古くからの住宅街の一角に建つ工藤邸。太陽光発電システムのパネルが取り付けられた大きな三角屋根が目を引きます。小雨の降る中、設計者の白田智樹さんと合流。オーナーの工藤さん夫妻に案内された2階のリビングは眺めの良い南向きのテラスのある開放的な空間でした。
夏は涼しさ感じる2階リビング
見晴らしの良い2階・リビング。タップリサイズのロフトはくつろぎスペースとして最適 白田さんが得意とする、構造材をインテリアとして生かしたシンプルなデザイン。無垢フローリングの温もりが足下からフワッと伝わってきます。吹き抜けに設けたロフトもぜいたくな無垢フローリング仕上げ。住宅の屋根工事をする板金職人のご主人が、仕事で疲れた体を休めるのに十分な広さです。大きな窓と、ひさし付きのバルコニーが夏の日射しを遮ってリビングは快適
何といっても、最大の魅力は日当たり良好なテラスから遠くの景色が見えること。この日はあいにくの空模様でしたが、テラスの向こうは縁側のように張り出したバルコニー。その上には庇が延びています。「長い庇が日射しを遮ってくれるから夏でも木陰にいるみたいに爽やか」と工藤さん夫妻。眺望もさることながら、室内の快適性の高さにとても満足しているようです。
隣に古いプレハブがあるので「見晴らしの良い2階がリビング、主寝室と個室、事務所は1階に」という現在の家の基本プランが最初からご主人の頭の中にあったといいます。「外からの視線を割と気にするタイプ」の奥様も大賛成。「人や車が視界に入らないせいか、騒音も気にならないんですよ」。
太陽光発電と換気廃熱を利用したエコ融雪槽
写真左手前にある2つのフタが融雪槽部分。また、グレーの建物基礎部分から突き出ている給気口から取り入れた新鮮空気は、地中熱で温められてから室内に入るため、冬でも快適「実はマイホームではなく、事務所を造るつもりだったんです」とご主人。「いつの間にか、仕事仲間の間で『家、建てるんだって?』という話になっていました(笑)」。白田さんとは仕事を通じて信頼関係を築き上げてきた間柄。「家を建てる時はこの人に設計をお願いする」と決めていたそうです。「無垢の木を使ったデザインが好き。白田さんのように性能のことまできちんと考えてくれる建築家はあまりいないと思います」。
外壁も板金で仕上げた。太陽光発電の設置方法は、工藤さん自らが道内ではほとんど知られていない新工法で施工した
屋根と外装の板金工事はご主人自身が担当しました。太陽光発電を導入したのは新工法のテストをしたかったそう。「実際に施工したことがなかったので。自分で試してみないとお客さんに勧められませんから」。
建物本体の断熱性能は北方型ECO相当。軸間グラスウール100mm+フェノールフォーム外張り50mmのW断熱。給湯・暖房はヒートポンプシステムを採用。暖房パネルのない全室床暖房なので室内がスッキリしています。調理は料理にこだわってガスを採用。
1階事務所前の水廻りスペースは、床組を一段下げた。円形のガラリは1箇所に集めた給気口で階段室を通じて2階に空気が回る。
換気は外の空気を地中に埋設した管の中を通して地中熱で暖めてから室内に入れる省エネ手法です。「土の中の温度は地上と違ってほぼ一定。夏は逆に熱気を帯びた空気が管の中で冷やされて家の中に入る仕組みです」と白田さん。気流感によって居住空間の快適性が損なわれないよう、給気口は1階の階段脇に1ヵ所だけ。「2階のリビングにいて外の物音が気にならないのは給気口がないせいでしょう」。ほかに換気廃熱を利用した融雪槽を採用しました。
使いやすいキッチンで日々の食卓も充実
キッチンの角に造作したL字型カウンターの上。イエローの壁と小窓がキュート「前の家はとにかく寒かった。暖かいのはストーブの周りだけ」と振り返るご主人。仕事から帰ったらストーブの前の指定席でくつろぐのが日課でした。「一昨年の暮れに入居しましたが、室温が20℃くらいでも寒いと感じません。すきま風がないのが大きいですね。空気がきれいに保たれているのも実感としてわかります。天井に使った珪藻土の効果も多少あるかも」。月々の光熱費もかなり削減されたとか。前のアパートでは灯油代が3~4万円、電気代が1万円もかかっていたのが、今は融雪も含めて電気代が2万5千円程度。さらに日中、太陽光発電の余剰分は売電しているので実際の支払はさらに少なくなります。
「家計の負担が減って大助かり」と喜ぶ奥様。マイホームづくりを終えてみて「初めは口を挟むつもりはなかったのですが、けっこう細かい注文を付けていたんですね。特にキッチンは...」。市販のアイランド式キッチンと食品庫を備えた造作のL字型カウンターの組み合わせがとても使いやすいそうです。「通路も広く、娘たちと3人でキッチンに立っても作業がはかどります」。お料理のレパートリーが増えて、ご主人も嬉しそうです。
玄関まわり。ミラーの飾りと生け花は奥様の作品。ミラー横の引戸は、ファミリークローゼットのドア。さりげなく収納を充実させている「おじゃまするたびに奥様の作品が飾ってあったり、季節の花が生けてあったり。引き渡した頃よりずっといい家になっていて大切に住んで下さっていることが伝わってきます。設計者冥利に尽きますね(白田さん)」。
記者の目
リビングのロフトは通常の床組みと同じ構造でがっちりした造り。構造材を固定した金具は目立たないようにクリーム色の塗料でペイントされています。和室の収納の上に取り付けた出し入れ自在の物干しも不意の来客時に便利。人目につかないところまで住み手のことを考えて造られた本当の意味で「人に優しい住まい」でした。2013年05月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。