立ちはだかる「予算の壁」
丸三ホクシン建設(以下、ホクシン建設)からの見積もりを待つこと約一週間。建築家の奥村さんがホクシン建設からの見積もりを持って、わが家にやってきた。いつもながらポーカーフェイスの奥村さん。静かに2枚の見積書を広げた。ハテ?2枚??見積もりをお願いしたプランは1つだったはずだが...。総額 「1650万円」と「1600万円」の見積書2組。奥村さんによると、前者が同じものを新築した場合、後者がリノベーションの場合の金額だという。その差 50万円也。
「えーっ!?」(夫婦)
「この結果には僕も驚きました~」(奥村さん)。
「50万円の違いだったら断然、新築にします」と言いかけた私を遮り、夫は「いずれにせよ予算オーバーですね」と言い出した。奥村さんは夫の反応 を想定していたようで、すでに修正金額が書き込まれた見積書と減額した際のリノベーションプランを広げた。すると、奥村さんは減額できそうな項目を挙げ、さらにどのくらいの金額で収めることが可能かを細かく説明し始めた。必要最低限まで無駄を省いて切り詰めたとしても、私たちが提示する建物の予算1400 万円(総額2200万円から土地代を引いた額)という数字は現実的に難しいという話だった。
<写真:奥村さんが描いた新築のイメージスケッチ。夢が膨らんだ。>
3ヶ月余りかけて奥村さんと煮詰めたプランはいったい何だったのか...。減額したリノベーションプランは外物置やカーポートが省かれ、気に入っていた土間スペースもなくなっていた。1400万円以内が無理なことは、私たちが見ても明らかだった。そこで、われわれは「あと100万円増やそうか...」という判断をせざるを得なくなった。たかが100万、されど100万。いつも妨げになるのは「お金」のことばかり...。家づくりにおいて幾度わが境遇を恨んだことか...。
「家づくりのなかで、ここが一番辛い時なんです。がんばりましょう」(奥村さん)
「...」(妻)
<写真:わが家の原型となったプランがこれ。>
「一応、ご参考までに」。奥村さんは重く淀んだ空気を打ち消すように、準備していた新築用図面を広げた。できる限り無駄を省き、なおかつ今まで試行錯誤してきたプランが無駄にならないよう、新たな秘策を考えてきてくれたのだ。私たちはそもそも宮の沢の土地に建つ古屋が気に入り、リノベーションを希望したわけではなく、金額的に抑えるための仕方なくの選択だった。そうそう、そうなのだ!50万円の差額でリノベーションにこだわる理由もない。
<写真:古屋解体後の宮の沢土地。>
ここで、まさかの<新築>構想が復活!自分でも怖いほどに短時間で気持ちが移る。野生の部分というか、なりふり構っちゃいられないほど真剣というか。
もう古屋の構造にとらわれることなく自由に建てられる。この思いがけない局面に、われわれ夫婦と奥村さんの距離感がぐっと近くなった(気がした)。 奥村案は北斜面東南向きの立地を活かし、南側に庭スペースを広く設けた東西に長細く建物を配置したプランだった。リノベーションプランで煮詰めてきた間取 りも収まり、とてもシンプルなものとなった。しかし、リノベーションプランでは延べ床面積27.55 坪が、新築プランでは25.18坪とさらに小さい。 これには夫は不満の面持ち(完成まで不服)ではあったが、このプランで再びホクシン建設へ見積もりを出してもらうことにした。
さらに1週間。小さくなったプランの見積もりは「1630万円」。ここ最近の原油価格高騰で、前回の見積もりよりも単価の上がった建材がいくつも あった。時間を掛けるほど、もっと状況は悪くなりそうな兆しだ。ホクシン建設からは「1500万円ではこういうプランになります」という、図面付きの見積もり も用意され、それを元に新たな減額プランが奥村さんからも提案された。
ホクシン建設との見積もりのやりとりが2.3回交わされた後、同社の首藤社長が初めてわが家を訪れた。これまでのやりとりと「工務店社長」の響きか ら、脂っこいイメージ(独断と偏見です)を勝手に持っていたが、首藤社長は物腰柔らかで、そよ風のようなさわやかな声の持ち主だった。そして好印象だった のは、見積もり金額に対して私たちの聞きたいことを汲んで、はぐらかさず真摯に答えてくれたこと。さらに、施工をお願いする決定打となったのは
「うちは大工たちが気持ちで家を建てます。気持ちが入ってないと良いものはできません」との言葉。その実直な職人魂に感じるものがあったのだ。
「この人たちと一緒に家を作っていきたい」、心からそう思った。
その後、さらに3ヶ月。予算を減額するため、家の隅々にわたるあらゆる項目で検討し見直しをかけていった。その際、ホクシン建設からは施工上可能となる減額のアイデアをいくつも出してもらった。以下は減額になった項目の一部である。
1. 窓 無駄のない配置と数、素材の変更(一部を木製から樹脂製に)
2. 壁 塗り壁からPB板とヌキ材による水性塗装に変更
3. 建具 トイレと寝室以外はなし。収納はカーテンに
4. 換気 ダクト式からパイプファンに
5. 暖房 熱効率を活かした配置で、パネルの数を減らす
(減額効果の高い順)
古屋の解体を終えた7月吉日。ホクシン建設仕切りのもと、地元の神社から神主さんに来てもらい地鎮祭を執り行った。形式的とはいえ、何か神聖な気持ちになった。
これから長く暮らすこの地に、「よろしくお願いします」と家族で挨拶をしたのだった。(続く)
<写真:2008年7月26日。雲ひとつない晴天のなか地鎮祭を執り行った。>
2009年06月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。