はじめに
写真:2016年12月31日撮影.外気温-1.6℃(札幌管区気象台)
2016年の大晦日、断熱リフォームして暖かい年末を迎えている札幌市北区拓北のSさま邸を取材しました。
取材日は氷点下の気温が続く真冬日。断熱リフォーム住宅の実力と、無落雪に改修した屋根の様子を見るにはうってつけの日でした。
雪を載せた下屋の三角屋根がすてきですね。12月に50年ぶりの積雪90cm超えを記録した札幌ですが、屋根雪が落ちないと除雪負担は大幅に軽減できます。オリジナルの外観を変えず無落雪化に成功しています。
じつは取材を楽しみにしていました。オーナーが引っ越しせず、住んだままで「気流止め工事」によって暖かい住宅に変える工事をお盆明けに終えて、最初の冬を迎えていると、工事を行った「あったかハウス河合建築事務所」の河合さんから聞いていたからです。
Sさんのリフォームは、劣化した外壁と屋根を交換するタイミングで、家を暖かくする工事を一緒に実施する「住んだままの断熱リフォーム」です。水回り交換リフォーム、家をいったん柱と梁だけにした上で行うフルリノベーション、そして今回の住んだままの断熱リフォームと、リフォームの答えはひとつではありません。
今回はわが家を暖かくリフォームする投資を行ったSさんのお話しです。
寒い家が高齢者の健康に与える深刻な影響が徐々にわかってきた
慶応大学・伊香賀教授の講演スライドより
最近の研究によって、家の中の寒さと健康に与えるリスクの関係が徐々にわかってきています。
慶應義塾大学伊香賀俊治教授らが中心となって行った調査によると、
- 寒い住宅の10年後高血圧発病リスクは、暖かい住宅の6.6倍、
- 暖かい住宅では生活活動量が増え、一日1400歩に相当する、
- 寒い住宅では認知機能が低下する確率が4倍に増える、
- 暖かい住宅では寿命が4歳伸びる可能性がある
-など、主に高齢者にとって寒い住宅に住み続けるリスクの高さと、暖かい住宅の健康維持・増進効果が認められます。
若いころは大丈夫でも、高齢になると寒い家に暮らすことで健康リスクが高くなる。
そう難しく考えなくても、徐々に寒さが身にこたえるようになりますよね。
最新の北海道の住宅は、寒さを気にする必要がないレベルになって来ていますが、平成初期の家までは寒い家が多く残っています。
「断熱リフォーム」をインターネットで徹底的に調べた
写真:現場調査でサイディングを1枚はがしてみた
昭和63年(1988年)に新築したSさんのおうち。築28年を迎えていました。外壁サイディングの傷みが気になりだした3年ほど前から『どうせ家を直すならいっしょに寒さも何とかしたい』を考えるようになり、ふたりでいろいろ探し始めます。
壁や屋根を解体して骨組みだけを残し、そこからリフォームすれば新築と同じく暖かくなることはわかりました。しかし、それはふたりの望むリフォームではなかった。
「この家が気に入っていますし、大がかりなリフォームをやれば費用がかかりすぎる。内装の変更は望んでいないし、ワンちゃんが同居しているので、ストレスがかかる引っ越しもしたくありませんでした」とSさん。
説明がとてもわかりやすかった
インターネットであったかハウス河合建築事務所を見つけたSさんは、同社が毎月開催している勉強会に参加しました。勉強会では河合さんが自ら、いまの家がなぜ寒いのか、当時の工事のどこがダメなのか、どこをどう変えれば暖かくなるのかを説明してくれたそう。
建築は全くのシロウトのふたりですが、説明がわかりやすく、納得できたと言います。
そして、改修方法は今までまったく考えてもみなかったやり方だったそう。
「シロウトなりにいろいろ考えていたのですが、気流止めとその施工法には驚きでした」とSさん。
工事を進める上で不安は全くなかった
写真:既存サイディングの劣化も、調査の結果、原因がつかめた
勉強会での説明がわかりやすかったので、工事することへの不安は全くなかったそう。現地調査に来てもらい、軒先など予想外の部分に腐れが見つかって工事予算が少しふくらみましたが、このままでは家がもたないとわかったので、この機会に悪い部分はすべて直しました。その代わり、室内の工事は正真正銘、全くなし。住んだままの状態で外装部分だけの工事を行ったのです。
外側から断熱改修-壁・窓・屋根・床下
工事内容は次の通りです。
外壁:断熱改修(気流止め)と耐震補強、サイディング張替
写真・時計回りに:外壁をはがし、土台まわりに気流止めシート(オレンジ色)を設置し、耐震補強のプレートも設置。桁まわりも同じく気流止め工事を行う
窓:引き違い窓を開き窓に交換・それ以外はガラスを最新の高断熱ガラスに交換
写真:赤丸の引き違いを開き窓に変更(上)
屋根:葺き替え無落雪に
写真・時計回りに:既存屋根をはがしてみたら軒先がひどく傷んでいた。腐った部分を交換し、防水施工をしてから長尺横葺きのガルバリウム鋼板仕上げ
換気レジスター交換
写真・時計回りに:既存換気口をふさぎ、小型の給気レジスターを設置
床下:断熱補強
写真:床下のウレタン吹き付け
落雪屋根を何とかすることも目的のひとつだった
札幌は年にもよりますが除雪負担が大きい。玄関と駐車スペースの前の除雪でさえたいへんなのに、屋根雪の処理は負担がとても大きくなります。
Sさんにとって暖かさと同じく、落雪を何とかすることがもう一つの目的でした。
ちょうどトタンの塗り替えも必要になっていたので、この機会に修理することは決めていました。ただ、雪の落ちない屋根にしたかったが、どうやったら良いのか、技術的なことはよくわからなかったといいます。
勾配屋根を大改修してスノーダクトの無落雪屋根に変更することはできますが、屋根構造を変えるための工事費がかさみます。
一方、単純に雪が落ちにくい屋根に葺き替えるだけだと、氷堤やツララなど別の障害が軒先に発生し、最悪の場合は軒先を折ってしまうといいます。
今回の工事は、屋根材を雪が落ちにくいものにふき替えました。気流止め工事によって暖かさを実現するとともに、屋根裏に逃げていた熱を大幅に減らしたため、雪が落ちにくい屋根に葺き替えても氷堤などの問題が発生しないのです。
写真のように積雪90cmの雪をしっかり載せたまま、軒先には氷堤の発生もありませんでした。工事はふき替えだけなので、結果、工事費も抑えられます。
「暖かくなることをみんな知らない」
去年と今年の冬は違いますか。まずそう尋ねると、
「すきま風がまったくなくなり、どの部屋も本当に暖かくなりました」よろこびの声。
室内の変更なし、暖房もリビングの灯油FFストーブ1台で変更なし。
もうちょっと突っ込んで聞いてみたところ、
これまでは2階が寒かったが(ストーブ1台ではやむを得なかった)、2階もかなり暖かくなったそう。しかも、ストーブの温度をむしろ抑え気味で運転して、家じゅうが暖かいとのこと。
ワンちゃんがいるので外出中もストーブをつけっぱなしにしているそうですが、温度はずいぶん下げても良くなりました。
すきま風がひどかった引き違い窓の交換と、ガラス交換によって、窓の結露はほとんどなくなったそう。すき間がなくなったことで、「夜中に入る除雪車の音が気にならなくなったんですよ」。窓の改修も効果てきめんのようです。
そしてSさんがひと言。
「暖かくなることをみんな知らないと思う」
そうですね。築28年の家の断熱性能を回復させることができるなんて、常識では考えられないことかもしれません。
おわりに
暖かく2017年を迎えたSさん。インターネットなどでずいぶんよく調べたことが、断熱リフォーム成功の理由だったようです。
「外壁の張替だけでも200万円近くかかるようです。劣化の点検をして修繕し、耐震対策もしたうえで屋根も壁も張り替えて、家が暖かくなり、雪が落ちなくなって、このお値段なら、安いと思う」
すごくうれしそうなふたりでした。
2017年01月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。