白田建築事務所は、住む人のライフスタイルを踏まえた自由設計と、ローコストでありながらも豊かな空間づくりに取り組んでいる会社です。
オーナーのSさん夫妻が傾斜地での建て替えという条件の中で巡り合ったのが、白田建築事務所の一級建築士である白田智樹さんでした。内装のメインに使われているOSB合板と周囲の自然環境が見事に調和しているS邸で、Sさん夫妻と白田さんに話を伺いました。
会社を探しながら、傾斜地というハードルの高さを実感
S邸には、60歳のご主人と奥さま、息子さんが暮らしています。
Sさん夫妻が建て替えを考え始めたのは、25年前に築25年の中古で購入した住まいが限界を迎えたことがきっかけでした。周辺環境や立地のよさが気に入っていたため、建て替えを選んだそうです。
S邸は、川に面した傾斜地にあります。
ご主人 最初にイメージしたのは、木の風合いが感じられる家でした。住宅展示場で見学したり、ハウスメーカーの話も聞いたりしたものの、予算やイメージの違いを感じていて。なにより一番の問題は、土地が傾斜地であったこと。その条件だけで断られてしまうこともありました。
「いえズーム」をはじめ、インターネットで情報収集をした際に見つけたのが、白田建築事務所のホームページだったそう。
ご主人 惹かれたのは、「質」を見極めて、「素」材を生かす、「質」・「素」に暮らす家づくりと、柱や梁が見える設計です。妻も賛同してくれたので、白田さんに相談に乗っていただきたいとメールを送りました。この段階で、ほぼ依頼することは決めていた気がします。
メールを送ったのが、2023年10月のこと。ここから約1年8カ月かけて、家づくりは進みました。
「質」を見極め、「素」を生かす発想でコストを抑えた住宅
新居に思い描いたのは、長年暮らした、地下1階、地上2階のRC造(鉄筋コンクリート造)の広い家だったというSさん夫妻。
しかし、地下室を持つ3層構造の家は、建材の価格高騰のために実現するのは難しい状況でした。話を聞いた白田さんは、早い段階で計画の縮小を提案したそうです。
白田さん 設計するうえで、まず守るべきはご希望の予算でした。そのために、天井を現しにしたり、傾斜地に土留めを造らないで済むように家の奥行きを狭くしたりと、各所に工夫を凝らしています。
建築が始まった頃のドローン写真。
新居を見せていただくと、予算を抑えるための方向転換が、結果、S邸らしい家造りに繋がっていることがわかります。
1階には、水回りと趣味の部屋、2つの寝室が配置されています。
玄関の左側には、大容量のシューズクローゼットがあります。
玄関から室内へ入ると、右手に洗面室やトイレ、左手にバスルームがあります。正面にあるのは息子さんの部屋と収納部屋です。
トイレの隣に洗面室があるので、トイレ内に手洗い場はありません。
脱衣所とバスルーム。脱衣所の天井の扇風機は、明るさの調整ができる照明付きです。
1階の主寝室の奥は、ポールを備えたクローゼットスペースです。
上部収納を付けた息子さんの寝室。
プラモデルが趣味という息子さんの作業兼ディスプレールーム。
片流れ屋根と2階のLDKワンルームで開放感を実現
かつての住まいのような開放感が感じられる造りにするために、2階LDKはワンルームにして片流れの屋根を採用。東側に広がる緑のロケーションを室内に取り込むように窓を配置し、ゆったりと心地よい空間を実現しています。
2階にはLDKのほかに、収納部屋とロフトがあります。シンプルなOSB合板が、窓から見える緑の景色を引き立てます。
キッチンは、複数人が同時に作業できる動線をイメージして造られています。
LDKの窓際に、造作のベンチ・テレビ台を取り付けました。
ベンチは収納付きです。
窓の外には小川が流れています。春は山桜、秋は紅葉が楽しめるのだとか。冬は木々の葉が落ちて、シカなど動物の姿が見えることも。
窓際に作られた小上がりには、ブルー系の色が気に入ってホームセンターで購入したDAIKENの畳を敷きました。昨年生まれたお孫さんのお昼寝スペースとしても活躍しそうです。
ロフト下は収納部屋になっています。
正面の壁のくり抜かれた部分は、仏間になる予定です。
ロフトには、エアコンが取り付けられています。冷たい空気は下に流れるので、部屋全体が冷やされます。
収納部屋の壁全面に、可動棚が造作されています。収納したアイテムは一目瞭然!
植物の水やりや掃除の際に、1階洗面室まで行かずに水が使える、収納部屋にスロップシンクを付けました。
正面中央に見えるのは、ロフトへ続く階段です。
互い違いになったユニークな階段。
吟味したアイテムで、使い勝手と手入れしやすさを両立したキッチン
住宅のキッチンを造るにあたり、Sさん夫妻は研究を重ねたそう。希望したのは、最大3人が調理できること。そして冷蔵庫に二方向からアクセスできることでした。
キッチンは、丸愛ファニチャー製。
レンジフードは、天井付けできるミラタップ製を採用しました。
奥さま 調理スペースが狭くなってしまうので、家族がキッチンの天板を囲んで作業できる造りにしたくて食洗機をビルトインではなく外置きにしたのは、壊れても取り替えやすくしたかったから。IHコンロを囲むようにスツールを置けば、焼肉や鍋料理も楽しめます。
キッチン背面には、使っていた食器棚を置く予定です。
窓の向こうの山の上から、朝日が昇るそうです。
キッチンの隣(写真奥)には大容量のパントリーと温度変化の少ない定温庫を造作しています。
記者の目
S邸の魅力は、建材の質感や構造の仕組みを大胆に生かした設計デザインにあります。そして構造体や下地材を見せる設計を支えているのは、大工さんの高い技術力。余計なものをそぎ落とした住まいの武骨な格好よさに目を奪われてしまう、素敵なお宅でした。
2025年10月現在の情報です。詳細は各社公式サイト・電話等でご確認ください。