札幌市・近郊には地下水を汲むことができるエリアが結構あります。井戸水で生活していた時代は、こうしたエリアに人が住んでいました。
上下水道が通るようになり、地下水脈があるかどうかは人の暮らしに直接影響しなくなりましたが、篠崎社長はこの自然の恵みに再度着目し、
■夏は冷たい地下水を利用して冷気を生み出す
■冬は外気よりも温度が高くなる地下水を使って融雪(毛利式融雪槽/株式会社 毛利産業)する
という方法で、現代の暮らしにこの自然の恵みを活用した仕組みを作りました。
今回は、地下水を利用して温度・湿度を調整するエコで省エネな涼房システムについて石狩市Fさんのお宅をたずね、篠崎社長とFさんにお話をうかがいます。
地下水を利用し「自然な涼しさ」を実現する涼房システムとは
地下水を使ったエコな融雪槽
石狩市のF邸。外装には無害で再塗装の要らないウッドロングエコにどぶ漬け塗装した屋久島地杉を使っています。こちらの面は北向きになっていて、2階には一日中安定した照度を保てる大きな採光窓を配置しました。広い駐車スペースの右手前に見える蓋は融雪槽です。
建物右側面にある地下水をくみ上げるポンプ槽。このポンプから地下水が融雪槽に送水されます。
左/融雪槽の蓋を開けると、中は地下水が噴射されています。冬はこの地下水を使って融雪を行います。
右/地下水が入る前の融雪槽。内部は半径120cm・高さ150cmの大容量です。融雪槽の内側には不凍液を入れた架橋ポリエチレン管がグルグルと巻き付けられています。架橋ポリエチレン管は建物の床下へとつながっています。
床下の冷気を活用する「涼房システム」について教えてください
篠崎社長 涼房システムは、夏に外気温が30度以上の高さでも、家の床下の温度を18~21度前後に保ち、その冷気を活用して自然な涼しさを家中に行き渡らせる仕組みです。
床下の大引きと呼ばれる構造材に架橋ポリエチレン管を吊り下げて全体に這わせます。融雪槽に貯まった地下水で冷やされた不凍液が、この架橋ポリエチレン管を流れると、管の表面に結露が起こります(図1の上部イラスト参照)。
結露水は水滴となって傾斜をつけた防水コンクリート土間に落下します。集まった水は中央の排水口から外の浸透桝に流れ出ます。架橋ポリエチレン管を流れる不凍液は、建物床下と融雪槽を循環することで、常に冷たい温度を保ちます。こうして床下は、涼しい温度と、適度な湿度を保ち続けることができるのです。(図1下部イラスト)
この冷気が風道を通じて2階屋根裏まで押し上げられ、2階の上部から室内全体に広がります。これがラディアント・サーキュレーションを活用した涼房システムの仕組みです。
家全体を空気の循環装置のように設計するラディアント・サーキュレーション・システムについては、
【前編】自然にやさしい冷暖房システム で詳しく解説しています。
部位別の温度を実際に見てみます
スタイリッシュなキッチン。奥に見える開口部は、建物正面に出られる勝手口です。取材したのは8月中旬。外気温は28度ほどでした。
勝手口の手前にある床ガラリを外して、篠崎社長が中を見せてくれました。架橋ポリエチレン管が見え、ひんやりとした冷気が感じられます。
左/床下の防湿コンクリートの表面温度は21.0度でした
右/架橋ポリエチレン管の表面温度は14.9度。融雪槽内の地下水で冷やされ、とても冷たくなっていて、表面には結露水がついていました。
タイルを貼ったキッチンの床表面温度は23.4度でした。床ガラリは開閉式になっているので、隙間の大きさを調整して、室温温度調節が可能です。
「システムを上手く使いこなせようになるまで、少し時間がかかりましたが、調節できるようになると、夏でも玄関に入った途端、自然な涼しさを感じられるようになりました。念のためクーラーも付けたのですが、ほとんど利用していません。足裏にも優しい冷たさを感じ、とても快適です」と奥さま。
家づくりについて奥さまにお話をうかがいます
オーナーのFさんは現在、ご夫婦と生後半年になるお子さんの3人家族です。奥さまに、家づくりや実際の住み心地についてお話をうかがいます。
家づくりのきっかけは?
奥さま 子どもの誕生が大きな理由です。夫婦ともに一戸建てで育ったこともあり、のびのびと子育てができる環境を希望していました。
依頼の決め手は?
奥さま 当初は建売住宅なども検討していましたが、どれも似たような印象だったことと、出来上がっているため、何を使っているのかが分からないという不安がありました。
シノザキ建築事務所さんの建物は、一見して他と違うと感じました。オーナーさんのお宅も数件拝見しながら、使っている素材や仕様などについて、篠崎社長のお話を聞くたびに、安心してお任せできると確信が持てました。
資金計画についても、ファイナンシャルプランナーさんのサポートがあり、無理のない返済計画を立てることができています。
プランについて希望は?
奥さま ほぼお任せしました。設計提案住宅がベースですが、家族構成や暮らし方に対応した間取りにアレンジしてくださいました。
我が家の場合は、キッチンから見守れるスタディスペースや、ダイニング横の畳スペースなど、子育てに適したプランで、とても気に入っています。
キッチンの奥にある隙間を利用した薄型ラックも重宝しています。勝手口はゴミ出しのほか、宅配で大きな荷物が届いた時の受け取りなどにも便利です。
主人のお父さんが大工の棟梁としてこの家の建設に携わってくれて、思い出深い家づくりになりました。洗面台やソファー、収納など、使いやすさやデザインにこだわった造作家具も気に入っています。
連載企画「シノザキ建築事務所の新提案」。最終回は地下水を使った融雪・涼房(自然な涼しさをつくり出す送風)システムについてお伝えしました。
持続可能で省エネなエコハウスは、地下水、自然光、空気の流れ、間伐材を使ったペレット、輻射熱など、身の回りにある自然物や自然現象を活用した「暮らしの知恵」に溢れていました。
このエコシステムはまた、断熱・気密に優れた高い住宅性能があってこそ実現しています。時代の一歩先を行くシノザキ建築事務所の家づくりは、これからも目が離せません。
この記事は札幌・シノザキ建築事務所が取り組む、
「環境に配慮した冷暖房システム」
「居心地の良い室内環境」
「地下水を利用した快適なエコハウス」
という3つのコンセプトを組み合わせた家づくりを追った連載シリーズの【後編】です。
【前編】自然にやさしい冷暖房システム
【中編】木の温もりあふれる心地よい空間づくり
も併せてご覧ください!
2021年09月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。