Column いえズーム コラム

北海道でも人気上昇中!夏も冬も快適な全館空調ってどう?

記録的な暑さが続く札幌


ここ数年、北海道も暑い夏が続いています。札幌や帯広、北見では、最高気温が35℃を超える猛暑日も何度か記録しました。2025年の札幌は、過去最高となる35日も真夏日を記録し、さらに記録を更新中です。夏の猛暑対策にエアコンをリビングに設置した人も多いと思います。しかし「快適だから」と寝室や子ども部屋までエアコンを取り付けると、ずいぶんお金がかかりそうですね。


全館空調のイメージ(日本住環境ホームページから)


そこで最近道内でも注目されているのが全館空調。暖房だけでなく、冷房もエアコン1台で全ての部屋に行き渡らせることができるので、1年中快適に過ごせます。しかし、新しい方式のために、具体的にどんなしくみなのか、注意点はあるのかなど、情報が不足しています。そこで、全館空調について紹介し、これから全館空調の付いた家をどうすれば建てられるかについてまとめました。


目次

1.夏も冬も快適な全館空調



全館空調は、エアコンの温風や冷風を各部屋に送って吹き出すことで、どの部屋も24時間ほぼ均一な温度に保つ冷暖房システムです。北海道で最も普及しているパネルヒーター使用の温水セントラルヒーティングと比べて以下のような特徴があります。

 ○冬だけでなく夏も全部屋を冷房し24時間ほぼ一定の室温の快適な暮らしができる
 ○窓際にパネルヒーターを設置する必要がないので部屋を広く使える
 ○不凍液のメンテナンスが必要ない
 ○加湿機能など付加機能を備えたシステムもある

iezoomでも、最近は全館空調を採用した住宅の実例記事が数多く掲載されています。
○省エネで快適!全館空調×ZEHの木のぬくもりライフ 恵庭市Yさん/(株)キクザワ
https://iezoom.jp/entry-3932.html
○全館空調「YUCACOシステム」で暑い夏も快適 札幌市Tさん/アシストホーム
https://iezoom.jp/entry-3813.html
○北海道初、当別町に建つ伊礼智氏のi-worksは創作家具で地域性豊か【後編】
https://iezoom.jp/entry-3781.html
○パッシブ換気で暖かく空気がきれいな農家の住まい 江別市T邸/松浦建設
https://iezoom.jp/entry-3761.html
○光熱費削減&卓球部屋を実現。7年学んだ納得の家づくり 函館市H邸
https://iezoom.jp/entry-3145.html
○太陽光発電を壁に設置して冬も電気を自給 大仙市Nさん/村上工務店
https://iezoom.jp/entry-4111.html


各部屋にエアコン付けると室外機だらけ!?


夏対策でエアコンを1階リビングに設置しても、2階の主寝室や子ども部屋は涼しくできません。冷たい空気は下に溜まる性質があるためです。かといって、2階にもエアコンを設置するとお金がかかり、住宅の外には室外機が2つも3つも並ぶことになってざわざわします。全館空調は、一部を除いてエアコン1台で家全体を暖冷房できるため、メリットが大きいと言えます。


北海道住宅新聞2025年1月5日号よりグラフ作成


北海道住宅新聞が2025年1月5日号で道内の住宅会社を対象に行った住宅仕様アンケート調査では、全館空調を採用している住宅会社は道内で約8%でした。エコジョーズやエコフィールによる温水セントラル暖房、エアコン単独運転に比べるとまだまだ少ないのですが、最近採用する住宅会社が増えています。



全館空調が増えてきた原因の1つに厳しい夏の暑さがあります。たとえば札幌市では、2000~2004年と2020~2024年で6~8月のアメダス観測データを比べると、最高気温が30℃を上回る真夏日が2000~2004年は年平均5.2日だったのに対し、2020~2024年は同18.6日と3倍以上に増えています。ちなみに、今年2025年は既に35日も真夏日を記録しており、観測史上最高となっています。また、最低気温が20℃を上回る日は、2000~2004年が同10.0日だったのに対し、2020~2024年は同33.4日と同じく3倍以上に増えました。データから見ても、北海道でも冷房が必要とされる時代が来たようです。

北海道では1990年代に温水セントラル暖房が主流となり、その快適さで長らく主役となりました。暖房に関しては、コストパフォーマンスや実績で温水セントラル暖房の優位性は変わらないでしょうが、暑い夏が続く限り、全館空調は今後も普及が進む可能性が高いのではないでしょうか。

2.全館空調ってどんなしくみ?


コンフォート24(システック環境研究所)の全館空調


全館空調システムは、暖冷房エアコンから出る温風や冷風を、各部屋の床下空間や天井から吹き出し、全ての部屋をほぼ均一な温度に保ちます。24時間運転するため、設定した室温が維持され、室温と数℃しか変わらない風を吹き出すため、不快感がないという声が多いようです。


暑いときだけ冷房を付けると、一気に室温を下げようとするため寒く感じる


一方で、リビングに壁掛けエアコンを設置して暑いときだけ冷房する場合は、運転開始時は室温が上がっているため、運転開始時にかなり冷たい風が出て急速に冷やそうとします。エアコンの冷風が不快感を伴うのは、この温度差のある冷たい風が勢いよく吹き出すためです。


キクザワのオリジナル全館空調の家。UA値0.18、C値0.12と超高断熱高気密(https://iezoom.jp/entry-3932.html)


エアコン1台で家全体を全館空調するには、住宅に高い断熱性能と気密性能が必要です。現在、国の省エネ基準では断熱性能は断熱等性能等級4、気密性能は規定がありません。しかし、全館空調が省エネ性と快適性を両立させるためには断熱性能は2ランク高い断熱等級6(北海道の場合UA値0.28以下)、気密性能はC値0.5cm2/m2以下が必要と言われています。iezoomに参加している住宅会社は、多くがこうした高性能住宅を建てることができます。

他の空調方式と比較して注意しておきたいこともあります。たとえば暖房の快適性という点では、ふく射と対流を併用する温水セントラル暖房の方が快適だと感じる人も多いです。また、温水セントラル暖房では、放熱パネルのサーモバルブで各部屋ごとに温度差を作ることができるため、「寝室は3℃くらい温度を下げたい」という場合に調節しやすいのですが、全館空調は一部の製品を除いて部屋ごとの調整が苦手です。

このほか、壁掛けエアコンの単独運転と比べると、暖房や冷房の立ち上がりが遅くなります。全館空調は少ないエネルギーで効率良く24時間冷暖房を続ける考え方なので、旅行などで何日も不在になる時にスイッチを切っていくと、元の室温に戻すまでに大きなエネルギーが必要となります。これは温水セントラル暖房と同じで、24時間運転していれば快適性が高くなります。

3.快適性や暖房費はどうなの?

電気代が高騰している中、「24時間運転する全館空調を採用すると冷房費や暖房費が余計にかかるのではないか?」と気になる方も多いと思います。

全館空調システムを提供しているメーカーでは、こうした疑問に対して暖房費や電気代の実測データを公表しています。

たとえば、後志・余市町の住宅で実測した年間の電気料金が公表されています。オール電化住宅で、暖房、冷房、給湯、家電の使用も含めた全ての電気代が年間約14万円と月平均1万2000円ほどに抑えられています(基本料金は別)。真冬でも1ヵ月2万5000円程度です。冬も室温は22℃前後を維持。この住宅の断熱性能は、断熱等級6をクリアしており、高性能で電気料金が比較的低く抑えられていることがわかります。

この全館空調は、3タイプに分類できます。道内で販売されている7製品について、簡単にまとめてみました。

○市販のエアコンを使う
市販のエアコンを利用するのが、YUCACOシステム、コンフォート24、エアボレーネクストの3製品。市販のエアコンを利用できるため、エアコンが故障した場合、比較的安価に取り替えることができるメリットがあります。
まとめてみました。

○専用エアコンを使う
ウイズエアーとZ空調は、専用品のエアコンと熱交換換気システムをセットで使って設計し、施工します。専用品なので設計はしやすく、性能も担保しやすいと思いますが、コスト面や故障時の製品取り替えに不安は少し残ります。なお、ウイズエアーは、部屋ごとの温度調節が可能とアピールしています。

○ダクトを使わない空調
エコブレス、BAQOOL(バクール)
エコブレスもBAQOOLも道内企業が開発した全館空調です。パッシブ換気をベースにしているためダクトを使わず、施工やメンテナンスが比較的簡単に済むのが特徴です。

4.誰でも全館空調の家を実現できる「エクシス」



ここまで、全館空調のしくみやメリット・注意点について説明してきました。実際に「全館空調を新築に入れてみたい」という場合、住宅会社が全館空調について理解があり、断熱等級6以上、0.5cm2/m2以下の気密性能などの高性能住宅を建てている実績がある会社を選びましょう。それ以下の性能でも導入は可能ですが、冷暖房費がかさむ可能性がありますし、快適性が低くなる可能性もあります。安心して全館空調の家を建てるためにはどうした良いでしょうか?


4社が協力して全館空調の家「エクシス」が誕生


そこで、高性能住宅の資材や工法を開発した4社が協力して、断熱・気密・全館空調を高次元で実現する住宅『エクセレントハウジングシステム(エクシス)』を開発しました。全館空調「コンフォート24」を開発・販売するシステック環境研究所、高性能ウレタンフォーム断熱材のアキレス(株)、高性能トリプルガラス樹脂サッシのYKK AP(株)、そしてダクト式第3種換気システムの日本住環境の4社です。


高性能住宅「エクシス」のイメージ


エクシスの家づくりは、設計段階から断熱や開口部(窓や玄関ドア)の最適な提案とノウハウの提供をアキレスとYKK APが行います。次に理想的な全館空調実現のために、日本住環境とシステック環境研究所が協力してルフロの換気計画と全館空調の設計と施工指導を行います。全館空調の実績がない工務店でも省エネ性の高い高性能住宅として導入できるところが評価され、2022年度省エネ大賞(製品・ビジネスモデル部門)資源エネルギー庁長官賞を受賞しました。全国で徐々に採用実績が増えています。


エクシスホームページ 


コンフォート24では、専用の空調室や専用エアコンを使わず、現場で組み立てる空調ユニットにすべての部材がコンパクトに収まっています。ユニットには、市販の壁掛け型高性能エアコンと空気を各部屋に送るためのDC送風ファンやダクトを内蔵しています。これらの部材はすべて汎用品のため、万が一機器が故障しても交換しやすく、コストが安く済むメリットがあります。

5.エクシスで全館空調の家を建てるには

エクシスを建てたいという方は、以下の手順で家づくりを進めます。

(1)提案書・見積もり書提出
建築予定の住宅図面や性能データ(UA値)などの情報をもとにエクシスの提案書・見積書を作成します。



(2)設計・施工支援
エクシス導入が決まりましたら、空調図・設計書(計算書)を作成いたします。断熱・気密・開口部の工事に関して、4社からアドバイスをさせていただきます。



(3)空調ユニットの設計・製作
全館空調システムのユニットを設計・制作いたします。
ユニットは現場で半日程度で組み立てが可能で、設備工事会社で簡単に設置できます。



(4)完成後に性能検査を行います
住宅の完成後、温度・湿度、快適性PMV、熱特性(サーモグラフィー)、電力消費量、気密数値などを測定いたします。試運転・調整で設計性能が確かであるかを確認し、省エネ大賞マークを付与いたします。



エクシス開発にあたり、日本住環境では全館空調の高い送風能力を活用するため、ダクト式第3種換気システム「ルフロ400」の給気口を空調ユニットの近くに設け、家中の空気循環の中に必要な外気を取り入れて、家の隅々まで新鮮な空気が巡るように換気計画を行っています。

冬の快適な暖房だけでなく、酷暑が続く夏にすべての部屋を均一に冷やせて電気代も安く済む全館空調の家。じっくり研究して、後悔のない家づくりにしたいですね。

この記事は連載コラム「住宅用24時間換気システムを考える」の第9回です。

「住宅用24時間換気を考える」シリーズ
24時間換気を住宅に設置することが法律で義務づけられていますが、「どこにありますか?」と住んでいる人に聞いても、「えーっ?どこにあるんだっけ」となることも。それぐらい、わたしたちは24時間換気のことを意識せずに生活しています。ところが、コロナ渦をきっかけに、24時間換気の果たす大切な役割がクローズアップされてきました。

そこで、住宅用24時間換気システムの開発・販売を長年行っている日本住環境(株)の協力で、24時間換気の役割から北海道に適した換気システムの選び方、メンテナンスなどをわかりやすくまとめ、連載記事としてお届けしています。

シリーズ「住宅用24時間換気を考える」

第8回 理想の換気システム~建材メーカーがダクト式第3種換気を推す理由

第7回 空気の汚れが見える!CO2モニターをリビングに置こう!~24時間換気を使いこなす~

第6回 24時間換気のメンテ問題を解消する取り組み 林基哉教授に聞く(2)

第5回 新型コロナの感染拡大防止に役立つ24時間換気 林基哉教授に聞く(1)

第4回 10年以上使い続ける24時間換気システム。掃除のしやすさが超重要!

第3回 電気代が高い! 24時間換気システムを止めたら節約になる?

第2回 住宅の空気をきれいに~24時間換気を「性能・メンテ・価格」で比較~

第1回 【熱交換換気or第3種換気】住宅の換気システム、どっちを選べばいい?

2025年09月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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