは、奥様が一目惚れしたハンドメイド作家さんの一点物。
椅子に座って過ごしていると、心地良さについ時間の流れを忘れてしまう、奥さまのお気に入り空間です。

マイホーム新築で趣味を復活!



これまでの家では、4人家族のほぼすべての生活シーンをLDK+和室で過ごしていたというKさん。自分の趣味を楽しむスペースはなかったそうです。

Kさん 子供達は大好きですが、子供が小さいとどうしてもリビングにおもちゃが散らかるのでなんとなく落ち着かず、集中して作業を進めたい時は外に出るしか選択肢がなかったんです。

スペースがないので趣味のギターもしばらく眠らせたままでした。そのため、家を建てるのであれば家にいながらでも集中でき、一人の時間を楽しめる空間は確保したいと考えていました。



「趣味の楽器を復活させたい。」—楽器演奏ができるKさんの書斎や、カフェのような奥さまの個室もそうですが、大きなガレージもそんな思いを反映したプランの一つです。



幅5.6m幅のオーバースライダータイプの電動シャッターが付いた広々とした車庫。夫婦共にバイクを所有しています。

Kさん 車も趣味の一つなので洗車も好きですが、これまで冬の間はなかなか車を洗えず苦戦していました。北海道は冬外で車を洗うと凍ってしまうので…。

そのため、冬でも外気温を気にせず車庫の中で洗車ができるように給排水設備を整えました。キャンプなどのアウトドアも大好きなので、アウトドアグッズの清掃にも活用できて便利です。

広々とした空間だからこそ、荷物の積み下ろしもしやすく、物の保管にも便利な印象です。

一つ一つのこだわりを笑顔で語ってくれたKさん。新生活では、そうしたアクティブな活動も幅が広がり、ご家族で過ごす毎日が、ますます輝いたものになっていきそうです。

記者の目

オフグリッドへの挑戦やエアコンを使った空調など、K邸ではキクザワにとっても初めての取り組みを見ることができました。キクザワはKさんにその後の様子をヒアリングし、協力を得ながら、さらなる技術の改善に努めたいということです。

カメラ studio9 中原一雄

【K邸の性能】



屋根 高性能グラスウール140㎜+フェノールフォーム90㎜充てん+高性能グラスウール140㎜外付加
外壁 高性能グラウスール140㎜充てん+フェノールフォーム135㎜外付加
(高性能グラスウール換算 437mm相当)
基礎 ビーズ法スチレンフォーム外側120㎜+内側60㎜
土間 ビーズ法スチレンフォーム100㎜
断熱材入りフレームのPVCサッシ・Low-Eトリプルガラス(一部を除く)
換気 ダクト式第1種全熱交換換気システム
気密性能 C値0.15
外皮平均熱還流率 UA値0.19
耐震性能 耐震等級3

住宅性能表示制の断熱等性能等級7相当


2022年11月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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