新築住宅でのバリアフリー対応は、現代の住宅では常識、と思われるかもしれませんが、「トイレの手すり位置が遠すぎて手が届かない」「便器が低すぎて立ち上がりにくい」「パネルヒーターが伝い歩きの傷害物になる」「段差1センチが大きな障害になる」など失敗例も少なくありません。ノーマライゼーション住宅財団発行の、福祉住宅の事例集「ふれあい」の担当バリアフリーライター、西村裕広がレポートさせていただきます。
バリアフリーに定説無し? 使い人の身体状況に合わせる
バリアフリーと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょう?手すり、スロープ、段差解消など様々あると思います。 ここ10年ぐらいの間に、バリアフリーの技術や機器類、建具などは発展してきました。しかし施主の身体状況にあわせて適切な設計・施工が成されなければ、いくら最新の技術や機器を取り入れても全くの無意味になってしまう恐れがあります。無駄なお金がかかる上に快適に使えない、そんな失敗の危険性があるのがバリアフリーです実際そのような事例を、これまで数多く見てきました。施工会社が施主の身体機能を合わせたつもりでトイレに取り付けた手すりの数は7本。ところが実際使用しているのは2本だけ。玄関にスロープを付けたが、勾配がキツすぎて車いすでは自力で上れない...そういった失敗談は、今でもよく耳に入ってきます。
使う人の身体状況と日常動作を正確に見極め、的確な用意をすることがバリアフリーにおける最も肝心な点です。
自立生活のため?介護のため? 目的によってプランは変わる
ひと口にバリアフリーと言っても、人によって目的は異なります。大きく分けると、次の3つのどれかに当てはまるのではないでしょうか。①障がいがあっても自立生活がしたい、②自力では生活できない重度の障がいのある家族を介護するため、③生活動作の一部は介護を受けながら、できることは自分でやりたい。 同じバリアフリーでも、①~③のケースでは内容がかなり異なってきます。施主が自分の要望をしっかりと認識し、それを設計・施工側に伝える。これは一般の住宅作りにも共通する大切な事柄です。前述したように人の身体状況は10人10色。バリアフリーの設計・施工の経験豊富な企業でも、前例のない身体状況の人に出会うことは珍しくありませんから、施主の要望の正確な伝達が非常に重要です。 失敗が無いようにするためには、障がいのある家族が利用している病院やリハビリ施設の医師や理学療法士にアドバイスを受けながらプランニングを進めていくといいでしょう。どの病院や施設も気軽に応じてくれるはずです。老後に備えたバリアフリーをするには?
住まいを建てる場合、一生そこで暮らすことを前提にする人がほとんどなのではないでしょうか。最近では「今は元気だけど老後も安心できる家づくりをしたい」と考える人が増えてきているようです。 老後、体のどの部分が衰えていくのかということ、どんな病気にかかるのかなどということは予測できません。亡くなる直前まで元気なことだって考えられます。 先々を見越したバリアフリーは困難ですが、様々な状況に対して柔軟に対応できるようにしておくことは可能です。これから家を建てる人にはぜひ実践してほしいと思います。室内はフラットにしておくのが望ましいでしょう。玄関やトイレの内壁の内側に下地を施工しておけば、将来手すりが必要になっても容易に取り付けることができます。トイレと納戸など大きな収納スペースを隣り合わせた間取りにしておくと、家族の誰かが介護を必要になった場合、あるいは誰かが車いすの生活になっても、トイレのスペースを拡大するリフォームがしやすくなります。
「予測のバリアフリー」ではなく「バリアフリーにできる準備」をしておくのが、老後の不安解消のカギです。
バリアフリーの少ない情報を入手するには?
バリアフリーへの関心が高まりつつも、情報は非常に少ないことを感じます。札幌所在の民間の財団法人、ノーマライゼーション住宅財団では毎年、福祉住宅の事例集「ふれあい」を発行しています。私は数年前からその編集をお手伝いさせていただいており、これまで60件ほどの事例を取材してきました。今回ご説明させていただいた内容は、バリアフリーのほんの一端です。今後は更に詳しい説明や事例の紹介をさせていただければ幸いです。財団法人ノーマライゼーション住宅財団
http://www.normalize.or.jp/
《プロフィール》
西村裕広(にしむらやすひろ)
障害者に関連するNGO職員などを経てフリーライターに。福祉や住宅、自転車など様々な分野で執筆。
事例レポート一覧
●工夫を積み重ねて自立生活が可能な環境に
●日本家屋の美しさそのままに 快適なバリアフリーを実現
●デザイン性を重視した車いすでも快適な住まい
●昔のままのデザインを残し 自立と介護双方に配慮
2010年05月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。