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インタビュー・10年後も満足が続く家づくり/白田建築事務所

白田建築事務所は97年に設立、「建て主の望む良質な住宅を求めやすい値段で提供する」ことを目標にしています。信頼できる大工さんや現場の仕事を段取りする「コーディネーター」と一緒に仕事を進めるなど新しい試みに取り組んでいます。

1度は挫折した住宅設計の道

shirota_img001.jpg「住宅の設計がしたかった」という白田智樹さんが今の事務所を開くまでは寄り道や回り道などいろいろ苦労がありました。
高校卒業後、「住宅を設計したい」と北海道工業大学に入学した白田さんを待ち受けていたのは、住宅の設計という具体的なテーマに沿ったものではなく、一般建築物の設計課題や抽象的な建築論の講義。次第に「自分がやりたいと思っていたことと違う」と悩み始めます。

初志がぐらついた白田さんは、ゼミ専攻は設計分野ではなく建築材料を選びました。就職も住宅設計とは全く違う公共建築物等のメンテナンス・検査会社に入社。人里離れた水力発電所の建物調査でビジネス旅館に缶詰め状態となって毎日シカ肉の缶詰のおかずが出てきたり、豊平館の改修で煙突に登らされたり、ハードな毎日を過ごしました。
<写真:白田智樹さん>

shirota_img002.jpg仕事に慣れて2年もすると「建物の補修ではなく自分で建物を造りたい」という思いが強くなり、一般建築の設計事務所に転職します。

8年の間、白田さんは働きながら猛勉強して一級建築士など住宅設計に必要な資格を取得し、仕事にも自信がついてきました。しかし、その建築設計事務所では住宅など規模の小さい建物の設計はほとんどしません。

「やっぱり造るなら住宅だ」と住宅設計中心の別の建築設計事務所に押しかけ入門してようやく願いがかないます。
<写真:事務所兼自宅の外観>

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転機は自宅兼事務所の設計

4年間その事務所で働いて1997年、36歳のときに念願の独立を果たし、白田建築事務所を設立しました。「最初の数年は先輩方から仕事を紹介してもらって下請仕事をやっていました」と白田さん。実績がなければ設計依頼の仕事はなかなか来ません。

開設して4年後、はじめて新築住宅の設計の仕事が舞い込みます。依頼主は白田さん自身。間借りしていた事務所を立ち退くことになり、ひょんなことから土地を手に入れることになったため、事務所兼自宅を建てることにしたのです。
<写真:自宅のリビングから。外張り断熱のため内装下地合板をそのまま仕上げとして使えるなど、『質・素に暮らす』ことを表現した>

shirota_img004.jpg難しい条件の土地でしたが、白田さんの考える「質・素に暮らす」家を表現するため、自然エネルギーを利用した冷房、外張り断熱の特徴を生かした室内の合理的な仕上げなど、様々なアイディアを盛り込んで完成しました。そんな白田さんの事務所を見て、設計を依頼するお客さまが増えてきました。10年近くが過ぎ、現在は「顧客満足度を最優先した家づくり」を行っています。
<写真:事務所打ち合わせ室。コルクボードのように紙を内装下地合板へピン留めするなど、アイディア次第で楽しく活用>

仕事をする上で一番重視していることは?

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白田 一番重要なのは、建てて10年後の顧客満足度だと思います。「やっぱり白田さんに頼んで良かったと言われるような家づくりを進めていきたい。住んでみて「ああすれば良かった」、「意外と使い勝手が悪い」とお客さまが感じれば、「建てて良かった」とは思わないでしょう。そうならないために、綿密な打ち合わせをしてお客さまが本当に望む家にすることが大切です。
<写真:自宅で寛ぐ白田智樹さん>

お客さまとの関係が重要そうですね

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白田 信頼関係が第一だと思いますので、お互いが納得するまでコミュニケーションをとり、建てた後もきめ細かなフォローをする一生のお付き合いを目指しています。限られた時間や予算の中でどこまで満足できるかは、お客さまの希望や要望をどこまで共有できるかだと思います。当然どっぷりとしたお付き合いになると思います。

私個人の考えですが、家づくりは繊細なもので、たとえば部品を組み立ててすぐ完成できるプラモデルのように「ハイ、完成品」とはならないと思います。
<写真:T邸のリビング。一定間隔に並んだ柱が心地よいリズムを刻む>

お客さまが納得するまで打ち合わせするのは大変では?

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白田 設備機器は最新のものを使っていただきたいので、最低限各メーカーの情報を調べてご提示します。特にキッチンなどは実際に目で見ていただくのが一番。全メーカーのショールームを一緒に見て回った上で選んでいただきます。そうでないと、私も後悔する気がします。

時間をかけてお客さまの疑問や要望に1つ1つ応えながら進めば、経験したことすべてが次のお客さまに「別のお客さまからご要望をいただいたときは、こう解決しました」というふうに経験談として説得力のあるお話ができます。
<写真:ローコスト化のアイディア。玄関の新聞受け兼傘立て。ポスト口から投げ込まれた新聞は、傘がかかる一枚板の上に乗っかる仕組み>

手間をかけると価格が高いのでは

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白田 最近のお客さまは、手ごろな価格を重要視されています。私はご予算をお伺いしてどうすれば実現できるかを考えます。価格も顧客満足度の大事な要素ですから。まずは詳細なお見積をお客さまに提示し、コスト削減に優先順位をつけて取り組みます。室内の仕上げを簡略化して柱や合板をそのまま見せたり、既製品を使わない方が安くなる場合もあります。さらにお客さま自らが外壁の塗装に参加したり、私も応援に駆けつけて一緒に色を塗ったりして塗装にかかる人件費を削減したり、サンプルで持っていた建材を無償でご提供することもあります。
<写真:合理化の機能美。コンセントは、ボックスが剥き出しになる。土台と柱と基礎を結合する耐震金物がそのまま室内に見えている>

記者の一言

白田さんは、消費者が主役の家づくりを目ざしており、建築家の「先生」っぽくなく気軽に相談できそうなところが魅力だ。実際、「機会があれば無料相談会を開催するなど、どんどん外に出て行きたい」と積極的な姿勢を見せている。オリジナリティのある家をローコストで実現したい人に特におすすめ。

2009年03月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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