マイナス6℃の朝にメイン暖房を停止
断熱リフォームした住宅の取材に最適の冬がやってきました。2016-17シーズンは大晦日取材、この冬はクリスマス前の12月20日と決まりました。
札幌は平年より寒い冬を迎えました。取材日は最低気温が-6.6℃、最高気温が-3.0℃の真冬日で、朝10時から1時間を過ぎても気温は-5℃を下回っていました。
訪問したのは東区のNさん。リビングに入るなり「さっきまでメイン暖房を止めていたんです」とNさんが衝撃の発言。
2017年の10月に断熱リフォームを終えたN邸は、リビングに灯油FFストーブが1台。このストーブは床暖房やパネルヒーターも使える温水暖房バーナーも一緒になったツインバーナータイプと呼ばれるストーブで、リフォーム前から使っているそう。
そのストーブの温水暖房だけで、広いLDKと寝室など約22畳を18℃に保つことができるといいます。この日は取材が入るのでストーブもつけたそう。
ボクの感覚では、新築の高断熱・高気密住宅と同じ暖かさです。これが1000万円を超す大工事だとしたらさほど驚きませんが、じつはNさんが暮らしたまま室内から行った断熱リフォームなのです。費用は一部屋根の張替などの関連工事を含めてもその半額程度。
「説明すればするほど『本当に大丈夫なの?』と親せき・友人に心配される。果ては『きっとだまされている』と」笑いながら話すNさん。
工事契約前にそれほど心配されたそうですが、ボクは親せき・知人の皆さんの気持ちがよくわかります。暖かい住宅があることをほとんど誰も知らなかった30年ほど前に、高断熱・高気密住宅を訪問した人は、床が暖かい理由を『床暖房しているから』と断言して断熱住宅の威力を信じようとしませんでした。
自分が経験したことのない事柄を、人は信用することができないものなのです。
住んだまま行う断熱リフォーム技術は、30年前の高断熱・高気密住宅と同じく、まだほとんど普及していません。ただし、あと10年たったら、札幌市民は古い住宅を暖かくするこの技術を知ることになるでしょう。技術はすでに公開されていますから。
高基礎住宅は床の改修が難しい
話を記事のタイトルに戻しましょう。
昭和50年代から平成年代まで20年以上にわたって札幌にたくさん建った1階車庫、2,3階に木造の住宅という3階建て住宅。コンクリート造の1階はガレージと収納スペースで、多くの場合は2,3階だけが住居スペースです。
N邸は昭和59年(1984年)に建てられ、築30年を超えています。リフォームのための調査を行った「あったかハウス河合建築事務所」河合良夫さんによると、構造はしっかりしていて、木材のくされも出窓まわりなど一部に限られていたそう。ただし、とにかく寒く、Nさんはペアガラスの室内側に二重窓を追加するなど(上の写真)、いろいろな工事をしていました。
過去にもリフォームを経験していたNさんは、「こんどのリフォームは他人任せにせず、まず自分で納得するまで調べてみよう」と考えてインターネットで検索し、あったかハウス河合建築事務所のホームページに出会いました。読み進める中でとても説得力があったのが16年末に取材した札幌市北区拓北Sさんの事例だったそう。
そこにはこう書かれていました。
>>「暖かくなることをみんな知らないと思う」
断熱リフォームを終えたオーナーのコメントです。
Nさんが出会った記事はこちら/20170126102800.html
『暖かくする方法があるんだ。それならまず自分が勉強してみよう』
Nさんは、河合さんが毎月札幌の手稲コミュニティセンターで開催している『リノベーション勉強会』に参加しました。
一方、河合さんにとってはかなりの難工事だったといいます。
まず、出窓をすべてなくす。当時の出窓は雨仕舞が悪く、水漏れの原因となっている事と、出窓の上と下の断熱・気密施工が悪いため寒さの原因となっている場合が多いためです。
また、引き違い窓はすべて開き窓に交換する。隙間があるためです。
ここまではいつも通りだそう。
問題は、2階床の断熱・気密工事が相当に難しそうであること、2階だけで暮らせるように2階と3階のあいだで断熱・気密を区切らなければならないこと、そして、図面にも実際の壁・床の中にも防湿・気密層がないことでした。上の写真は調査で和室の床をはがしたところ。
部屋ごとに床の工事を進める!!
高床住宅には床下がないので、いったん床を全部はがして断熱・気密工事を行います。住んだままなので部分的に進め、キッチン工事はNさんが旅行に出かけたタイミングで行ったそう。
写真はリビングの床。コンクリート土間の上に青いスタイロフォーム断熱材を敷き詰めてすき間を埋め、そのうえにピンクのグラスウールを敷き詰めます。この上に防湿・気密層をつくります。
壁や間仕切壁は床や天井から数十センチの部分から壁の石こうボードを切断して、気流止めを入れていきます。リビング間仕切壁と天井の気流止め工事です。
また、2階だけを断熱するため、天井に断熱材を施工して3階とは熱的に切り離しました。ここでも気密層が連続するように丁寧な工事が求められました。
3階へ上がる階段には断熱ブラインド、1階へ下る階段には断熱ドアをつけて、完全に区切ります。写真右のように断熱ブラインドを完全に下ろせば暖かさは3階に逃げにくくなります。
家が広いから、2階だけで暮らす
リビングに続く和室を洋室にコンバージョン。ここを寝室とすることで、2階だけの暮らしが可能になりました。
3層構造の大きな家ですが、居室部分を2階だけに限定した上で断熱をしっかり区画できれば、あたたかくなる上に暖房費の節約にもなります。また、2階だけで暮らせるのは家が広いから。オリジナルの住宅の良さを活かしながら、シニアライフを支援するリフォームになりました。
ワンチャンがいるので、これまでも真冬の外出は暖房を止めませんでしたが、いまではストーブを止めて温水暖房だけでOK。また、11月までは暖房を止めて外出し、戻って来ても16℃くらいあって本当に驚いたそう。
これまでは古い家では当たり前ですが10℃くらいまで下がっていました。
完成後に訪れた親せきの皆さんは「いままでいちばん寒い家だったけど、こんどはあったかいね」と驚きの声。そのときばかりは少し誇らしくなったそう。
最後にこんなこぼれ話を教えてくれました。
「河合さんに『ここは工事したほうが良い』と提案されたうちの1つは今年に持ち越しました。もちろん予算の制約もありましたが、信頼はしていたけれどそこまで信用していいのか自分自身が信じられなくなって」。
その経験、自分もあって後悔しました。「次は言うことを聞きます」と笑うNさん。幸せそうなワンコが印象的だった取材です。
取材を終えて
マイナス5℃の日の取材で、Nさん宅の暖かさは、新築の高断熱・高気密住宅と変わりませんでした。「よくぞここまで」というのが正直な感想。
自動車やパソコンは、技術の差を実感できないほどに、どの製品も技術レベルが向上しています。液晶テレビだって安くてキレイが当たり前。しかし、断熱リフォームは技術によって大きな違いを生み出します。必ず信頼できる技術を持った業者さんに仕事を依頼してください。技術の違いは間違いなく大きいのですから。
2018年01月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。