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みんなで作った小さなわが家3 「あれよあれよ」と土地入手

「あれよあれよ」と土地入手

 数日後、建築家の奥村晃司さんから「一度、お会いして話を伺いたい」との返事がきた。このときの喜びといったら、もう家を手に入れたかのよう。日頃、妻の暴走を食い止める役の夫でさえ「会ってみないと分からないぞ」と言いながらも、口元がゆるんでいたほどである。

taikendan03_img01.jpg約束の日、小樽にある「奥村晃司建築計画室」へ向かった。
ナマ奥村邸は、雑誌で見ていた以上にかっこよかった。カーポートと母屋をつなぐ門をくぐり抜けると中庭つづきの谷には川が流れ、その向こうには紅葉して色づいた山が広がる。この景色を囲むように建つ建物に沿って続く軒下には木製チェアが2脚置かれている。初夏の昼下がりに、ここでビールを飲んだら、どんなに格別だろう。
「ハイ、まいりました」。
もうこの時点で、夫婦は完全に落とされた。ぼーっと眺める夫婦の前に、奥村さんが現れた。おそらく、われわれの無防備にゆるんだ表情は毎度見慣れたものなのだろう。包容力たっぷりの笑みを浮かべ、屋根や外壁の素材など構造的な部分の説明をしてくれた。
<写真:初めて訪れた奥村邸は感動的だった。写真提供/奥村晃司建築計画室>

taikendan03_img02.jpg中に通されると、そこは「事務所」というより「お宅」だった。事務所スペースから見えるキッチン。「ご覧になっていいですよ~」とキッチン収納の中から、お風呂場やユーティリティまで余すところなく丁寧に見せてくれ、解説は構造的なことに終始していた。モデルルームと違い、この生活感がわが家の暮らしと重ねられるのがいい。そのうちに奥さんやお嬢さんたちも帰ってきて、子供たちは一緒に遊んでもらい、しまいには、すっかり奥村さんちにお邪魔したようになっていた。

家の中をひとしきり見せてもらった後、わが家の話に進むと、ぐっと夫の顔つきが変わった。はて?過去にも1回、これと同じ表情を見たことがある。そうそう、車の購入時だ。これは「交渉モード」にスイッチが入った証拠だ。夫にこのスイッチが入ると、目じりのさがったヘラヘラおやじから、いきなりうたぐり深い営業職人へと豹変するのだ。あまりのうたぐり深さに、この人はどれだけ人にだまされ、ののしられるような厳しい仕事現場で生きているのだろうかと妻は心配になる。だが、夫曰く「オマエは甘い!」らしい。
<写真:申し分のない眺めと陽当りに、一目で気に入った宮の沢の「古屋付土地」。>

taikendan03_img03.jpg予算はこれ以上、増やせない状況でそれでもやってくれるか、というような緊迫した内容を、夫はオブラートに包みつつ直球で奥村さんに迫った。すると、奥村さんは「構造的なもので予算を削ることはできません。ですから他の部分で予算を削ります。仕上げには安い既成のものを使えば安く済ませる方法はいくらでもありますが、私はそういうものを極力使いたくないのです。わが家も経費削減でいろいろ工夫しています。できるだけ無垢のものを使いたいから構造材も使っています。この金額ですとかなりシビアになるでしょうが、そういう形でなんとか一緒に考えていきましょうか」。答えは明確だった。さらに、この金額(土地+建物2200万円)では、300万円以下の土地が見つかれば新築も可能かも?という話でもあった。これで納得の夫。妻は、奥村邸の軒下でビールを飲む自分の姿を妄想。もう正気な判断が不能状態。

taikendan03_img04.jpg帰りの車中は、
「奥村さんて柴田恭平似だよね」(妻)
「酒豪な柴田恭平って感じだよな~」(夫)。
またひとつ家づくりの駒を進めたような、何か清々しい気持ちだった。
初顔合わせは、終始、奥村さんペースではあったが、それが自然の流れだったのが非常に気持ちよかった(これも奥村さんの周到に練られた計画だったかもしれないが...)。

さて、それからは現実味を帯びた物件探しとなった。奥村邸をイメージしながら価格も視野に入れつつ、奥村さんと不動産屋からの情報を合わせ、見て回ること2ヶ月。残ったのが「宮の沢」の古屋付土地(187.01㎡)だった。
決め手は
1.地下鉄徒歩圏内であり、通勤に便利。(とくに夫が強く主張)
2.札幌市内を見下ろせる高台にあり、自然環境がよい。
3.東南角地で陽当りがよい。
とくに夫がノリ気であった。
<写真:札幌転勤が決まり土地近くの賃貸アパートに引越。1年の仮住まい生活が始まる。>

しかし、価格が「1000万円」。わが家としては大幅にオーバーである。ノリ気な夫は、例のごとくスイッチオンして不動産屋に強気交渉。最終的に「810万円」で契約成立。この時点でわが家の新築構想は破れた。これには、奥村さんも残念そうであった。土地が810万円ということは、家に掛けられる予算は残り1390万円という訳で...。建築家としては、それはもちろん残念だろうと思う。新築じゃないのは、私も残念だ。

taikendan03_img05.jpg土地が決まると主導権が一変。周りの不動産屋や銀行、建築家から与えられる課題に答えると、怖いくらいに物事がどんどん決まっていった。不動産屋が立てたスケジュールに沿って、銀行の住宅ローンを選定。銀行では、土地のみを先行融資すると大まかなリノベーションプランと見積もりが必要だという。そこで奥村さんにリノベーションプランと見積もりを作成してもらい融資が確定。すると、すぐに住宅ローンが実行。実感がわかないまま、あれよあれよという間に不動産を所有することになっていた。さらに、奥村さんに作ってもらったプランをもとに、私たちの要望を伝えて、プランがおおむね固まったところで施工業者も決めることとなった。
<写真:定住を決めた札幌1年目の冬。これからどんな生活が待っているのか...。 >

「初家づくり」。「どこか希望の施工業者はありますか?」と聞かれたところで、私たちにはよい大工さん(施工業者)の基準すら分からない。できれば信用のおける大工さんにわが家を作ってほしいところだが、これも建築家に頼るしかない。奥村さんとは1ヶ月そこそこのつき合いではあるが、これまでの対応や仕事のなかで信用できる人物だと感じている。そこで、まずは奥村さんが挙げた「丸三ホクシン建設」に見積もりを出すことにした。さて、見積り額はいかに...。(続く)

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2009年05月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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