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北海道初i-worksの家づくり【前編】 建築家・伊礼智さん×辻野建設工業 当別町


建築家・伊礼智さんが全国50社以上の工務店と取り組むi-works projectが北海道に初上陸。2024年4月からは辻野建設工業(当別町)が道内初となるi-worksの家づくりを本格始動しました。

伊礼智さんは2006年「9坪の家」、2007年「町角の家」で環境建築作品を表彰するエコビルド賞を、2013年には、このi-works projectでグッドデザイン賞を受賞するなど、心地よさと意匠性を兼ね備えた住宅設計で知られる、日本を代表する住宅作家の一人です。

伊礼さんが提案する規格型住宅・i-works projectとはいったいどんな家なのでしょう。今回は伊礼さんを招いたトークイベントがあると聞き、i-works×辻野建設工業の家づくりについて取材しました。

コストを抑えた高品質・標準化によって住宅業界のプレタポルテを目指す


写真はi-works1.0外観


i-worksは、多くの人に心地よい住まいを提供したいという想いから、2012年にスタートしたプロジェクトで、住宅の細かな部分を標準化することで、コストを抑えつつ高い品質を実現する家づくりをコンセプトにしています。


プロジェクトについて話す建築家・伊礼智さん


伊礼さん ファッションの世界に例えると『オートクチュール』のフルオーダーではなく、上質さを備えた既製服『プレタポルテ』のような住まいを、平均的なサラリーマンでも手が届く価格で提供したいと思ったのが始まり。プランは延床30坪ほどの大きさで、「ちいさくても豊かな暮らし」を提案しています。



建築家のフルオーダー住宅は、2つと同じものがなく、その時に起きた課題が次の現場で同じように起きる場面が少ないのですが、規格型で同じものを何回もつくることで気づきと進化があるんです。i-worksの基本プランは5つまで増えましたが、プランやディテールのブラッシュアップを重ね、クオリティは向上し続けています。



現在では全国50社以上の工務店と提携・展開するi-works。北海道では辻野建設工業が初の提携工務店となり、現在JR当別駅近くにモデルハウスを建設中です。標準仕様は伊礼さんが長年信頼して使ってきた、高寿命で流行に左右されない建材パーツを厳選して採用しています。

構造材をはじめ枠回りや階段も国産材でプレカット化するなど、住宅全体をパッケージ化することで難易度の高い作業の合理化を図っています。

地元の工務店や家具工房の造作家具がシンプルな住まいに彩を添える



キッチンや洗面化粧台、家具などは地元の工務店や家具工房が造作することで、意匠性とメンテナンス性を高めているそう。「地域性や、住み手の個性が出てくるのが楽しい」と伊礼さんは語ります。



  旅する木の造作キッチンが入った施工事例 詳しい記事はこちら

今回は辻野建設工業との協業で実績のある家具工房・旅する木(当別町、須田修司社長)が担当します。

北海道仕様の断熱・気密とパッシブ換気システムを採用した高性能住宅


伊礼氏(左)と辻野建設工業の辻野社長(右)


北海道初となる辻野建設工業とのプロジェクトでは、特に雪国対策が重要になってきそう。同社が推奨する、室内外の温度差と室内空気の自然対流を生かすパッシブ換気システムも導入予定です。

辻野社長 性能面では断熱・気密を辻野建設工業の標準仕様で設定しており、UA値は0.24以下、C値は0.3以下を目指しています。

伊礼さん 積雪量の多いエリアなので、屋根に積もる雪の重さに耐えられる構造が必要です。敷地に対する住宅の配置計画では、雪捨て場の問題もあります。断熱・気密面では施工経験の豊富な辻野さんに安心してお任せしています。

パッシブ換気システムを初めて採用するので、構造を理解した上で設計に落とし込むのに苦労しましたが、非常にエコで省エネな換気システム。i-worksが掲げる「小さくても豊かな暮らし」にぴったりな換気システムだと思います。

伊礼さんへのQ&A プロジェクト参加企業の想い



会場は当別町内のカフェ・Cafe&Kitchen Offshore。伊礼さんの設計に関心を抱く一般の参加者をはじめ、辻野建設工業と連携する家具工房、造園業者などが集まり、アットホームな雰囲気で行われました。最後に参加者の皆さんの声を紹介します。



辻野建設工業でマイホームを建てた高橋のぞみさんは、整理収納アドバイザーとして活動中。家づくりでは伊礼さんの著書を参考にしたそうです。
高橋さんの自邸の詳細はこちら

高橋さん 人のために使うスペースと物のために確保するスペースをどうのように構成していきますか?

伊礼さん 家をコンパクトにするために、小さな家では必ず外置きの物置を設けています。i-worksでは玄関わきや、屋根掛けの駐車スペースに物置を組み込んで確保するようにしています。



辻野建設工業とは家具提携や設計からの共同プロジェクトなどの協業を重ねてきた家具工房・旅する木(当別町)代表の須田修司さん(写真左)と、造園家でOne&Nature(札幌市東区)代表の川出健太郎さん(写真右)は共に今回のモデルハウス建設に携わるメンバーです。

須田さん 「標準化」は、家具製作にも共通した課題だと感じました。例えば私が15年に渡ってつくり続けている木製の車椅子はトライ&エラーの繰り返しで、改良を重ねてきましたが、完全オーダーメイドの1点もの。こうした作品に標準化は採用できません。


旅する木が整理収納アドバイザーの高橋のぞみさん宅に製作・納品したキッチン(iezoom掲載中)


一方で、ニーズの高い造作キッチンやテーブルなどは、作業効率をあげる上で部分的に工程を工業化していくことで標準化を図ることも必要だと感じています。手づくりの良さを残しつつ、安定した供給ができるようになることで、販路を広げ、もっと多くの方にうちの家具を使っていただけるようになるからです。

川出さん 庭と建築が調和した伊礼さんの住宅設計に共感し、プロジェクトに参加しました。造園は建物との調和はもちろん、生態系や環境、植栽後のメンテナンスへの配慮も必要です。今回のモデルハウスでは、モミジやアオダモ、タニウツギなど、北海道に自生する在来種で組み立て、当別の自然に溶け込むような仕立てを考えています。



辻野社長 プロジェクトへの参加は、i-worksの家を建てられないかというお客様からの問い合せがきっかけで、若い設計者の育成にもつながると考えて決めました。モデルハウス完成後は、宿泊体験なども企画しています。

都市部はもとより、郊外でも、住宅のコンパクト化がどんどん進む時代です。「小さく豊かに暮らす家」に、たくさんのヒントと可能性を感じた取材でした。

第一棟目となるモデルハウスの完成は2024年9~10月の予定。いえズームでは引き続き、i-works×辻野建設工業の家づくりを追っていきます。続編も楽しみにしていてくださいね!

辻野建設工業のi-works projectの詳細はこちら

取材写真・記事 編集部:松下綾
住宅写真はi-worksプロジェクトより


2024年04月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。

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