アウラ建築設計事務所(札幌市)の山下一寛(かずひろ)さんは、車いすで暮らす人の住宅や高齢者住宅など、身体状況や介助を考えた住まいを数多く手掛ける建築士です。
取材に応える山下さん(2022年、M邸にて撮影。写真はすべてiezoom)
前編でご紹介したIさんの家づくりでは、自ら設計を担当するのではなく、すでに別の住宅会社と進めている計画を第三者の立場から見てアドバイスする「セカンドオピニオン」という形で関わっています。後編では山下さんにお話をうかがいます。
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住宅設計に「セカンドオピニオン」の選択肢を【前編】 Iさん家族の車いす住宅
「ご家族がこれからどう暮らしたいのか。そこから考えていきます」
山下さん 図面を見る前に知りたいのは、その家族がこれからどんな暮らしをしたいのかということです。住宅設計のセカンドオピニオンも、そこから始まります。その後、計画全体を確認し、家づくりがどのように進められているのかを聞き取ります。
そのうえで山下さんがIさんに確認したのが、玄関から室内への動線、水回り、トイレ、浴室など、将来車いすを利用するようになったときに必要になるスペースです。
山下さんが手がけたレストラン「石のうえ」。緩やかなスロープから車いすでそのまま入店できる
例えば、道路から玄関へ続くスロープは、勾配が基準に合っているかを確認するだけなら、技術的なチェックで済みますが、山下さんは、さらに問いかけます。
「自分で上り下りさせたいですか。
それとも介助するんですか」
Iさん家族の場合、将来車いすを利用する可能性があるお子さんは2人です。本人が自力で移動することを目指すのか。それとも家族が介助するのか。それによって、必要なスペースも、家族にとっての使いやすさも変わってきます。
山下さん 寸法や勾配といった知識は「技術的な話」に過ぎません。本当に大切なのは、その数字の先にある暮らしを考えることです。
例えばキッチンについても、図面からいくつか疑問が見つかりました。冷蔵庫が通路側へ出ていて、移動するときにぶつかる可能性はないか。
車いす対応のキッチン(F邸)
カップボードとキッチンの間には十分なスペースがあるか。カウンター下を空けて車いすが入れるようにするのか。それによって収納力が変わるので、「その辺はイメージできていますか」ともお聞きします。
山下さん すぐに結論は出さず、「これは、どういうお話になっていますか」と確認します。そして相談者が分からなければ、現在設計を進めている住宅会社に確認するよう促します。
セカンドオピニオンは、元の設計者を否定するためのものではありません。
今ある計画について「なぜこうなっているのか」を一つずつ確かめ、施主と設計者との話し合いを深めるためのものだと考えています。
将来が分からないからこそ「変えられる家」に
車いすからの移乗がしやすいワイドなトイレ。3段階式の吊り戸を採用している(M邸)
トイレは大きさを確保すれば解決するわけではありません。車いすから便器へどう移乗するのか。本人だけで使うのか、家族が介助するのか。今の段階では分からないことがありますが、山下さんは、それでもいいと言います。
山下さん 大切なのは、分からないことを分からないままにせず、一度考えてみること。そして、将来答えが変わったときに対応できるようにしておくことなんです。
そこで山下さんが着目したのが、床のつくりでした。もしコンクリートで床をつくり、内部に配管を納めてしまえば、将来トイレのレイアウトを変更したくなったとき、大掛かりな工事になる可能性があります。
山下さん どう使うかまだ分からない場合は、メンテナンスや変更がしやすい構造にしておくべきでなんです。
入浴はベッドにストレッチャーを横付けし、電動式介護用リフトで移乗。左側にある浴室へ最短距離で真っ直ぐ移動できる(M邸)
車いす住宅には、必要な通路幅や回転スペース、スロープの勾配など、さまざまな設計上の目安がありますが、僕は暮らしとか、生き方について、じっくり時間をかけて話します。
同じ言葉を使っていても、相談者と設計者が思い描いているものは同じとは限りません。山下さんは、それを「赤」という色に例えます。
スタイリッシュなM邸。「介護住宅っぽくない家を希望しました」とMさん
山下さん 僕にとってはこの赤が大切で、大好き。でも、僕の赤とその人の赤とは違うことがあります。それを「同じ赤」にしていく作業が重要だと思っています。
介護についてどう考えているのか。
子どもたちにどこまで自立してほしいのか。
どんな暮らしを守りたいのか。
言葉の意味を少しずつすり合わせていくことで、初めて、その家族に必要な住まいの姿が見えてくるんです。
設計のアドバイザーがいてもいい。これまでの経験から伝えられることがある
「石のうえ」は、車いすのまま入店できるバリアフリーレストラン
山下さんの場合は、車いす住宅や高齢者住宅などで培ってきた経験だけでなく、「人の話を聞くこと」そのものが自分の強みではないかと考えています。
山下さん 型にはまった家づくりじゃなくて、「こんなこともできるよ」と伝えたい。これから家を建てる人たちには、「僕と1回やってみよう」と言いたいです。
山下さんは、これまでご自身が培ってきた経験を、ぜひ活用してほしいとも話してくれました。
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住宅設計に「セカンドオピニオン」の選択肢を【前編】 Iさん家族の車いす住宅
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仲間が集まりアクティブに過ごせるスタイリッシュな車いす住宅 札幌市
車いす対応のバリアフリーレストラン「石のうえ」/札幌市Iさん
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