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「サスティナブルデザイン」いつまでも楽しく暮らす家/アウラ建築設計事務所


札幌市南区のアウラ建築設計事務所(代表・山下一寛)は、ガレージハウスや北海道移住者の家づくりのほか、車いす住宅や身体の不自由になった方がいらっしゃるご家族のための住宅設計、店舗、施設など、顧客のさまざまな要望にきめ細やかに対応したプランニングを得意としています。

今回は、建築家・山下一寛さんの誰にとっても暮らしやすく社会的価値のある住まい「サスティナブルデザイン住宅」の実例をダイジェストでご紹介します。


目次

高齢化、人口減少など地域の課題に向き合う家づくり


house@h&mの外観


元気な高齢者が増えてきましたね。家づくりにおいても長く住み続けるための工夫が必要になっています。福祉施設の整備は進みつつありますが、自宅で暮らしたいと希望する高齢者は多く、現状の住宅は急な階段や狭いトイレなど、高齢者だけではなく障がい者にとっても不便が多いのが実情です。

また、札幌圏を除く道内の多くの地域では人口が減少し、特に若者の流出が目立ちます。将来にわたって地域社会の存続や活性化のためには、
1 快適に住み続けられる長期的な資産価値がある家であること
2 住民同士の助け合いを促すような地域交流の拠点となること
が住宅設計の上で重要なポイントになってきます。

これからの家づくりについて、山下さんは「バリアフリーを超えたサスティナブルデザイン」が必要と語っています。
※山下さんへのインタビューは北国のサスティナブルデザイン住宅~札幌・アウラ建築設計事務所の挑戦もご覧ください。


アウラ建築設計事務所の山下さん


サスティナブルデザイン住宅とは

年齢や障がいの有無に関わらず、誰もが安心して快適に暮らせることを重視し、さらに長期間にわたり価値が持続する住まいを指します。
 
従来の「バリアフリー住宅」は段差をなくしたり、手すりを設置したりと、主に高齢者や障がい者への配慮が中心でしたが、サスティナブルデザイン住宅は、次のような特徴を持ちます。

①ユニバーサルデザイン
子どもから高齢者まで、障がいの有無に関わらず、誰にとっても使いやすい間取り・動線。
 例:車いすでも回転できる広い廊下やトイレ、段差のない玄関など

②資産価値が長持ち
流行に左右されず、普遍的な使いやすさを重視することで、20~30年経っても売却価値がある。
 
③環境への配慮
断熱・気密性能が高く、省エネで持続可能。冬でも暖かさを保つことはもちろん、近年より厳しさが増す夏の暑さにも対応。

④コミュニティとのつながり
家の内外をつなげる設計で、地域交流や助け合いを促進。
 例:花壇や外構の工夫で街並みに調和しているなど

まとめると・・
「バリアフリー+資産価値+環境性能+地域性」を兼ね備えた住まいです。

アウラ建築設計事務所「サスティナブルデザイン住宅」の設計実例

ここからは山下さんが設計した「サスティナブルデザイン住宅」をいくつかご紹介します。「サスティナブルデザイン」とひと口に言っても、住まい手の暮らしに合わせた様々な配慮と提案が盛り込まれています。

1.年齢や障がいの区別なく、誰もが快適に暮らせる家

札幌市の自然豊かな住宅街に暮らすKさん一家は、次男Tくんのために介護がしやすく、家族みんなが快適に過ごせる住まいを実現しました。玄関スロープや広々とした動線、車いす対応の浴室など将来を見据えた工夫に加え、家族で楽しめるクライミングウォールも設置。バリアフリーでありながらコンパクトで機能的、そして遊び心も詰まった住まいは、子どもたちがのびのびと育ち、家族の気配を感じながら安心して暮らせる空間になっています。



リビングと一体化した土間から玄関までフラットな動線で(写真左)、玄関からまっすぐ伸びた手すり付きのスロープ(写真右)が、バギーに乗って散歩するのが大好きだという次男のTくんの外出をスムーズにしています。



1階は吹き抜けの開放的なLDKのほか、将来Tくんの個室として使う予定の洋室があります。洋室から、トイレ、洗面・脱衣室、浴室が直線でつながる動線となっていて、通路や引き戸は車いすにも対応できるゆったりサイズです。Tくんの暮らしの変化に対応できるフレキシブルで機能的な間取りになっています。



昇降機から乗り降りがしやすいよう、2階ホールの前に2段下がった踊り場を設けています(写真左)。2階に続く階段は直線になっていて、Tくんが成長してご両親が抱っこできなくなった時のために、昇降機を付けられるよう、階段壁を補強してあります(写真右)。



Tくんの暮らしを支える設備が整う一方で、一緒に暮らす家族の趣味空間として本格的なクライミングウォールも実現。
Tくんが見守る中、ボルダリングのスクールに通って特訓中の兄姉たちがスイスイとホールドに手足を掛けて登っていきます。

記事はこちら→家族みんなが快適で自然に介護ができる家 札幌市/Kさん

2.ユニバーサルデザインかつスタイリッシュさを両立した家

首から下がまひし24時間介助が必要なオーナーが希望したのは「介護住宅っぽくない、人が集まれる家」。アウラ建築設計事務所と若手設計者の山田竜平さん(横河建築設計事務所)と林大樹さん(同)が共同設計し、大空間リビングや土間テラスで仲間と過ごせる住まいを実現しました。多機能なワークスペースなど介助に配慮した工夫と、スタイリッシュなデザインを両立した新しい住まいの形です。



ホームシアターがある全面吹き抜けのリビングは、親しい人たちを招いて楽しい時間を共有できるパブリックな空間になっています。



常時、ヘルパーさんと生活するため、リビングとワークスペースの間の引き戸やベッド脇のロールスクリーンを下げることで互いのプライバシーを確保した空間にすることが可能です。
また、友人や家族など大人数が集まる際に生活感のあるベッドルームだけをロールスクリーンで隠し、手前のワークスペースまでリビング空間として利用することもできます。



入浴する時はベッドにストレッチャーを横付けし、電動式介護用リフトで移乗。そのままワークスペースの左側にある浴室へ最短距離で真っ直ぐに移動できます。
ワークスペースのそばには介護用リフトの収納場所を兼ねたウォークインクローゼットがあり、引き戸を閉めれば、介護機器が人目につきません。



冬でも外出しやすいように屋根付きの車寄せを設置したエントランス。玄関ドアは電動車いすが楽に通れる最大間口120cmの親子ドアを採用しています。アプローチを真っ直ぐ進むと、土間テラスがあります。
「好きな時に車いすで外に出られます。玄関に段差があって外出するのが大変だった以前のマンションでは考えられません」とオーナー。
狭いマンションでは車いすで自由に動き回ることができず、ベッドで過ごす時間が長くなりがちだったそう。今は動線に配慮した広い空間で活動的に過ごしています。

記事はこちら→仲間が集まりアクティブに過ごせるスタイリッシュな車いす住宅

3.地域に開かれたくつろげるバリアフリーレストラン

札幌市南区にある「石のうえ」は、1日1組限定の小さなレストラン。オーナー夫妻の「どんな人でも安心して過ごせる場所をつくりたい」という思いからレストランを開業。玄関から続く白いスロープや段差のない動線、車いす対応のトイレやテーブルなど、バリアフリー設計が随所に生かされています。料理は農家直送の旬の食材を使った和洋のコース料理。地域の人々にも開かれた空間を目指し、庭やイベント活用にも工夫が凝らされています。



手前がレストラン。その奥がオーナー家族が暮らす住まいです(写真左)。店の入り口に向かってスロープが伸び、引き戸を開ければ段差なしでスムーズに室内に入れる造りになっています(写真右)。


ペンダントライトは「オンリーワン」。小樽にショールームがある


こちらはレストランホール。室内には大きなテーブルが1つ、最大8名まで利用できます。車いすのアームレスト(肘置き)がテーブル下におさまるよう、テーブルの高さは75㎝と少し高めに。それに合わせて椅子もやや高めにしています。
地域の人にも開かれた場所として活用してもらうことを考え、プロジェクターを使ったイベントもできるようにするなど、汎用性を持たせた店内となっています。



まわりが住宅街ということもあり、往来からの視線が気にならない地窓を採用。地窓のすぐ外側に植栽を加えたことで、室内からも緑が感じられるよう配慮されています。
壁の一部を凹凸のある塗り壁(ジョリパット)にしたことで、より落ち着いた雰囲気に。床はコンクリート塗装で床暖房を入れているため、夏はひんやり、冬はしっかり暖かいそうです。
外の視線を遮り、お客さまが穏やかにそして快適に過ごせる工夫が施されています。



「地域に開かれ、どんな人でも利用しやすくくつろげる場所」を目指すオーナーの思いが建物だけでなく、庭にも表れています。もともとあった庭の季節の移ろいを、地域の方が楽しみにしていることを耳にして、庭木の一部をそのまま残し、より開放的で、往来の人も楽しめる庭に仕上げました。

記事はこちら→車いす対応のバリアフリーレストラン「石のうえ」/札幌市Iさん

山下さんが取り組むサスティナブルデザイン住宅をダイジェストでご紹介しました。
それぞれのオーナーが地域と繋がりながら快適に暮らしている様子も印象的でしたね。
山下さんの家づくりは、「住まいの快適性」と「地域と繋がる暮らし」の両方を叶えているという事が分かります。
家そのものと、その家が建つ地域が「持続可能な場所」になることで、人も地域も活性化する未来が見えてきそうです。

山下さんからコメントをいただきました。

建築家が設計する建築(住宅)は、その時々の社会的課題に挑戦するものが多いですが、今は個人が多種多様な生き方、暮らし方が出来るようになった分、課題は複雑になっています。

自然環境の変化も北海道は例外ではありませんし、地域やコミュニティ、福祉や教育の課題も複雑化しています。

そんな時代の中にあって、iezoomさんのコメントにある「バリアフリー+資産価値+環境性能+地域性」を兼ね備えた住まいづくりはとても難しいですが、ポイントは「玄関」にあると考えています。

これから住宅を建てたいと考えている読者の皆さんと建築家(設計者)を含む技術者は、道路からポーチ、ポーチから玄関ホールについて、施主の暮らしの個性とともに、地域や社会とのつながりを丁寧に考え、北海道特有の寒さや積雪に係る技術的な課題に挑戦して作ることは、暮らしやすさと資産価値向上につながるものと思います。

2025年10月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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