何もないところからプランニングを始められる新築と違い、空間的な制約の多いリフォーム。限られた予算の中で、今あるものを最大限に生かして自分らしさを表現したら、ユニークなアイディアがたくさん詰まったオリジナリティあふれる住まいができました。
使えるものはとことん再利用
札幌で東洋医学の治療院を開業するため、自宅のあった釧路とを往復しながら、築20年の喫茶店兼住宅をリフォームした伊藤真さん。今年3月、待ちに待った新居での生活をスタートさせました。「できれば新築したかった。でも札幌で治療院を開くスペースを備えた住宅を建てるとなると、予算的に条件の合う業者さんがなかなか見つかりませんでした。ハウスメーカーに見積もりを依頼しましたが、どこも高いですね」(伊藤さん)。
事情を知った弟のすすめで、設計を手がけた白田智樹さんと帯広で会うことに。「建築家って気難しいイメージがあったんですが、敷居の高くない方で安心しました(笑)」(伊藤さん)。最終的には新築ではなくリフォームを選択しました。
また、今回の家づくりではなるべく費用をかけないことが最優先。白田さんからコストダウンのためのさまざまな提案を聞き「素人がいくら考えても限界がある。設計の専門家の知恵をお借りしよう」と決心したそうです。
「飲食店だった建物が治療院として使えるようになるか不安でしたが、100%を望んだらきりがないと頭を切り換えました」(伊藤さん)。
使えるものは可能な限り再利用。「構造材や断熱材は状態がよく、ほとんど生かすことができました。温水セントラル暖房やサッシ、カウンターなども手を加えて使っています」(白田さん)。
「狭い、暗い」をどう克服
リフォーム前の伊藤邸はフラットルーフの住居部分に三角屋根の喫茶店が下屋のように付いたデザイン。南面のドーマーウィンドウや出窓は喫茶店ならお似合いですが、東洋医学の治療院には違和感があります。
1番の問題は治療室にする予定の店舗部分が狭くて天井が低いこと。「壁の高さが低く、傾斜天井だから余計に圧迫感があったと思います」(白田さん)。おまけに午後になると、出窓の張り出しが日差しを遮り、せっかくの南向きが台無し。
「新しい職場となる空間をいかに広く明るく変身させるか」。それが家づくりの焦点でした。
まず三角屋根をフラットルーフに変更して天井高を確保。南の角を切り取ったような形の治療室を天井の高い四角い部屋にしました。「治療室側に出っ張っていた家族用のトイレを住居部分に移し、スペース自体が広くなったせいもあって、見違えるほどスッキリしました」(伊藤さん)。
屋根の形を統一したことで、外観もバランスのとれたモダンなデザインに生まれ変わりました。採光の邪魔をしていた出窓は縦長のFIX窓(固定窓)に。排煙窓は新設し、床から天井までの細長い開口部に見えるようにしています。
床は靴を脱ぎ、薄着になって治療を受けられるように、断熱材の上に床暖パイプを施工し、最後にフローリングで仕上げています。「肌寒い日でも快適でした」(伊藤さん)。
住む人のアイディアで個性的に
住居部分は玄関・リビング・キッチンの間の建具を取り払い、階段を中心としたコの字型のオープンスペースを造りました。階段の下あたりにタイル貼りのキッチンを大工さんが造作。その隣の大きな木のテーブルが家族みんなの憩いの場所です。
「階段を移動せずに広々としたリビングができました。収納は扉のないごくシンプルなものですが、自分でカーテンやラックを付けて工夫するのが楽しい」と奥様。
「市販のキッチンは、引き出しや扉の素材次第で価格がどんどん高くなってしまいます。手づくりだから、必要ないものは造らず、こだわりたいところは少し贅沢をし、お客さまが満足するキッチンを造れるのです」(白田さん)。
予算の点で吹き抜けは実現しませんでしたが、そのかわり階段室の壁をくり抜いて、あかり取りのための小窓を造り、手すりを取り付けました。「明るくなりましたし、風の通り道にもなっていて爽やかに過ごせます」(奥様)。
リビングのフロアには道産カラマツ無垢材を使いました。「肌触りが最高。ここだけは少しだけ贅沢をしましたが、大満足です」(伊藤さん)。
「大切に住んで下さっていることが伝わってきて思わず嬉しくなります。住む人のセンスが感じられるいい家になったと思います」(白田さん)。
記者の目
予算的・技術的にできることとできないことをきちんと整理するのがリフォームを成功させる秘けつのようです。市販のカラーボックスや金具などを上手に利用した収納術もお見事でした。
お知らせ
伊藤さんが開院した「東洋医学研究所」のご案内を最後に載せましたのでご覧下さい。
体の不調の原因を、自律神経や骨格バランスの不均衡と考え、独自の治療を施します。
2010年08月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。